「あるぅーひー。」
どうも真樹緒です。
あれからかれこれ一時間ぐらい歩き回ってるけど、どうにも状況は変わりません。
真樹緒です。
「もりのーなぁーかぁー。」
石ころなんか蹴っ飛ばしながらそろそろローファーが限界なんやけどどうしよう。
遭難者のセオリーってその場から動かへ事やったっけ?
やから俺結構てんぱっててんて。
新兄の作ったお弁当も食べてもうたし(甘い卵焼きがちょううましー。ケチャップの匂いがしてたんはウインナーとピーマンと玉ねぎのナポリタンでした!うまし!)迷ってもうたんやったら歩くしか無いんよねー。
「くまさぁんにー。」
てくてく。
てくてく。
立ち止まってきょろきょろ。
ひまちゃーん、って呼んでみてまたてくてく。
いやや…俺今ちょう孤独!!
真樹緒です何か寂しいから三回目ですこんにちは…!!
「でーあぁったぁー。」
そんでさっきから歌うたってる訳やけどー。
森のくまさん歌ってる訳やけどー。
「ガゥー。」
「え?」
出た。
何か出た。
「……」
「……」
……
………
見詰め合って数秒。
花咲く森の道でも何でもないのに。
ほんまに熊出た。
「っきゃぁぁぁぁぁぁ!!」
「ガゥゥゥゥ!!!」
ありえん。
ありえへん。
熊とか。
ええまじで熊とか。
ひまちゃん助けて…!
「何でおっかけてくるん…!」
「ガー!!」
「しかもくま早い…!!」
えぇ何。
何なん。
熊って冬は冬眠してるん違うん。
洞穴とかで子供うむためにひと眠りしてるん違うん。
めさめさ元気やけどあの熊…!!!
めっさ走ってるけど…!
めっさ機敏やけど…!
「森のくまさんすごい…!」
森の中を走り回り続けて、さすがの俺も限界が近いんやで。
ローファー一足脱げてもうたし。
あれお兄に買うてもろたのに!
「ぬー!もうしんどいー!」
そうやってわき見を振らずに走り回ってたら何か崖みたいなとこに出たん。
がさって草むら抜けたら絶壁やってやぁ。
そりゃーもー、角度90度ぐらいある絶壁やってやぁ。
……
………
あかんて。
あかんてこの崖。
ここ、落ちたら絶対死ぬと思うん。
「…、」
まじで!!
崖の下は俺がおるとこよりも鬱蒼とした森で、もうちょい遠くを見てみたら平地なん。
家とか車とか全然見当たらんからほんまここどこやろうと思ってんけどちょっと待って。
「あれ、人違う?」
ほら遠くの方の黒い塊。
ごちゃごちゃしとるからよう分からんけど多分。
小さく小さく見えてるんは人やと思う。
やぁ、第一村人どころの人数やないけど。
「…めっさおるやん。」
あれだけ森さ迷って一人も出会わんかったのに。
一人さびしく森のくまさん歌って出会ったのは本物のくまとかやったのに。
下のほうにおったとか。
何なん俺くまに会いぞん…!
「やぁ、けど何やろうこの変な臭い…」
きな臭いっていうかー。
鉄臭いっていうかー。。
喉の奥でむせるようなへんな臭い。
一応セーターの袖に鼻をくっつけてみるけど、俺違うよ。
俺今、友達がくれた素敵な香水の良い香りやもん。
「…なんか黒いし…」
村人さん(仮)達が集まっている周辺を見て、何やその変な雰囲気に嫌な予感がしたん。
お腹がむずむずするような、気持ちが悪くなるような嫌な感じ。
そうゆうたらいつの間にかくまもおらへんの。
相変わらずざぁざぁ吹いてる冷たい風に混じって、小さく人の声が聞こえた。
聞き取れる訳はないんやけどその声にどくんって胸が鳴る。
「…」
何やろう。
怖い。
「…え、ほんま何…」
下から風が吹きすさぶ崖に身を乗り出して目を凝らしてみた。
ほんなら小さく見える村人さん(仮)達がぶつかり合ってて。
くさい臭いはどんどん強くなるし。
「あれ…え?」
ここ日本やんなぁ。
ただ、どっかの田舎なだけやんなぁ。
ちゃんとあの人らに話したら電話で連絡取ってひまちゃんとお兄がおる家に帰れるんやんなぁ。
「だいじょうぶ、だいじょうぶ…」
ちょっと震えた手をこすって温めて。
頑張って下に下りる道探さなあかんなあって立ち上がったとき。
ガラッ
「え」
足元がぐらっと。
…こう、ぐらっと。
「えー…?」
足元がやあ、ねえ、
崩れたん。
それはもう素敵に思いっきり崩れたん。
「うせやんーーーーーっ!!!!!」
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