「真樹緒を探せ!!!」


朝から道場で汗を流し、「一息おつき下さいませ」と小十郎が持ってきた菓子が、真樹緒が以前うまそうに食っていたものだったのを思い出し部屋に行った。
そしたら部屋は蛻の殻で。
肩をすくめ、そう言えばこの時刻は城中の手伝いに走り回っているんだったかと足を厨に向ける。
うまそうな匂いが漂ってきたのは今日の夕餉だろうか。
近くの女中に声をかけたが「そういえば、本日は拝見しておりませぬ。」と首を曲げた。


ならば長い城の床を雑巾両手に駆けているのだろうか。
相変わらず途中で足がもつれ、転がっていそうだが。
そう思っていつも小さな足音が聞こえてくる廊下に行ってみたがそこもしんと静まり返り申し分なく磨かれた床が広がっているだけだった。


「Ah―?」


そのまま首を傾げていると「どうしたの、梵。」と成実が顔を出した。


「真樹緒がいねぇ。」
「あれ?さっき会ったよ。」


何か梵達を探してたみたいだけど。
あれ?
俺、ちゃんと梵達が道場にいるって伝えたんだけど。
見て無いの?
そう言えば山に行くとか言ってたような気がするけど。


「……Goddamn…」


一人で出歩くなと言ってあるはずだ。
未だ城の中でも迷うというのに山なんぞに行ってまた遭難する気かあの阿呆が。
顔を手で覆って首を振り冒頭に戻る。


小十郎は直前までいたという医者の翁に事情を聞きに行き、俺は馬を走らせて。
青葉山に来てみればどこか山が騒がしい。
鳥たちが騒ぎ生暖かい風が泳ぎ、いつものそれではない。


「Ah―…何だ?」


馬を下りて思わず鞘に手を当てた。
この山で抜くような事は無いだろうが、この纏わりつくような空気が不気味だ。
己の息抜きとしてよく使う場所だが少しも気がぬけやしねぇ。
嫌な汗が頬を伝う。


「…どこだ真樹緒!」


名を呼び辺りを見渡せどその姿は見えず。
チ、と舌打ちを残し進めばむせ返るような鉄の臭いが。


「…っ?」


これは。
これは一体どういう事だ。
鉄臭いこれは血の臭いに間違いない。
そんなものが何故ここで。


「真樹緒…!!」


まさか。
まさかそんなはずは無い。
真樹緒の血の訳が無い。
振り切るように名前を呼んだ。


早く返事をしろ。
柔いその声で「政宗様」と応えてみせろと声を上げれば。


「真樹緒!!」
「ぬ?政宗様ー?」
「真樹緒!?」


探していた真樹緒が着物を血みどろにしてそこに立っていた。


  

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