北条が落ちて、風魔の行方が分からなくなった。
この庵を与えられてから日々頭を過ぎるのはその事ばかりで。
忍を携える必要の無い毎日を、かつてを思い返し溜め息を吐いて過ごしていた。


けれどこの日。
前触れも予感も無く訪れたこの日。
目の前でけらけらと笑う子供とまるで別人の様に人間らしくなった元自分の忍を見て、氏政は心から安堵した。


政と戦に向かない不甲斐無い主だったと思う。
戦忍のお前に苦労を強いた事もあっただろう。
ただ静かに傍に侍っていたお前に自分は何か返してやれただろうか。


「風魔よ。」
「(…)」
「よい主を見つけたの。」


髭を撫でつけ真樹緒という子供の傍に控えている風魔に笑う。


自分はもう、槍をふるう事は無い。
戦に出ることも無い。
安全なこの庵を与えられ、そのまま余生を過ごそうと思う。


だがお前は未だここで燻っている器では無い。
伝説の忍、風魔小太郎。
その名は重くこれからも世に轟いて行くはずよ。
汚い事もあるだろう。
手を染める事も然り。


「ほっほ、」


けれどその時に、隣にいるお前の主がその小さな優しい子供である事に大きな喜びを感じている。


欲に飢えた武将等では無く。
金に物を言わせる国主でも無く。
傲慢に走る非道でも無い。


お前の事を「いい子」だと言ってお前の頭を恐れる事無く撫でるその子供で良かったと切に思う。


「じぃちゃん、じいちゃん。」
「うむ?」


どうした、と真樹緒を見れば今まで緩んでいた顔が心なしか引き締まっていて氏政は首を傾げた。


おお。
そんなに眉を寄せて何事じゃ。
さっきまで風魔とじゃれていたのではなかったかの。


「あんな、あんな、」
「うむ。」
こーちゃんは、俺が幸せにします!
「(!!)」


……
………


…うむ?


三つ指をついて、ぺこりと頭を下げた真樹緒に「そりゃぁちょいと違わんか。」と髭を撫で付ける手が止まった。


これこれ真樹緒。
それでは風魔の嫁入りじゃ。


うん?こーちゃんを俺に下さいのがよかった?
「同じじゃ。」
ぬーん。


まぁ。
風魔が嬉しそうじゃからどちらでも良いがのう。
ふぉっふぉっふぉ。


「じーちゃん、ちょおくすぐったい!」
「(こくこく!!)」


笑いながら撫でた二人の髪は柔らかく。
互いに照れて顔を見合わせる様子を氏政は満足げに眺めていた。


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やっとこじいちゃんが終わりました。
暇があればじいちゃんとこに遊びに行っているキネマ主であったらいいな。
お土産を持って。
小太郎さんと二人、おじいちゃんに頭を撫でられて笑っていたらいい。

次は番外か本編かどちらかを。
本編なら筆頭達側から出発です。

  

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