どれぐらい歩いただろう。
未だ鬱蒼とした森の中を抜け出せない。
顔色には出さずとも小十郎は焦っていた。


今はまだ日が高いはずなのに辺りは暗く、その仄暗さが背中にのしかかるようだ。
腕の中の主の息は弱い。


急がなければ。
この先にあるのは確かに甲斐だ。


崖の上から向かった奴らはそろそろ着いているだろう。
不器用な奴らばかりだが、迎えられただろうか。
下手な事をしてなければいいが。


「ふっ…」


思わず漏れた笑みにどこか意気づけられた。
主を抱く腕に力を込め一歩を踏み出す。


さぁ行きますぞ政宗様。
甲斐に着きますればまた真樹緒に文でも書いてやられませ。
心待ちにしている事でしょう。
その内にあちらから鴉が飛んで来るやもしれません。
日記のような真樹緒の文を持って。


「参りますぞ。」


後一歩、もう一歩、ゆっくりと踏み出だす。
ぐ、と少し抜かるんだ道に足をとられたその時。



「そこに誰かおられるか!!」



大きな砂煙が目の前を覆い馬の嘶きが聞こえた。
蹄の音と若い男の声。
主を庇い敵かと身構える暇も無く、目の前に現れたのは赤い男。


「っ誰だ…!」


煙の奥にいる男の持つ壮気の何と強い事か。
その若さ故と、その身に潜む何かと。


身が奮う。
そして思わず喉が鳴った。


「おお!やはり!」
「てめぇは…」
「某は真田源次郎幸村、武田の武将にござる!」


貴殿らは。
と、馬を下りた若者に来たかと。
ようやっと甲斐に、と柄にも無く胸を撫で下ろした。


「俺は伊達臣下、片倉小十郎景綱。」


こちらは我が主、伊達政宗様にあらせられる。


「なんと…!」


ご安心めされよ政宗様。
我らが目的地にやって参りましたぞ。


「真田幸村。」


膝を折った真田幸村にこれまでの経緯を話し小十郎は頭を下げた。


「か、片倉殿!」


武田信玄からの書状により、甲斐に向かう只中だった事。
道中何者かの爆撃に巻き込まれた事。
その原因は分からないが負傷した仲間が甲斐に向かっている事。


主が爆撃を体に受け傷を負った事。


助力を求めたい事。
深く頭を下げれば「片倉殿!」と。


「頭をお上げ下され。」


貴殿らにお館様が書状を送っていた事は知り申しております。
この度の道中危難でござった事でありましょう。
甲斐はすぐそこにござる。
早く政宗殿をこちらに。


「真田…」


馬を引き、真摯に視線を送る若者の何と一心な事か。
目を見張る小十郎に構わず幸村は政宗の肩を取る。
さぁ早くと振り返る幸村は頼もしく、思わず小十郎は口元が緩んだ。

-----------

やっと甲斐に着きました。
次回はキネマ主側から。
まだまだまったり出来ませんが、頑張ってのりこえまする。

  

book top
キネマ目次
top
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -