「おや、薬草がないのぉ。」
俺がいっつもお手伝いしてるお城のお医者さんのじっちゃんがな、長いあご髭を撫でながらつぶやいた。
じっちゃんがお薬作ったりする薬草が無いねんて!
ぜっさんお手伝い中の真樹緒ですこんにちはー。
「ぬ?もう全然?」
「食べ過ぎ、下痢、傷薬の薬草が切れておってなぁ。」
「あれやあ。」
それはたいへんー。
薬棚の中を調べてるじっちゃんは御歳78歳のお医者様で、政宗様が小さい時からこのお城で働いてるんやって。
やんちゃばっかりする政宗様の怪我の手当てをいつもしてたらしいよ。
ぬーんたのもしー。
じっちゃんの薬は傷薬も飲み薬もよく効くんやで。
俺はねえ、いっつも床掃除とか女中さんの手伝いとかの後ここへ来てじっちゃんの薬の整理とか手当ての手伝いとかやってるん。
サラシの洗濯も俺の仕事!
で、今日もじっちゃんのとこに手伝いにやってきたんやけど、じっちゃんが何や困ってて。
どうたん、って聞いたら薬を作るための薬草が無いらしくって。
そうなったらこれは俺の出番やと思うやん?
俺がお手伝いするしかないって思うやん?
「はいはいはいはいじっちゃん!」
「ぬぅ?」
「俺、薬草とって来る!」
じっちゃんがいつも薬草取りに行くんて裏の青葉山なんやけど、あそこやったら近いし俺でも行ける!
取ってくる薬草もな、じっちゃんが描いた絵見ながら探すから大丈夫やし!
行ける!
一人で行ける!
てか行きたい初めてのお使い!!
じっちゃんは俺が帰ってくるの待ってて!
「むぅ…」
「なぁなぁなぁー…」
お願いじっちゃんー。
正座して手をぎゅって握り締めてじっちゃんにおねだり。
でもこのじっちゃん強敵でな、政宗様には聞いてもらえるようなおねだりでも聞いてもらわれへん事があるん。
やから慎重におねだり。
俺に任せてって。
じーって座布団に座ってるじっちゃんを見る。
目ぇ瞑ってるじっちゃんをむむむっと見る。
ここは根気が勝負やで。
「じっちゃーん…」
ふむ、ってまた髭を撫でたじっちゃんが「真樹緒」って俺を呼んだ。
「はい!!」
「一人で行ってはいかんよ、」
「…えー…」
大丈夫やってばー。
青葉山ってそこやで?
すぐ裏やで?
絶対大丈夫やもん。
「いかんよ。」
「でも、」
「殿か片倉様の了承を貰ってな、」
「おれ、」
「いかんよ。」
「くぅぅぅ…」
じっちゃんが怖い!!
「ぬーん…」
って事で政宗様とこじゅさんを探してるんやけど全然まったく見当たりません。
全然全く姿が見えません。
あんまり歩き回るとお城で遭難とかゆうちょっぴり非常事態やから俺が知ってるところしか探してへんのやけどね。
政宗様、部屋にはおらんかったん。
こじゅさんも畑見に行ったけどおらんかったん。
二人ともおらんかったん。
これはもう一人で青葉山行ってええって事ちがう?
初めてのお使いやってもええって事ちがう?
……
………
きっとそう。
絶対そう。
よし、これはもう行くしか無いって決意を固めてたら。
「あ。」
こっち向いててくてく歩いてくるおシゲちゃんを見つけました。
今日はじめましてのおシゲちゃんを見つけました。
何だかとっても嬉しかったので俺はおシゲちゃんめがけて全力ダッシュです。
何せおシゲちゃん今日会うん初めてなんやもんおはようおシゲちゃーん!!
「おシゲちゃーーん!!!」
「あ、真樹緒。」
「とお!!」
「おっ、」
廊下を走っていっておシゲちゃんにジャーンプ!
手加減なしでジャーンプ!
距離にして約三めーとるぐらいまで近づいて両手を広げておシゲちゃんに飛び込んだ。
びっくりして目を見開いたおシゲちゃんはそれでも逞しい腕を全開にして俺を難なく受け止めてくれました。
ぬん!
力持ち!!
「何してんの、真樹緒。」
「うん?」
こんなとこうろうろして、っておシゲちゃんにだっこされた。
いつも何だか忙しそうに城のお手伝いしてるのにってだっこされた。
やあやあ聞いてくれるおシゲちゃん。
俺ね、政宗様とこじゅさんを探してたん。
ちょっと聞きたい事があってやあ。
山にね、行きたくってね。
ぬん。
おシゲちゃんこそどうしたん。
この時間っいつもお部屋でお仕事違うん?
「俺はちょっと鬼庭殿に呼ばれてね。」
「おに…」
鬼庭さんやて。
何かおそろしい名前の人やね。
鬼みたいな人なん?
「近々真樹緒も会えると思うよ。」
「そう?怖くない?」
「さぁ、真樹緒がどう思うかだよね。」
俺は怖くないけど、って言うおシゲちゃんが笑う。
そっかぁ。
そうやんねー。
会ってみやな分からんよねー。
せんにゅうかんはよくないよね!
うん、納得!
「真樹緒は梵達探してたの?」
「ん?うん。」
ちょっと薬草取りに行くのに、うんって言うてもらわなあかんから。
オッケー貰わなあかんから。
「うん」て言うてくれやん確立のが高いけど。
一人で行くなって言われる確率のが高いけど。
「さっき道場で見たよ。」
「道場?」
「俺が朝いつも行ってるとこ。」
「ああ!!」
あそこ。
釣鐘のお隣の道場。
前が広場みたいになってるとこやんね。
たまに外のその広場で政宗様刀の練習?してるよね。
今日はあそこにおんねんやあ。
どうりでお部屋探してもおらんはず!
「俺、これから部屋に戻るけど背中乗っていく?」
連れていってあげるよ?っておシゲちゃんが笑った。
やあ、ごめん!
ごめんねおシゲちゃん!
お仕事やんねえ。
忙しいのにごめんやぁ。
「んーん!だいじょぶじょぶ。」
「そ?」
「ん!」
よじよじおシゲちゃんから降りてお見送り。
足とめてごめんねってお見送り。
ばいばいおシゲちゃんまた後で!
後で一緒におやつ食べようね!
女中さんからおかしもらったから!
「ばいばい。」
「ばいばーい!!」
ぬんぬん。
お見送り完了!
それでやあ、おシゲちゃんが言うには政宗様とこじゅさんは道場におるらしいやん?
って事は部屋には暫く戻ってけぇへんって事やん?
俺、今こっそり青葉山いってもばれへんって事やん?
「…ぬーん…」
これはね、もうおシゲちゃんに政宗様らの居場所を聞かんかった事にしたらどうやろう。
おシゲちゃんから何も聞かんかった事にしたらどうやろう。
そんで俺は青葉山に政宗様らを探しに行くって事で…
うん。
大丈夫大丈夫。
「よし、」
行こう。
おシゲちゃんが歩いてった廊下をチェック。
誰もおらんよ大丈夫。
反対側の廊下もチェック。
女中さんがおるけど多分頭ご挨拶されるだけやから大丈夫。
「よし!」
気合いを入れてくるっと一回り。
普通に、いつも通りに、でも素早く女中さんの横を通り抜ける簡単なみっしょんやから落ち着いて。
やあやあではでは。
ぬんぬんではでは。
真樹緒行ってきます!
「あら真樹緒殿こんにちは。」
「こんにちは!」
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