真樹緒が裸足で旦那の所へ走って行った。


あらまぁ、本当に人見知りの全く無い子だねぇ。
そして相変わらず行動が早い事。
話し方はあんなに緩いのに。
さっちゃんびっくりしちゃうなー。


肩をすくめて様子を伺っていれば、真樹緒が旦那に抱き上げられているところだった。


「ほら、こっちおいで。」
「はーぁい。」


旦那に抱えられていた真樹緒を受け取る。
手を伸ばして首に巻きついてきた真樹緒の足を旦那が懐紙で拭いて。
「こちょばいんー」なんてけらけら笑いながら暴れる真樹緒に「我慢されよ」って旦那も楽しそうに。


こらこら、大将のお部屋の御前ですよ二人とも。
静かにしなさいよ。


「もー、やめてぇやー!」
「爪に土が残っております故。」


こちょばいー。
もー綺麗になったてー。

まだまだ。
耐えられよ。


「……」


いやいや羨ましいだなんてまさかそんな。
俺様一言だって言ってないから。
勝手な事勘繰ってもらっちゃ困るなぁ。
だから別にここで俺様が急に話題を変えたって何にもおかしな事は無いんだからね。


「真樹緒。」
「ぬ?」
「さっき、また変な事考えてただろ、」


真樹緒の顔を覗き込んでその柔らかい頬っぺたを突っついた。
すぐに小さな顔が俺を見上げる。


……
………


何。
だから旦那が羨ましかっただなんて俺様一言だって言ってないでしょ。


「えー。」


そんな事ないで!
あだ名考えてただけやんー。
ゆきむらさんの可愛いあだ名を考えてただけやんー。


ぷう、と膨れた真樹緒は旦那に足を拭かれた後俺の腕から飛び降りた。
あらら、残念。
やたら柔らかい真樹緒のお腹は俺様のお気に入りなのに。


「あだ名にござるか。」
「決まったの?」


渾名。
俺にもつけてたよね。
なんか可愛いの。
さっちゃんだなんて初めて呼ばれたよ。
うーんうーんと唸る真樹緒に口元が緩む。


「ちょっと候補がたくさんあってー。」


まだ検討中ー。


だって。
楽しみだねぇ旦那。


目の前の旦那を見れば、真樹緒を見ながら同じように小さく笑っている。
柔らかく、温かい、そんな目で笑っている。
あらまあなんて驚きを声に出さなかったのはそんな雰囲気を壊したくなかったからで。



槍を振るう相手を渇望していた少し前の主の姿を思う。
まるで迷子のように、一人取り残されたように、戦場をかけていた主を思う。
この新しい出会いはそんな主を変えてくれるだろうか。
浮足立つ足を押さえながら、けれどそんな事顔には出さず俺は真樹緒の頬を撫でた。



  

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