真樹緒が甲斐に行くって言い出した。
しかも言い出したら俺の言う事なんて聞きやしない。
そんな頑固な子に育てた覚えはありませんよ。
どうも。
目の前でちっさくなってる真樹緒を睨みながらどうしてやろうかとご立腹なおシゲちゃんだよ。
「こーちゃん取られてもうたんやもん…」
政宗様とこじゅさんが怪我したかもしれへんのやもん。
そう言ってじとりと俺を見上げる真樹緒は唇を突き出してふて腐れている。
梵も言ってたけど、本当によく膨らむ頬っぺただよね。
つまんであげようか全く。
「いい?真樹緒。」
「ぬ…」
聞きなさい、って真樹緒の頭をぐりぐり混ぜる。
梵や小十郎が怪我をしたかもしれないっていうのは分かった。
風魔が松永って男に連れて行かれたっていうのも分かった。
けどね、真樹緒を甲斐には行かせられないよ。
「なんでえ…」
「危ないだろ!」
分かってるの真樹緒。
松永って男の得体は知れない。
梵と小十郎は甲斐への道中襲われた。
風魔はいない。
ほら問題は色々あるよね。
挙げれば数えられないぐらいあるよね。
これだけ聞いてさぁ、どの面下げて真樹緒は甲斐に行くなんておシゲちゃんに言うのかなー?
文句があるなら言ってみなさいよ。
「おひげひゃん、いたいー…」
「あーよく伸びる。」
「にゅー…やめひぇー…」
あのね、真樹緒。
梵達は一人じゃないよ。
小十郎もいるし、他の仲間だって一緒にいる。
それに梵は武人だ。
そんな柔じゃない。
「むぅ…」
けど真樹緒はちっちゃいし、緩いし、ほよほよしてるし。
ただでさえ風魔がいないしちっさいし。
「ちっさい二回言うた…」
「何、違うの。」
「ぬー…」
おシゲちゃん怖い。
真樹緒がしゅんと座り込んだ。
ふう、って息を吐いて真樹緒と同じ目線になる。
聞いて、真樹緒。
俺心配してるの。
俺は梵から城の留守を預かっているから動けないし、松永って男が城までやってきたってなったらその警護にも備えなきゃならない。
鬼庭殿は旧北条領で平定後の後始末に追われている。
甲斐は遠いんだよ。
真樹緒が行くとなったらそれなりの護衛が必要なんだ。
「分かった?」
「でも…やくそく…」
「駄目。」
梵の所へはうちの忍を向かわせる。
松永という男も探らせる。
風魔は戦忍だ。
そう簡単に屈したりはしない。
だから。
「真樹緒、」
「…おしげちゃん…」
「ここにいてよ。」
近くにいて。
安心させて。
真樹緒が護衛もつけないで一人でどこかへ行くなんて考えただけでも恐ろしい。
せめてその松永という男の脅威が分かるまで。
「…、」
「お願い。」
真樹緒の顔を覗き込んだらちょっと複雑な顔。
ああ、うん。
ごめんね。
真樹緒が俺のお願いに弱いのは知ってるんだ。
でもこれは譲れない。
意地が悪いおシゲちゃんだけど許してよ。
「おシゲちゃん…」
真樹緒の頬を撫でて、背中をぽんぽん叩いて。
大丈夫だよって、俺に任せておいて、って。
静かになった真樹緒を花の香りの香を焚いた部屋で寝かせた。
今夜の事を思い出さない様に。
寝苦しくならない様に。
少しでも安心できるように。
「…」
うん、まぁ。
真樹緒が転んでもただじゃ起きないってのは知ってたよ。
こちらの見識が通じないのは今に始まった事じゃないよね。
うん、分かってたんだけどさ。
まさかあんないい話した後に事を起こすだなんて思わないじゃない?
「真樹緒!?」
朝、真樹緒の部屋の襖を開けたら。
そこに真樹緒はいなかった。
「ちょ、もっ…あんの馬鹿!!!」
-----------
キネマ主は頑固。
というか守れない約束はしない主義なゴーイングマイウェイ。
したからには守ります。
次はキネマ主サイド。
どうやってお城を出たのかな(笑)
とあるイケメンに連れ出してもらいました。
←book top
←キネマ目次
←top