「よろしいのですか、政宗様。」
「お前がそれを言うのか?小十郎。」


く、と笑みを殺して背後の座敷の様子を伺った。
「俺が薬持っていくん!」と入っていったきり真樹緒はまだ出てこない。
二人きりにするのに相変わらず自分の右目は苦い顔をしたが、俺はそれ程心配していない。
主を失った手負いの伝説の忍が無駄な殺生などする必要は無用で、あの怪我では動くこともままならないだろうからだ。


それにきっと。
今頃はこの扉の向こうで優しい優しいあの子供に毒気を抜かれ、屈託の無い笑顔で忍に足りない何かを諭されている事だろう。
目に浮かぶようだ。


「何故、助けられたので。」
「Ah―?」


反対側に腰を据える小十郎に眉を上げ「さぁ、どうしてだろうなぁ」と惚けてみる。
政宗様、と窘められたが本当はお前も気づいているんだろう。
答えは一つ。


真樹緒が「助けて」と願ったからだ。


北条と伊達の戦の話を聞いて尚、
小十郎の傷を伝説の忍がつけたと聞いて尚、
今にも死にそうなその伝説の忍の傷を小十郎がつけたと聞いて尚、
ただ「助けて」と願ったからだ。


戦を起こした俺を恐れず、忍を斬った小十郎を恐れず、小十郎を斬った忍を恐れなかったからだ。
真樹緒は言った。
北条や伊達に何の違いも無く、その間であった諍いにも違いは無く、ただ傷を負った奴がいるから助けたいと。

洗われた様だ。
見透かされた様だ。
撃ち落とされた様だ。
そしてやはり心の真ん中が満たされる。


「カラスの母さんらしいぜ?」
「は…?」


羽を持ち、鴉を携え倒れていた風魔小太郎は真樹緒に言わせるとカラスの母さんらしい。
伝説の忍が随分可愛らしくなったものだ。
いいじゃねぇか。
カラスの母さんで結構だ。


笑いながら立ち上がる。
そろそろカラスの母さんとやらはうちのpappyに懐いただろうか。
せりあがる笑みをかみ殺した。
いくら懐いても構いはしないが独り占めは困る。


「政宗様?」
「入るぜ、小十郎。」
「は、」


扉ごしに真樹緒に声をかけた。
「静かに入ってきてなー」とお許しが出たところで障子を開いてみれば、布団からひょっこり顔を出した伝説の忍が真樹緒に頭を撫でられているところで。


静かに頭を撫でられる伝説の忍に嗚呼やはりお前もかと、次に漏れた笑みは隠さなかった。


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考えて無い様で筆頭は考えましてたよ的な話です。

  

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