「ぬー…」
体がすごく痛い。
手とか足とか動かす度にみしみし変な音がなる。
それでも力を入れる事はできて、俺は体中についてる木のはっぱを落しながら立ち上がった。
ぬん。
生きてた。
俺生きてたでひまちゃん。
ほめてひまちゃん。
あんな高いとこから落ちても俺無事やったで…!
まんしんそういになりながらも生還をはたしました真樹緒ですこんにちは!
「いったぁ…」
多分落ちて行く時に木の枝が受け止めてくれたんやと思う。
それも怪我するようなぶっとい枝やなくて落ちていく速度を吸収してくれるような細い枝。
体中にはっぱついてるし、たまに枝もついてるし、顔も切れてるけど、多分骨とかは大丈夫なん。
全体的にぼろぼろやけど歩けるし。
ほんま不幸中の幸運ってこのことやと思うん。
「でもやっぱり森なんやねえ…」
あの村人さん(仮)達に近づいた事は近づいたけど、複雑な気分ー。
何かここ俺の知っとる日本と違う感じやし。
あの村人さん(仮)達怖いし。
「あ、鞄。」
あたりを見回したら草むらに落ちてる鞄見つけたん。
よかった。
落ちてる時に手ぇ離してもうたから、どっかいってもたと思ってた。
中には携帯とか教科書とか入ってるから無くせやんしねえ。
自分と同じぐらいボロボロなそれを掴んでよいしょ、って立ち上がったら足元がふらついた。
「ぬん、けっこうつらい…!」
足がくがく!!
くまに追いかけられて、崖から落ちて、ほんま俺今日ついてない。
しかもここ日本と違うかもしれへんし!
やぁ、崖から落ちて助かったんはよかったけどー。
……
………
そういう問題でもないよね!
「ぬー…今やったら生まれたての小鹿の気持ちがわかる俺…」
よろよろ立ち上がって上とはちょっと違った雰囲気の森を歩く。
崖の方とは違ってここは木が多いけど道があったん。
ちょっと草がすりきれて人が歩いてそうな道。
それでも幅は狭いんやけどー。
「…」
もしかしたら人に会えるかもしれへんやん?
ひょっこりすれ違えれるかもしれへんやん?
いつの間にかもう片方のローファーもどっかにいってもうて、泥だらけの靴下のままやけどずんずん。
ずんずん歩く。
もちろんもうくまには会いませんようにって祈るのは忘れずにね。
次くまに会ったら逃げきれへん自信あるよ!
やって俺今生まれたてのこじかやもん…!
「お?」
坂になっている道を下っていったら、ちょっと大きい道に繋がってたん。
やった!
幸先よさげ!
道幅もあるし、これはきっと人が日常的に使ってる道やで!
ほら見て。
踏み荒らされ取るけど足跡とかついてるもん。
絶対人おるよ!
「今度こそ第一村人ー!」
よしよし。
ぬんぬん。
真樹緒やりました!!
ここまで長かったけどがんばりました!
この調子で第一村人に出会ってみます。
「ほら、この足跡たどってけばすぐにでも…」
そうすぐにでも第一村人に…
村人に会えるはず、って
「………矢?」
え、矢?
山道が小道になって、草が擦り切れた道になって、次はちょっと舗装されたような道になった。
そこは歩きやすくてまっすぐどこかに繋がってる感じやったけど道のあちこちに矢が刺さってるん。
何で道端に矢が(しかも結構大量に)刺さってるんやろう。
折れたりとかしてちょうリアルなんやけど。
ええ、これどっから飛んできたん。
今まで普通の道やったやんか。
映画…?
もしかしてここで映画の撮影とかやってたりするん?
でもその矢は山道にずーっと続いているん。
そしてちょうぶっすり刺さってるん。
そのままなるべく矢に触らんように歩いてたら(やぁ、触るんちょっと怖いやん)何か遠目でもちょっとやばそうな感じの人が倒れてるんが見えたん。
「…え、ほんまに映画?撮影とかなん…?」
ほんならあそこに屍のように倒れてる記念すべき第一村人は俳優さんやんなぁ。
ちょうはくしんの演技をしてる俳優さんやんなあ。
カメラ見当たれへんけどどこか遠くから撮ってるかもしれへんし俺があの前横切ったらあかんやんなあ。
うつぶせで動かんけど。
血だらけで動かんけど。
全然全く、ピクリとも動かへんけど。
「…通り過ぎたらあかんかな…」
あかんやんなー。
きょろきょろ回り見渡してもう一回カメラを確認。
何で無いのんカメラ。
カメラどころか人っ子一人見つかれへんやん。
ここは監督とかがおらんとあかんとこ違うんとか呟いてもだれからもつっこんでもらえやんくってとっても切ないんやけれども。
「ぬん…」
もう一回ちらっとその倒れてる人を見た。
やぁ、あんな。
この人なんかちょっと怖いんよ。
顔とかに傷あるしー。
服にいっぱい血ついてるしー。
何や刀みたいなん持って力尽きてる感じやし。
あの刀まさかほんもの違うやんなぁ。
やっぱり血ぃついてるんやけど!
「…こんにちはー。」
声かけても返事は返ってけえへんかった。
苦しそうに顔をゆがめてる男の人はずっと目つぶったまんまで。
顔色はとっても悪くて唇も青くて。
やあ…ほんまに死んでへんやんね…?
「ぬー…」
落ち着くために深呼吸。
大丈夫やからって深呼吸。
ここは俺の知っとる日本とはちょっと違うねんって言い聞かせて、そおっとその男の人に近づいた。
手を伸ばして脈をとってみる。
そっと触れた太い腕は小さいけどちゃんと脈拍があって。
とくとくとくとく。
すごくゆっくりやけど音がする。
ちゃんと動いてる。
「生きてる…」
とっても、とってもゆっくりで心もとない脈拍やけど。
大丈夫。
この人ちゃんと生きてるん。
はぁ、って急に肩の力が抜けてしまう。
緊張してた足を曲げて座り込んでしまう。
座り込んで目の前の村人さんの顔をじっと見てため息をはあ。
ひまちゃん、お兄結構逞しいやろ褒めてやあ。
がんばったで!
「でもこのままここにおったら危ないやんなぁ。」
せめてこの物騒な道から移動出来たらええんやけど。
なんてったって矢が突き刺さってるし―。
よく見やんでも血だらけやしー。
誰か通りかかったら手伝って貰えるんやけど、そんな雰囲気は全くせぇへんしー。
せちがらいー。
「…ぬん、がんばる俺。」
どこをどう頑張ったらええんか全然全く分かれへんねんけど。
第一村人さん見つけたからちょっと俺のテンションも上がったもん。
大事な大事な第一村人さん。
俺がついてるから安心してね!
安心していきのびてね!
やあやあとりあえず村人さんとどこか落ち着けるとこ探そうと思います!
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