伊達政宗が館に運ばれて数日、森の様子を探っていたら空を旋回している鴉を見つけた。
人に馴れているのか近寄っても逃げようとしない。
どこかの忍烏かと思い捕まえてみたら足に文がついている。


ちょっと失礼。
飾りのついた足から文を取れば、その鴉は肩に乗って。


「お前、どこの鴉だい?」


こんなに簡単に人を許して誰かに飼われていたのか。
少し土がついて汚れた文を開いてみれば、それは先日原因不明の爆発に巻き込まれて屋敷に運ばれた「伊達政宗」宛だった。
日記のような事が徒然と続き、そして最後には伊達政宗への思慕がつらつらと。
会いたい、寂しいという思いがこちらまで伝わってくるようだ。
そしてその手はどこか温かく。


なんて言うか。


「まるで恋文だなぁ。」


読んでいるこっちが恥ずかしい。
こんなに思い焦がれるような文を書いて。
思わず口元が緩んでしまう。


けれど。


「…」


けれど、これを書いた真樹緒という子は伊達政宗が傷を負っているという事を知っているのだろうか。
更に事態が悪化してしまったという事を知ってるのだろうか。


「お前の主人はどこにいるの。」
「ギャア。」


鴉に問えば、ばさばさと羽をはばたかせて飛び上がった。
向かったのは奥州。


やはり。


「真樹緒って子?」
「ギャーア。」


そう。
ずいぶん可愛がられてたんだろうね。
鴉の隣を飛びながら笑い、青葉城で鴉の飼い主を見て思わず噴出した。


そこにいたのは子供で。
小さな小さな子供で。
窓の桟に着いた時にはその子供が伊達三傑の一人にお説教をくらっているところだった。


「なぁなぁ、」
「何?」
「面倒なじたいってなん?」


振り返れば先ほど後ろから身を乗り出し、「危ないでしょ」と窘めてから静かになっていた子供がまた背中でごそごそしている。
何、じっとしてなきゃ落とすよ。
言ってみたら「ぬん…!」って変な声を出して黙った。


なにこれちょっと面白い。


「…気になるの?」
「気になるん。」


その面倒な事態って、悪いお知らせ?
政宗様の怪我ひどいん?
眉をへの字に曲げて子供は小さく俺の肩に顔を擦り付けた。


「ねぇ、」
「ぬ?」
「…、」


本当に、この子供は伊達政宗の何なのだろう。


見たところ普通の子供だ。
どこにでもいそうな子供だ。
政宗様政宗様と名を繰り返しているがその間にあるのは忠誠という訳ではなさそうで。
どちらかと言えばやはり思慕。
一国の主に馴れ馴れしいと言えばそれまでだけれど、それを許されていたのだろうか。


「あんた何者?」
「俺?」
「そう。」


ちらり振り返れば子供はきょとんと首を傾げていた。
「ぬー」なんてやっぱり変な声を出して。


「俺、真樹緒って言うん。」
それは知ってるよ。
えっ何で!!


ああ、そう言えば何で俺が奥州にいたか知らないんだっけ。
あんたの文を拝借したんだけど。
驚いた顔に何だか笑みがこみ上げた。


  

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