「伝説の忍が子供を主にしたと噂に聞いたが…、」
本当だったようだね。
そう言うて窓から現れた人は何てゆうか…
その、ぬん、
何って言ったらええんやろってゆうか…
白と黒の着物?でやあ(もしかしたら政宗様と同じようなマントかもしれへん)刀持ってて、おじさん?って言うには何かちょっとしんしって感じ。
年齢はきっと氏政じぃちゃんよりは若いんやと思う。
で、ちょんまげ。
なんかこっちきて初めて見た本格的なちょんまげ。
やー、時代劇とかみたいんやないけどちょんまげ。
ほら、平茸みたいなちょんまげ。
「卿が風魔の主かね。」
「ぬ?」
平茸さんが一歩こっちに近づいた。
でもこーちゃんの背中でよく見えへんくって。
俺を庇うように前におるこーちゃんの背中が広くって平茸さん見切れてて。
どうしたんこーちゃん。
ひそひそ声で聞いてみる。
やあやあ、この人そんな危ない人?
伊達のお城の人とちがうん?
「(こく、)」
こーちゃんがまたぎりりって歯を噛んだ。
こんなに怒った感じのこーちゃんは初めて見る。
こーちゃんこーちゃん、なあ、その人誰やろう、小さく言いながらちょんってこーちゃんの服引っ張ったんやけど、「じっとしてて」って怒られてしまって。
ぬーん。
ごめんこーちゃん。
緊張感ただよう場面ではなしかけてごめんこーちゃん。
「私の名は松永久秀。」
「まつながさん…」
「いや何、大した用ではないのだが。」
卿と交渉をしに来たのだよ。
「こうしょう?」
何、交渉。
何の交渉。
平茸さんは松永さん言うんやって。
松永さん。
聞いた事もない松永さん。
どちらさまやろう松永さん。
そんな松永さんは楽しげに笑ってこっちを見てるけど、俺の前におるこーちゃんがまだぴりぴりしてるから俺簡単に信じへんよ松永さんのこと。
やってお城の人やったらこーちゃんこんな感じになれへんもん。
てゆうことは松永さんきっとお城の人違うんやもん。
黙ってたら素敵ジェントルマンな松永さんをじろり。
何者ですかーってじろり。
ほんなら松永さんがくくくって笑って。
「私には欲しい物があってね。」
「ぬん…」
何なん。
突然何いいだすん松永さん。
欲しいものって何なん。
それを俺にゆうてどうするつもり。
そんな勿体ぶってやぁ。
おれ絶対松永さんが欲しいもんなんか持ってへんと思うよくる場所間違えたんじゃなあい!
松永さんが一歩近づいてくる。
それと同時にこーちゃんがまた鋭い何かを投げた。
「謙遜は良くない。」
卿は素晴らしい物を持っている。
「…どういうこと。」
「この世の誰も、卿しか持ち得ない素晴らしい物だよ。」
松永さんがにんまり笑いながらこっちに来たん。
俺、おれ、この人にがて。
ねっとりこっち見て。
目でかみつくようにこっち見て。
体ががちがちに縛られたみたいに固まってしまう。
「卿自身が気づかないのなら、私が貰っても何の問題も無いか。」
「やから何のこと。」
さっきからほんまに何なん。
何の事ゆうてるん。
俺、松永さんの言いたい事分からへん。
はっきり言うてほしいん。
何が欲しくてここにやってきたん。
さすがの俺もいいかげんに怒るよ…!
こーちゃんの背中からひょいって顔を出す。
はっきりゆうて!って負けじと睨んでみる。
ほんならばちって松永さんと目ぇ合ってしまって。
ぬん!
やっぱりちょっとにがて…!
「ならば手短に言おう。」
「ぬ?」
「私が欲しいのは伝説の忍、風魔小太郎。」
姿を見たものは決して生きてはいないと謳われた風魔小太郎。
卿の前に佇むそれ。
それを頂ければすぐにでも帰らせて頂こう。
……
………
「…はぁぁぁーー!?」
何ゆうてるん。
何ゆうてるん。
そんなん許しませんー。
こーちゃんはうちのこーちゃんなんですー。
俺のこーちゃんなんですー。
お嫁さんなんですー。
勝手な事ゆわんといてんか…!
いきなり部屋に上がってどーゆーつもり!
こーちゃん頂戴ってどういうつもり!
失礼にも程があるんちがうんー!
冗談やないよ!
こーちゃんの背中から出て松永さんに叫ぼうとしたら、こーちゃんがずぃって。
「…こーちゃん?」
「卿に選択肢は無い。」
「え…」
言ったはずだが、これは「交渉」だと。
にって笑う松永さんに思わず体が固まった。
「…っ、」
動けやんの。
あの目で見られたら。
冷たい冷たい目なん。
笑ってるけど寒気がしそうな目なん。
息が詰まりそうになって、ひゅって喉が鳴った。
瞬きもできへんくて目線が逸らせやんくて、じぃって松永さん見てたら指をパチンって。
パチン、ってしたら。
ドォン…!!!
「!?」
山が爆発した。
松永さんの背中、窓の外で。
山が爆発した。
「な、なん…!」
「(!)」
こーちゃんがぎゅってしてくれたけど、窓の外は炎で赤い。
何で。
いきなり何で山が爆発するん。
めらめら燃える炎の影で松永さんが笑う。
「そう言えば、あの辺りに小さな庵があったようだが…」
「あっ…!」
「巻き込まれていなければ良いがねぇ。」
「じぃちゃん…!!」
何てことするん!
「(!)」
こーちゃんどいて!
俺ゆるせやん!
あの平茸許せやん!!
さっきから好き勝手言うて!
こーちゃんをものみたいに言うて!
更にはじぃちゃんまで…!
もーういや!
もーう許さん!
俺、あの松永さん嫌い!!
「(ふるふるふるふる)」
「こーちゃん!」
「分かったかね。」
「何が!!」
これは卿への警告だ。
大人しく風魔を渡せばもう爆破が起こる事は無い。
ただ、首を振れば。
「…やめ、」
松永さんがまた指を上げた。
それがパチンって鳴ったらまたお山が爆発するん?
それともさっきのお山とは別のところが爆発するん?
嫌や。
止めてって飛び掛ろうとしてんけど、こーちゃんに止められて。
「こーちゃん…?」
刀構えてたこーちゃんがその刀を背中に仕舞った。
それから俺の頭を撫でた。
「こーちゃん?」
どないしたん。
何でそっち行くん。
そっちは松永さんがおるとこやでこっちおいで!
「流石は伝説の忍だ。物分りがいい。」
「なん…」
「腹を括り給えよ。」
こーちゃんが平茸さんとこに行ってしまった。
静かに、静かに、俺から離れて行く。
お約束したのに。
俺といっしょにおってくれるってお約束したのに。
「こーちゃん…」
でもそれは松永さんがこーちゃんを欲しいからで。
こーちゃんが行かんと氏政じぃちゃんの庵が危ないからで。
それは松永さんが山爆発させるからで。
松永さんのためやなくって、じいちゃんのためで。
俺が危ない目にあわんようにって思ってくれたからで。
「…っ、」
ほら見てやっぱりこーちゃんはうちのこーちゃんやんか。
松永さんのちがうし。
俺のこーちゃんやし。
それに俺は幸せにします、って氏政じぃちゃんに約束したし。
とにかく俺のお嫁さんやし。
「…嫌や。」
「うん?」
「ぜったいに嫌やこーちゃんはあげへんもん。」
「………ほう?」
ならばどうするのかね、って松永さんはまた指を上げる。
俺はじろってそれを睨みつけて。
もう、ほんっとに腹立つんやけど…!
人の弱みにつけこんで!
何さま…!
お山を何やと思ってるん。
こーちゃんを何やと思ってるん。
じいちゃんを何やと思ってるん。
俺を何やと思ってるん…!
「こーちゃんは俺のこーちゃんやもん。」
あげへん。
絶対あげへん。
でもこのままやったらじぃちゃん危ないから。
山が燃えてしまうから。
しょうかないから。
「うん?」
「ちょっとだけやったら貸してあげる。」
でもすぐ、絶対返してもらうんやから。
取り返しに行くんやから。
何回も言うけどこーちゃんは俺のなんやから!
しかたないから今だけ!い ま だ け !かしてあげるしょうがないから…!
「くくっ…」
「何がおかしいん。」
「いや、楽しみにしているよ。」
取り返す気があるならば追ってくればいい。
馬鹿にした!
やっぱり腹立つ!
俺のこと馬鹿にした!
信じてへんなこの平茸黒たんぽぽめ!
俺が怒ったら怖いねんから!
「ああ、そうだ。置き土産にいい事を教えてあげよう。」
「…何、」
まだ何かあるん。
これ以上何言いたい事あるん。
さっさと帰ってくれへんもう。
そんで直ぐにこーちゃん返して貰いに行くねんから。
じろって松永さんを睨んだらまたニヤリ、ってあの顔で。
どこまで!
どこまで俺を怒らせたら気ぃすむん…!!
「伊達政宗を知っているかね。」
「政宗様!?」
「甲斐への道中、危難にあったようだ。」
「な…」
苛烈苛烈。
深手を負っているようだが、いやはや無事かどうか。
「それ、どういう…」
「では私はこれで失敬するよ。」
「ちょ!」
待って!
手を伸ばしても平茸さんはマントを翻してすぐに消えて、静かな窓際が戻ってくる。
俺はぼうぜんと窓の外を眺めるだけがせいいっぱいで。
「(…)」
「こーちゃん…」
こーちゃんも俺の頭を撫でてすぐに背中を向けてしまう。
こーちゃん。
こーちゃん。
こーちゃん…!
何て言っていいか分らんくて、言葉が出やんくって、のどの奥が痛くって、ぎゅ、ってその背中に抱きついた。
「こーちゃん。」
「(…、)」
「絶対に迎えにいくからね。」
待っててね。
それまで我慢してね。
平茸さんに負けたらあかんよ。
こーちゃんは俺のこーちゃんなんやからね。
「(こくん、)」
「うん。」
ほんなら。
寂しいけど。
ちょっとの間だけな、
「いってらっしゃい。」
「(ぺこり)」
すぐにこーちゃんは見えへんようになって、自分の部屋に俺はぽつーん。
急に静かになった部屋でぽつーん。
でもあの大きな背中が消えてしまう時。
いってきます、って。
こーちゃんが言うた気がした。
……
………
「…は!氏政じいちゃん!!」
あかん!
まだ山燃えてる!
先に消火!!
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こーちゃん取られてしまいました。
次回はじぃちゃんとこ行って甲斐に政宗様追いかけようかと。
それでは!
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