さっちゃんのご機嫌が直らんまんま、おやかたさまとのお話が進んでいます。
真樹緒ですこんばんはー。
俺は相変わらずゆっきーの背中からこんばんはー。
「して、真樹緒。」
「うぃ?」
「お主は竜の右目をなぜ追う。」
ゆっきーの背中にへばりついてたらおやかた様が俺を呼んで俺の目をじっと見た。
おっきいおやかた様の目は真っ直ぐで何か全部を覗かれてるみたいな背筋がしゃきってするようなおめめ。
やから俺もゆっきーの背中に隠れてる場合やなくなって、よじよじ畳の上を進んでおやかた様の前へ。
さっちゃんとゆっきーにもじっと見られてる中、おやかた様の前へ。
正面へ。
あのねおやかた様、聞いてくれる?
「うむ。」
「あのね。」
俺がお城におった時、松永さんってゆう人が来たとこまでは言うたやん?
その時、こーちゃんが連れていかれてしまったん。
理由は何かそれも腹立つ感じやったけど。
ただ自分が欲しいから貰いに来たっていう感じやったけど。
こーちゃんをまるで物みたいにあつかって。
そんでもって氏政のじぃちゃんも危なかったんやで。
おまけにね、政宗様を甲斐に行く途中襲ったって言うやん。
これはもう俺にしてみれば許されへん事なのですよ!
「やからな、俺松永さんに謝ってもらうん。」
怪我させた政宗様に。
危ない目に合わせた氏政じぃちゃんに。
崖からおっこちてもうたこじゅさんに。
爆発に巻き込まれたお馬さんに、リーゼントの兄やんらに。
今もリーゼントの兄やんら何人か連れて行かれたらしいやん?
その兄やんらも気になるし。
「こーちゃん返してもらわなあかんし。」
こーちゃんは、俺のこーちゃんなん。
約束したん。
俺がちゃんと迎えにいくからね、って。
ちょっとの間だけ我慢してね、って。
やからこれは俺が行かなあかんの。
おやかた様の目をじぃって見て言う。
ちょっと難しい顔のおやかた様は俺の話を黙って聞いてくれたあと「真樹緒」って。
「はい?」
「行って真樹緒は何とする。」
「ぬ?」
「行って伊達の兵を、己の忍を、如何にして取り戻す。」
えー?
どうやってって。
どうやろう。
「ぬーん…」
やってそんなん考えてへんねんもん。
でもとりあえず行かんと始まらんくない?
行ったらやることも見つかる気しない?
ほら行ったら絶対こーちゃんおるし。
俺の怒りをぶつけたい平茸黒たんぽぽさんもおるし。
平茸黒たんぽぽさんはやぁ、指パッチンさえどうにかしたら大丈夫やと思うんやけど俺。
あかん?
やってあのパチンってのでお山爆発してんもん。
俺はこじゅさんはもちろん、リーゼントの兄やんらよりも力無いし、行っても役に立てへんかもしれへんけどやぁ。
「俺、絶対行かなあかんの。」
俺だけここにおったらあかんの。
待っててくれてる子がおるん。
会いたい人がおるん。
やからその間。
俺がおらん間、政宗様を見てて欲しいん。
まだ怪我治ってへんみたいやし、もしかしたらこじゅさん追いかけていってしまうかもしれへんやろう?
やからお願いします。
ぺこり、って頭下げる。
お願いおやかた様。
俺、ちょっと行ってくるから。
政宗様よろしくお願いしますってぺこり。
ほんなら頭の上で小さいため息が聞こえて。
「う?」
「ほーんと、真樹緒はさー。」
あれ、さっちゃん。
どうしたん。
さっきまでちょびっと怖かったのに、顔をあげたらさっちゃんが呆れた感じで笑ってた。
「誠、胆の据わった子よ。」
「この幸村、感服いたしました!!」
「おお?」
何でさっちゃんが笑ってるんか分からんくてきょろきょろしてみたら今度はゆっきーとおやかた様が顔を見合わせて頷いてるん。
あれ?
おやかた様?
ほんでゆっきーまで何や神妙な顔してどうしたん!!
「真樹緒よ。」
「はい?」
「ここ甲斐と伊達のが治める奥州は近日、盟を組む事になろう。」
「盟?」
神妙なお顔のおやかた様がな、ちょっとその顔緩めて言うたん。
盟って同盟の事なんやって。
俺、そんなお話は初耳やってやぁ。
おやかた様と政宗様、同盟組むんやー。
同盟ってあれやんな。
お互い仲良く頑張りましょーってやつやんな。
あってる?っておやかた様見たらしっかり頷いてくれた。
「うむ。」
「ほんならさっちゃんや、ゆっきーもお友達やねぇ。」
やぁ、嬉しいなぁ。
せっかくこんな仲良くなったんやからやぁ、甲斐におる時だけとか嫌やもん!
お友達やったらお泊りしたり、遊んだり、お買い物したり、色んな事いっぱいできるよ!
奥州にも遊びに来てもらったりもしてね。
おおお…
楽しみ!!
平茸黒たんぽぽさんをぎゃふんと言わせたら絶対三人で遊ぼうな!
「真樹緒…」
「真樹緒殿…」
「ぬん。」
な!って振り返ったらさっちゃんもゆっきーもちゃんと頷いてくれました楽しみ!
おやかた様も「よきかな。」って笑ってくれてる。
折角やからおやかた様もご一緒する?
聞いたらわしって。
「おお…」
いつの間にかおやかた様が立ち上がって俺の頭をわしって。
しかもすごい力強い…!!
わしわし混ぜられた頭がぐらぐらするん。
目ぇ回りそう!!
ただでさえおやかた様の手ぇおっきいねんからちょびっとぐらい手加減して!
「真樹緒よ。」
「は、ぃー?」
「お主が竜の右目を追うと言うのならば止めぬ。」
独眼竜はしかと引き受けた。
存分に己を貫くがよい。
そう言っておやかた様は俺と目線を合わせてくれた。
まっすぐ俺の目を見て言ってくれた。
俺はちょっとびっくり。
やってな、絶対やめとけって言われると思ったん。
ほらおシゲちゃんも物凄い怖かったやろう?
やっぱりおやかた様も「真樹緒が行ってどうする」って言われるかと思ったん。
でもおやかた様は俺をとめへんかった。
「…ええの?」
「うむ。」
ただし、って。
おやかた様が笑う。
何?
俺どうしたらいい?
なるべくおやかた様らに迷惑かからんようにするから。
ちょびっとの事やったら見逃してくれへんやろうか。
「真樹緒。」
「…うぃ、」
「この幸村と佐助を連れてゆけ。」
「え?」
幸村は武田の一本槍。
共にゆけば心強かろう。
それに、佐助ほど働く忍もそうおらぬぞ。
おやかた様はやっぱり笑って。
「…え…、ほんまに…?」
「この信玄に二言など無い。」
俺の頭をぐりぐり。
物凄い力でぐりぐり。
俺はふらふら揺れながら。
「さっちゃん!ゆっきー!!」
おやかた様が!
俺、さっちゃんとゆっきーと一緒やって!
ええの!
ほんまにええの!
「真樹緒だけだったら危なっかしくて行かせられないぜー。」
「是非にお供させて下され!」
「さっちゃん!ゆっきー!」
ぬー!
俺うれしい…!
二人とも優しい!
さっちゃんもゆっきーも優しくて俺、泣いてしまいそう…!
「はいはい、泣かない泣かない。」
「真樹緒殿は泣き虫でござるな!」
「ぬっ!まだ泣いてへんよ!」
ちょびっと出そうになっただけやもん!
二人ともそんな「しょうがないなー」みたいな笑顔で頭撫でやんとって!
頭のてっぺん擦り切れたらどないしてくれるん!
「そんな真樹緒も可愛いかもね。」
「さっちゃん…」
「真樹緒殿なら如何様でも愛くるしいかと!」
「ゆっきー…」
褒めてるん。
それ褒めてるん。
擦り切れるってあれやで。
おハゲができるって事やで。
「ぬー…」
二人の優しさがたまによく分かりません!!
でも平茸黒たんぽぽさんのとこには三人で向かう事になりました!
待っててこじゅさん。
まっててこーちゃん。
絶対に迎えに行くからな!!
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続甲斐の虎はこれにて終わりです。
やっと2章の終わりが見えてきました!
最後まであと少し、お付き合いくださると幸いです。
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