なりふり構わず歩き回っていると、人が入り込めるぐらいの洞窟を見つけました。
真樹緒です。
二人が横になっても大丈夫っぽい中々素敵な洞窟を見つけました。
真樹緒ですだいじな事やから二回いいましたこんにちは!


「さむいなー…」


やぁ、実の妹よりもちっこい俺がこのお兄さんを運べるはずも無くてやあ。
あの道からずるずる引きずってきたん。
足もってずるずる引っ張ってきたん。
ご無体なんは百も承知です。
でも俺こんなでっかい人おぶったり持ち上げたりできひんもん…!
おおめに見てね…!


「鞄の中に何かあったかなー。」


とりあえず洞窟にこの人を運んで、傷は大丈夫なんかなぁって思いながら服を脱がしたん。


見たことの無いいい体に、もしかしたらこの人はレスラーなんかもしれへんとか思いながら手の甲につけてるやつを外して。
マントみたいなんは特に破れたりしてへんかったからきちんと畳む。
鎧はぼろぼろやったからすぐに取れた。
鞄の中にあったミネラルウォーターで傷口を洗って、なんか手当てできるもん無かったかなーって探したら今なら二枚増量中って書かれたばんそうこうの箱を発見。


……
………


ばんそうこう



「ぬん…」


やって、傷口このまんまやったらあかんやん。
絶対あかんやん。
ここは何としてでも血とめとかなあかんやん。
結構深いと思うんこの怪我。
殺す勢いでやられてると思うんこの怪我。


「あ、ライター。」


やから一応その傷口塞ぐようにばんそうこうを貼っといたん。
目立つ傷はそれだけやったし、後は腕とか顔とかの擦り傷を洗ってマントを被せてね。
俺のできることはこれぐらいで、この人のためにも俺のためにもこのちょう寒い洞窟どうにかならんかなあって鞄をあさってたらライター見つけたよこれお兄のちがうん。


「……ぬん…」


これお兄のジッポ。
すごい昔から大事にしてるジッポ。
いつやったか俺の一日三十個限定のスペシャルマロンケーキ勝手に食べたお兄への腹いせにぱちってたやつやで。
めだまが飛び出るぐらい高かったはずやけど、ぬう、いいよね。
使わんと俺らここで力尽きてしまいそうやしいいよね。
よだんをゆるさん感じやからいいよね。
やって俺ら寒さでいまにもこごえて死にそうなんやもんいいよね。
背に腹は変えられんて言うもんね。
お兄ごめんねちょびっと借りるオイル買って返すおかね無いけど…!


「燃やすのんはー…」


鞄の中、ごそごそ。
大したもの入ってへんけどごそごそ。

見つかったんは電波が相変わらず無い携帯とー。
筆箱と、財布とー。
お徳用パックの飴ちゃん(いちごみるくとレモン、ぶどうの味が楽しめる)とー。
ばんそうこうが残り後ちょっと。
学校のノートと教科書。



「あ。」



これええやんー。
これ燃やしたらええやんー。
ノートと教科書。
ナイスタイミング。
グッドタイミング。
なんてたってメイドイン紙…!


「着火―。」


教科書の角っこにジッポを近づけてちりちり火を焚いていく。
段々煙が上がって、めらめら炎が揺れるまでの大きさになった。
だいせいこう!
さすが紙!
素敵なもえっぷり!


「燃えろー燃えろー。」


二次関数なんて燃えたらええねんー。
先生のお話聞いてもわけわからへんしいー。
きっとこの先ぜったい俺のじんせいにかかわってけーへんしいー。
方程式までは理解しててんけどやー。
その後からさっぱりやしー。
ばっさばっさ教科書を火の中に放り込んでようやくちょっとあったかくなった。
外を見ればもうほの暗い。
電気とか通ってへんのかなぁ、なんて思うけどここはちょっと俺の知ってる日本と違う気がするからやっぱり電気は通ってへんのやと思う。


俺の知ってる日本では人が道で死に掛けたりせえへんもん。
矢がぶっささってたりせえへんもん。



「あー…ぬくい…」


あったまってきた手をこすりあわせて三角座り。
隣に寝転んでる男の人を覗きこむ。
初めて見た時よりもだいぶ顔色が良くなった男の人は呼吸も穏やかで。
唇の色も紫からほんのり薄い桃色になってるん。
絆創膏がきいたんやろうか。
よかった。



「ふ、あ…」



安心したら思わずあくびが出てきてしまって、あくびが出たらめじりに涙。
ぬー…

今日は走りっぱなしやったし、やっと落ち着けたからかなぁものすごい眠い。
くぁーと長い欠伸が出て溜まった涙がぽろぽろ。


「…ふあ…」


でもこんなとこで寝たら確実に凍死すると思うん俺。
気を抜いたら朝をむかえられやんと思うん俺。
教科書も後三冊やし。
これが全部燃えてしまったらもう何も火つけるやつ無いし。



「…」



ちら、って目の前で横たわる男の人を見てむーんと唸った。


やー、やって寒いやん。
そんでこの人暫く起きそうにないやん。
ほら、人肌ってぬくいやん。

ひまちゃんとくっついてたら超ぬくいんやで…!


「…うずうず…」


うずうず。
うずうず。

この人もねえ、あのマントだけやったらまだ寒いと思うん。
傷に障ると思うん。
あったかいほうがええと思うん…!


……
………


「よし。」


寝よう。
あの右っ側にもぐりこもう。
絶対ぬくい。
多分朝までちょう安眠やとおもう俺。


「ちょっとしつれー…」


残った教科書全部を火の中に投げ込んでからごそごそとマントの中に潜り込んでぺそっとその人にくっついた。
あ、もちろん怪我してへんほうね。
そこは気をつけないとー。



「ぬ、ぬくい…!」



何これ、めっさぬくい。
筋肉ってぬくい。
すご!!



「ぬーん…」



ほんますぐ寝てまいそう。


うとうととまどろんで、ぱちぱち鳴る焚き火の音が眠気を誘うん。
やっと人を見つけた安心感といっしょに一気につかれが押し寄せてきて、体が、瞼が、もうすでにちょう重い。



横に寝転がってしまったら硬い土の上でもそんなん全然気になれへんくって。
足の先まで隠してしまえるこの人のあったかいマントが更に俺の意識を奪っていってやあ。
明日になったらこの人目ぇ覚めるかなぁなんて思いながら俺は完全に目を閉じた。

  

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