「真樹緒。」
「さっちゃん!」
「竜の旦那は?」
「政宗様やったらまた寝てもうたよ。」
さっき気がついた政宗様な、やっぱり怪我は痛いみたいなん。
やからゆっくり休んでってお布団かけてあげて、頭よしよしって撫でてあげて、政宗様がよく寝れるように「じゅげむ」を暗唱してみたら政宗様に「余計に気になって寝れねぇから止めろ」って言われた真樹緒君ですよ。
政宗様がお休み中やから、廊下をてくてく歩きながらやっぱりひっそりこんばんは!
「むー…」
じゅげむ俺全部言えんのに。
なー、さっちゃんー。
俺のじゅげむ聞いていかへんー?
てか聞いてー。
俺のじゅげむ聞いてー。
今やったら俺の膝枕つきやで!
「えー、さっちゃんも遠慮したいなー。」
「ひどい!」
「膝枕は魅力的だけど。」
「ぬ?」
「ほっぺたと同じでやわっこそうだよね。」
「?そお?」
面白そうに笑うさっちゃんが「この後ちょっと暇ある?」って俺の顔をのぞきこむ。
やぁ、何か「おやかたさま」が俺に会いたいねんて。
ほんでさっちゃん迎えに来てくれたん。
「おやかたさま」はカイを治めてるえらいさんでな、カイの虎らしいで!
カイの虎!!
字はようわからんけどカイの虎!
「甲斐の虎ね。」
「ぬん!」
甲斐の虎!
「なあなあさっちゃん。」
「んー?」
「おやかたさまってどんな人―?」
さっちゃんの隣を歩きながらてくてく。
これから会うおやかた様ってどんな人やろうって聞いてみる。
甲斐の虎って言われてるおやかた様の事を聞いてみる。
ほら、怪我した政宗様やこじゅさん、それに兵士の兄やんらもお屋敷においてくれてるんやろう?
どんな人なんかなって。
「…、」
てかこじゅさん大丈夫やろうか。
会ってすぐお庭から出ていってもうたんやけど。
多分、あの平茸黒たんぽぽを追っかけたんやと思うねんけど。
やー、俺も後から行くよ?
追いかけるよ?
こーちゃん返してもらわなあかんし、政宗様に謝って貰わなあかんし。
でも平茸黒たんぽぽワルやん?
見かけはちょいワルやけど、実際結構なワルやん?
やから心配―。
「真樹緒?」
どうしたの、ってさっちゃんが俺を覗き込んだ。
ここに皺寄ってたよって俺の眉間をぐりぐり。
「ぬ?」
あれやぁ。
さっちゃんの方が何や心配そうな顔してるよ?
俺は大丈夫。
何も無いねんで。
ちょびっと気になっただけなん。
平気!
それよりおやかたさまの事教えてんか!
「そう?」
「ん!」
何かあったら言うんだよ、ってさっちゃんは俺の頭を撫でてくれた。
やあさっちゃんも俺の頭撫でるん好きね!
こじゅさんとか政宗様とかおシゲちゃんも撫でるん好きやったで。
へへへーって笑いながらさっちゃん見上げたら「何?」って。
んー?
なんもないん。
全然なんんもないん。
俺も頭撫でられるんが好きとかそんなまさかー。
ないしょないしょ。
「ほらほら、さっちゃんおやかたさま。」
教えて。
おやかたさまどんな人なん。
やっぱり虎やからごっついんかなぁ?
ほんでシマシマとか?
背ぇとか俺の二倍ぐらいあったりして!
「あー…あるかもね。」
「まじで!!」
おお…
でかいんや。
俺の二倍やって。
おやかたさますごい!!
「豪胆な方だよ。」
「へー…」
ごうたんやて。
ごうたん。
や、意味が分からんとか。
言うてへんよ。
「肝が据わっていて豪傑な方って事だよ。」
「ばれてた!」
さっちゃんには何でもお見通し!
うー。
うかうか考え事出来ひんやん。
「真樹緒が分かりやすいんだよね。」
「ぬー…」
そんな事無いもん。
さっちゃんが鋭すぎるねんもん。
ぷうって膨れたらさっちゃんが笑いながら着いたよ、って。
「お?」
ここ?
きょろって首かしげた俺にさっちゃんは小さく頷いた。
へー。
ここかー。
何かな、おっきな扉やで。
この先におやかたさまおるねんて。
ちょっとどきどき。
はーって深呼吸して準備はおっけ!
さぁさっちゃんいつでもどうぞ!
「むん!」
どんとこい!
胸張ってさっちゃんが入っていいよ、って言うん待ってたんやけどなー。
「あ、真樹緒危ない。」
「ぬ?」
さっちゃんがひょーいって俺の首根っこを掴んでやぁ。
ちょっと。
ちょっとーさっちゃん俺猫ちがうよ。
首そんな掴まないでー。
ひょいっと首根っこつかまないでー。
エレベーター思い出してしまうやんか。
やめてんかー、ってさっちゃんの方向いたんやけど。
「見事な拳にございますお館さぶぁぁぁぁ!!!!」
「!!!!」
何か飛んできた。
バッキーンなんていう効果音と一緒に障子ごとイケメン飛んできた!
何事!!
そのまんまごろんごろん転がってお庭の素敵な松の木が折れた!
何事…!
「ちょ、旦那障子壊さないでっていつも言ってるでしょ!」
「ぬっ!佐助!!」
「その松、旦那が片付けてよね!」
そこ!?
イケメンさんが飛んできたとこはつっこまんでええのさっちゃん…!
スルーでいいのさっちゃん…!
「ほら、真樹緒。」
旦那は放っておいていいから。
入るよ。
「おおお…」
さっちゃんつわもの!!
お庭のかべにめりこんでるイケメンさんもなんのその、素敵な笑顔でさっちゃんが穴のあいた障子を開いた。
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