馬を走らせて一日、丁度旧北条の領地に差し掛かったところで一息を入れた。


今頃真樹緒はどうしているだろう。
城を駆け回り、成実や風魔と騒いでいるのだろうか。
竹筒に入れた水を飲み干しながら、はるか奥州を仰ぐ。


日が落ちてきて空気も冷えてきた。
寒い寒いと風魔にへばりついているかもしれない。
相変わらず尻に敷かれた忍は断ることもできずおろおろと身を固めるのだろう。


「くくっ…」


喉が鳴る。


あと一晩馬を走らせれば目指す甲斐だ。
武田信玄と話し合われるのは恐らく東国の連結について。
この分だとお隣さんにも書状が出されているに違い無い。
甲斐の虎と越後の軍神、手を組めば脅威だ。
おっさんの掌の上で転がされるつもりは毛頭ないが、魔王が戦の準備を始めた今なら話は違ってくる。


「…」


血生臭い噂の付き纏う魔王はやはり血生臭い方法で美濃を落とした。
己の奥方の国を。
ああ全く胸糞が悪い。
浅井はどう動くか分からないが、魔王の妹がいるのだ義兄に逆らえはしない。
逆らったところで妹もろとも北近江を落とされるのがオチだ。


「ふん…」


そして未だ動きを見せない、明智。
死神と言われるあの男。
魔王の飼い犬でいるような男じゃねぇのに気味が悪いぜ。


「政宗様、」
「Ah?」
「鴉が。」
「鴉?」


小十郎の声に空を見上げれば薄闇に大きな影が見えた。
野鳥の鴉かと思ったが、どういった訳かこちらに向かって飛んでくる。
徐々に大きくなるその陰はばさばさと俺の頭上で暫く羽ばたいてから、ゆっくりと降りてきた。


「ガァ、」
「Ah―、お前。」


馬の鬣にとまり、毛づくろいをする鴉の足には見覚えのある飾りが。
これは真樹緒の「けいたい」とやらについていた「すとらっぷ」だ。
真樹緒が拾ってきた鴉と他の鴉との区別が出来ないと言い、何やら紐のような物を足に括りつけていたのを思い出す。
ならこいつは真樹緒が世話をしていた「カー君」とやらだろう。


「ギャァギャァ。」
「政宗様、足に何やら紙が。」
「Ah?」


大人しく留まる鴉の足をとる。
すとらっぷと同じように結んである紙を外せばまた鴉が「ギャァ」と一つ鳴いた。


「小十郎、見ろよ。」
「いかがなされました。」
「真樹緒からのletterだ。」


小さな紙を開けば可愛らしい文字が並んでいる。
まだまだbalanceが取れないと言いつつも、小十郎に日に日に上達していると言わしめるその字は成る程本人そっくりのcuteな文字で、小十郎と並び覗き込めば日記のように今日あった事がつらつらと書いてあった。


夜、ついに風魔を床に引き込む事に成功した事やら。
朝は手作りの豆腐を食べたやら。
小十郎の畑に水をやっていたらもぐらが出た事やら。


「楽しそうじゃねぇか。」
「真に。」


く、と笑いをかみ殺した小十郎と共に肩を竦めた。
すぐに紙と硯の用意をし始めた小十郎は本当によく出来た右目で。
お前も書いてやれと紙を受け取り奥州の真樹緒を思う。


さぁ、こちらは何を書いてやろうか。
道中の景色か又は甲斐の土産か、お前が恋しい事かそれとも。
小さな紙に書ききれるだろうか。


自分の仕事を分かっているのか静かに羽を休める鴉に「もう少し待ってくれるか」と声をかけ。


「ギャァ」


小さな欠伸と共に返ってきた返事に満足して筆を取った。


***


「なー、こーちゃん。」
「?」
「カー君、政宗様に会えたかなぁ?」
「…(こくこく)」
「カー君賢いもんなー。」


お返事くるかな?
こくこく


「楽しみやなー。」

  

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