こーちゃんがぴょーんって飛んですぐ、小さな小屋みたいなんが見えてきた。
森の中にぽつんってある小屋で何だかちょっと寂しげ。
ここは北条と政宗様のお国の国境なんやって。
そう言えば俺が初めて来たとこもそんなとこやったなぁって思ってたら、こーちゃんが急降下した。


「あの小屋?」
「(こくん)」


あの小屋にね、こーちゃんの前のご主人さまがおるらしいん。
確か前政宗様が言うてた北条さんやで。
ご隠居してるらしいような事は聞いたけど、ここにおったんやねえ。
こじんまりしてる小屋やけど(庵ってゆうんかなぁ?)何やろう、趣き深いってゆうん?
難しなぁ。
えーとね、簡単にゆうたらやぁ。


「……松尾芭蕉とか住んでそう。」


住んで一句よんでそう。
小林一茶とかでもええで。
やぁ、雰囲気やけど。
全体的に雰囲気やけど。
ぬーん!


「(?)」
「あ、こーちゃんは気にせんでええねんでー。」


ただのだいいちいんしょうだからー。
きにしないでー。
ふかくかんがえないでー。


「(??)」


よしよしではでは。
入り口さがそー。
あの小屋に入るんやろう?
なっ、って笑ったらまだ頭にはてなマークが浮かんでたこーちゃんはそれでも素敵にしゅたっとその小屋の窓辺近くに着地したん。


「うん?」


あれここ窓の正面やで、こーちゃん。
多分入り口ちがうよ。
入り口はあそこのほら、笹に隠れたあれちがう?
見上げたんやけど、こーちゃんはちっさい松の木に絶妙のバランスで立ったまんまなん。
俺はこーちゃんに抱えられたままやし、どうするんかなーって思ってじっとしてたらこーちゃんがおもむろに。



「(………)」



ガラッ



開けるん!?


いやいやいや!!
まじで!?
こーちゃんまじで!?
誰か人おったらどうするん!?



ひょぇぇぇぇ!
!!


おった!!
おじいちゃんおった!
誰もおらんと思ってた窓の向こうに湯のみを持ったええお歳のおじいちゃんがお茶を零す勢いでびっくりしてました!
俺もびっくりした!!


「(…、)」
「え?この人がこーちゃんの元ご主人?」
「(こくん)」


へええええー。
このおじいちゃんがなー。
白いお髭のおじいちゃんがなー。
こーちゃんのおじいちゃん。


「ごぉっほごほごほごほ!!!」


って、おじいちゃんむせてるけど。
めさめさむせてるけど。
まさかさっきのお茶やろうか大変!


「こーちゃん、中入ろ!」
「(こくん)」


むせてうずくまってるおじいちゃんが心配で松からひょいっとお部屋の中へ。
ちょいと窓から失礼します!
お行儀が悪いけど緊急事態やからおおめにみてね!


「じいちゃん大丈夫?」
「ぐぇっほげほっ!」
「(さすさす)」


ぞうりを脱いでお邪魔したお部屋の机の前に座ってたおじいちゃんは、やっぱりしんどそうにごほごほむせてたからこーちゃんと一緒に背中を撫でてあげた。
二人でおじいちゃんの背中をさすさす。
小さいけどしんどそうに揺れてる背中をさすさす。
大丈夫おじいちゃんおどろかせてごめんね…!


「だいじょうぶ?」
「…息が止まるかと思うたわい。」
「驚かせてごめんなさいー。」
「(ぺこり)」


こーちゃんと二人でおじいちゃんに向かってぺこり。
ごめんなさいってぺこり。

ぬーん。
ほんと急にごめんなさいー。
びっくりさせてごめんなさいー。


「もうよい、もうよい。」


頭をあげんか。
俺らをじいちゃんは白くて長いおひげをさわりながらよいよいって言いながら頭を撫でてくれる。
撫でた後は俺とこーちゃんを見渡して。


「それにしても、」
「(…)」
「こんな所に誰がと思うたが。」


おぬしじゃったか。
風魔。


「……………(ぺこり)」
「よう来たの。」


ほっほっほ、って嬉しそうに笑った。
とっても優しそうに笑った。
それはもう暫く会ってへん孫を見る様な目で笑った。


「おぬしは…」
「はじめましてー真樹緒ともうしますー。」


はい、初めましてー。
きちんと正座してご挨拶。
それからもう一回ぺこりー。

こんにちはこーちゃんのおじいちゃん!
窓から入ってごめんなさいー。
そんでもってびっくりさせてしまってごめんなさいー。
まさか窓開けたすぐにおるとは思わなくってー。


「ほ、風魔の新しい主かの。」
「うい!」


そうなん。
ちょっと前にお友達になってね。
それから色々あって今はしゅじゅうってやつでね。
でもやっぱり俺はお友達やと思ってるしね。
大事な大事なこーちゃんなん。


「そうかそうか、わしは北条氏政と申す。」
「ぬん!こーちゃんのおじいちゃん!」
「おお知っておったか。」
「こーちゃんからここへ来る前にちょっぴりお話きいたん。」


おじいちゃんのお話聞いたんやで。
前のご主人さまやってゆうんもね。
こーちゃんええ子やからご主人さまもええ人なんやろうねってお話してたん。


「じじには勿体無い言葉じゃな。」
「またまたごけんそんー。」


ほらこーちゃんとっても優しいしやあ。
お仕事の方もすごいってゆうん?
何かさすが伝説ってゆうか。
あ、もちろんいつもは可愛いこーちゃんで素敵なこーちゃんなんやけど。
俺いっつも助けてもろうてるん。


「(!?)」
「うむ、それについては異論はないぞい!」
「(!?)」
「じいちゃん分かるー!?」
「もちろんじゃ。」


風魔は忍の中でも最高に位置する忍じゃぞ。
仕事を任せれば刹那で終わらせる腕の持ち主じゃ。
それでいてよう気が利いての。
儂がそろそろ茶が欲しいと顔を上げればすっと差し出して来るのには驚いたぞい。


「(っ!っ…!)」


ああー分かるー!
分かるーじいちゃん!
こーちゃんっておって欲しい時にちゃんとおってくれるんやんなぁ!
俺もねえ、お腹がきゅるって鳴った時があったんやけどねえ。
その時すぐにこーちゃんが来ておにぎりくれたんやで!
凄いとおもわない!


「(おろおろ!!)」


うむうむ。
よう分かっておるではないか、真樹緒よ。
だが風魔はこの風貌じゃろ。
よう勘違いをされてのう。
本来は優しい子なんじゃが、本人が無頓着でのー。


「(おろおろ!!)」


そうなのよねー。
こーちゃんもっと欲張りになったらええねんなー。
可愛いしやあ。
ちょー優しい子やのに勿体ないやんな!
じぃちゃんも分かってくれる!?



「〜〜〜〜〜っ!!!」



だきっ!



「ぬ?こーちゃん?」
「(ふるふるふるふる)」
「あれやあ照れてもうた?」
「(…、)」


途中からは知っててやってたんやけどねー?じいちゃん。
のー?真樹緒。


「(…っ!!!)」


じいちゃんとにっこり笑ってたらこーちゃんがちょっといじけてしまう。
すみっこにうずくまって小さくなっていじけてしまう。


あああ!
こーちゃんごめん!!
かんにん!!
ちょっとおろおろするこーちゃんが可愛かったからやぁ。
調子乗ってもうたよ。
ご機嫌直して、こーちゃん。
ごめんねこーちゃん。


「(…)」


こーちゃんの頭をよしよし。
もうせえへんから、ごめんね?ってよしよし。
手を合わせてこーちゃんの顔を覗き込んだら見えへんこーちゃんの目が「もう、」って言うた気がした。
あ、やっぱりこーちゃん可愛い。

ほんまにもうせんから「約束」ってゆびきりげんまん。
そんな俺らを見ながらじいちゃんは「ふぉっふぉっふぉ」って笑って。


「じーちゃん?」
「真樹緒よ。」
「うん?」


どないしたん?
じいちゃんがなぁ、お髭を触りながら呼んだん。
こーちゃんと二人並んでちょっと真剣な顔のじいちゃんに首を曲げたら頭をぽんってな。


「ぬ?」
「(?)」
「風魔を頼むぞい。」


くしゃっと髪の毛をまぜられた。
そのまま頭をつかんでがしがしがしがし。
おおお。
じぃちゃん、結構力強い!

どうしたんおじいちゃん急に!
撫でられるんはうれしいけど何で撫でられてるんか分れへんよおれ…!

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もう少し続きます(汗)
次はまさかのじいちゃん視点かなぁと思っていたり。
じいちゃんは実はすごく自分以外の人の事を考えている人だと思うのです。
久しぶりに会った初孫が人間っぽくなってて嬉しいじいちゃん。
孫が一人増えて、結構庵生活をエンジョイしてたらいいな。

  

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