魔王が戦の準備をしているらしい。
そんな噂が流れてきた。


やっと重い腰を上げたかと口角を上げる。
今まで静観していたのが不思議なくらいだ。
遠征は恐らく未だ無い。
周辺の地盤を固める気だろう。
この分だと真っ先にやられるのは今川で、今頃は兵を集めるのに躍起になっているはずだ。


十中八九、勝つのは魔王だろうが。


「むにゃ…」


腕の中でもぞりと真樹緒が動いた。
少し力を緩めればころんと寝返りをうって。
夜明けの薄暗さでも小さい真樹緒の顔がよく見える。
両手で包み込める程のそれは柔らかく、温かかった。


「…真樹緒。」


口付けた。
とても熱い口付けだった。


「真樹緒、」


小さな額にかかる前髪をよけて出てきたそこにもう一度口付ける。
むにゃむにゃと寝言を言っていた真樹緒が笑った。
へらへらと安売りしやがってこの野郎。


愛しくてどうにかなりそうだ。


「真樹緒…」
「ぬうーんー…」
「変な寝言だな。」


笑い、ゆっくりと真樹緒の体を離し起き上がる。


なぁ真樹緒。
甲斐への道中、危険が無いとは言いきれない。
共の兵も最小限だ。
だからお前を連れては行けない。


俺を待つと言ったお前に俺がどれ程満たされたと思う。
寂しいと言ったお前に俺がどれ程焦れたと思う。
お前に望まれる事に、俺がどれ程喜びに唇を噛み締めたと思う。


「ぬー…」
「何て言ってんだ?」


伝えたところで何の事だと首を傾げられそうだが。


「くくっ…」
「政宗様、」


白み始めた空に照らされて、障子に人影が映った。
日の出はもうすぐだ。
それまでに城を出ねばならない。


「小十郎か。」
「は、」


魔王の噂を聞きつけて諸国は少しずつ動き始めている。
先の北条との戦の後、奥州にも書状が届いた。
甲斐の虎、武田信玄からの書状だ。


『春近し、甲斐の枝垂桜を見に参られぬか。』


中々おもしれぇおっさんじゃねぇか。
回りくどい言い方は嫌いじゃねぇぜ。


「準備は出来ております。」
「Good、」


入れと声をかければ小十郎が渋った。
本人は真樹緒の顔を見ずに出るつもりだったらしい。
後ろ髪を引かれます故とは同感だが、そうはいかない。
お前と共に無傷でさっさと帰って来いと言われている。
俺にだけ覚悟をさせるつもりか。
fairじゃねぇぜ。


「小十郎。」
「は、」


床から上がり未だ肌寒い朝に息を吐く。
春が近いと言えど奥州の朝は冷える。
今日から難儀だな、と思わず天井に控える伝説の忍に口元が緩んだ。
うちのsweetは寒がりだ。
めいっぱい温めて貰わなくてはならない。


「行ってくるぜ、」


小さく呟き真樹緒の頬に口付けを。
少し唇にも触れた。
夜のような熱さは無い。
ほのかにぬくもるそこに満足して小十郎を呼んだ。


「挨拶ぐらいして行け。」
「…政宗様、」
「いい。」


何を遠慮する事がある。
お前は真樹緒が大事なんだろう。
眉を上げて笑うと小十郎が大きくため息を吐いた。


Ah―?
心外だぜ?


「全く貴方様は…」


呆れたように首を振る小十郎に肩をすくめ、顎をしゃくる。
じっと真樹緒を見た小十郎は成実が見たら目を剥くような笑顔でその小さな頬を撫でた。


ああ、そうだな小十郎。
お前もだろう。
真樹緒に救われ、満たされ、そして時に焦れているのは。
けれどその愛しい存在はいつになったら自覚してくれるのか分かりゃしねぇ。


お互い厄介なものを愛でたものだ。


「真樹緒、」


小十郎が足を折り、腕を折り、真樹緒に口付けた。
頬と額に二度、確かめるように。
顔を上げた後最後の苦笑いの意味は分からないが、幾分か緊張を和らげ肩の力が抜けた右目はいい顔をしている。


「政宗様、」
「ああ、出る。」


守れよ。
天井に目線を送るとぴりぴりとした気をあてられる。
おお怖い。
喉を鳴らせば更にぴりぴりと。
言われなくとも、と見送られ。



「奥州筆頭伊達政宗、推して参る。」



目指すは甲斐。
武田信玄の治める地だ。

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実は主従にちゅーされまくってましたよっていう事が伝わればさいわいです…!

総受けよりは総愛されです。
キネマ主。
愛でられる方。
要所で独占欲はありますが、大事には関係無くなるのが、理想…(あくまで主従で)
でも甲斐主従と奥州主従間ではまたひと悶着ある感じで参りたいのです。(欲張り)

次回は小太郎さんとのほほん。
隠居した北条のじっちゃんでも訪ねてみようかなぁ。

  

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