二度と開かないと思っていた目が開いた。
重いが、けれど確実に開いた目は長い前髪を通しどこかの天井を映している。


何故だ。
自分は確かに倒れたはずだ。
腹から血を流し、森をさ迷い歩き、力尽きたはずだ。



風魔小太郎は自分が生きている事が不思議でならなかった。


「(…)」


相変わらず何もかもが重い。
けれど自分は生きている。


そろりと腹に触れてみると何か布が巻かれてあった。
これは手当ての跡だ。
あれほど流れていた血も止まっている。
自分の忍具は全て無くなっていたが、あったところで今襲い掛かられても反撃すらままならないだろう。
治療をする時に針でも打たれたのか、体が鈍い。


指を動かしてみる。
意外にも動いて、驚いた。
傷が癒えている。


「(…)」


一体誰がこんな死に損ないの忍を。
よっぽどの阿呆だろうと、目を流した時ふと小さな気配が。


「…」


足音も隠そうとしないその小さな気配はこちらに近づいてきている。
自分をここへ連れてきた張本人だろうか。
けれど小さな、本当に小さな気配だ。
血で汚れた忍に触れるにはおよそ似つかわない子供のような。
首をひねれば大きな音を立てて左手の襖が開いた。


「あー!目ぇ覚めてる!」


出てきたのは気配の通り、小さな子供だった。


「やあやあ、もう大丈夫やで?」


とたとたと走り寄ってきた子供は何が楽しいのか笑いながら湯のみを差し出してくる。
これ薬やからちゃんと飲むんやで!とまるで幼子に言い聞かせるように。


「(…?)」


なぜ。
何故助けるような真似をするのだろうこの子供は。
何も利益にはなりはしないのに。
放っておいても死ぬ身だったのに。


じっと見ていたらどうしてだか頭を撫でられた。


「えー?やってほら血だらけやったから。」


ほうっといたら死んでしまうやん。
血って流し過ぎたらもう手遅れになるんやで。
一大事なんやで。
もっと体だいじにしてね。


「でももう、お医者のじっちゃんが手当てしてくれたから大丈夫やで。」


助かってよかったねえ、と。
子供が笑う。


「(…)」


良かったのだろうか。
己は忍だ。


「ぬん、俺は嬉しいん。」


やって俺もうほんまに死んでしまうかと思ったんやから。


「がんばったねー。」
「………」


お母さんが目覚めて、血も止まって、俺のこと見てくれて。
よかったなぁって思うよ。


……
………、


「(……)」


母さん?


「え?うん、風魔小太郎さんはカラスのお母さんやろう?


カー君元気やで。
もりもりご飯食べてたで。
と、何故か確信を持って心当たりの全く無い事を言って子供が笑うので。



……(フルフルフルフル)



思い切り首は振っておいた。

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小太郎さんを拾いました。
次回は政宗様側から始まる、かな。
もっと、こうギャグっぽくしたかったのに大人し目になってしまった(汗)
  

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