「さっちゃんはやくはやく!」


そんな事を言う真樹緒はさっきまで降りるのを怖がっていたのが嘘のようにぺちぺちと俺の鉢がねを叩いた。


「はいはい。」


肩をすくめて庭に下りた。
真樹緒の足をゆっくり地面につけて。


「ほら着いたよ。」
「ありがとさっちゃん!」


腕を放せばすぐに小さな体は離れていってしまった。
「政宗様!こじゅさん!」と叫びながら離れていってしまった。
今までずっと温かかった腕の中は急に空っぽで。
あぁーあ、なんて思わず声が出そうになって慌てて口を押さえる。


いやいや別に。
俺様は別に。
別にそんな。


何故かぐるぐると言い訳めいた言葉が頭を過ぎり、何をやっているんだ自分はと首を振った。


「本当、何やってんだか。」


やるせないため息が出て、口元が緩んだ意味はよく分からない。
けれど、真樹緒だしねと走っていく小さな背中を見たら何故か納得できて。


「…、」


まずいなぁ。
ものすごくまずい。
この猿飛佐助としたことが。


「冗談じゃないよ。」


ああ本当に冗談じゃない。


「さぁーて、追いかけますかねー。」


さっきよりも身軽になった体で飛び上がる。
真樹緒が走っていった先は丁度伊達政宗が運ばれた部屋の目の前に広がる庭だ。
片や立てやしないはずの怪我を負っているというのに、あの二人は一体何をしていたのか。


「まぁ、想像はつくけど。」


大方松永という男に攫われたという自分の兵を、取り戻しに行く行かないの問答だろう。
あの怪我で立ち上がれたのは流石独眼竜なのか、ただの気合なのか分からないが。


「待ってよ真樹緒―!」


真樹緒を追って屋根を走れば、まさにその真樹緒が伊達政宗とその右目の元へ飛びこんで行くのが見えた。

  

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