「ちょっとちょっと真樹緒!」
「けーちゃんはやくはやくいそいで。急いでこーちゃんを追いかけて。」
「急いでじゃないよ一体これはどういう事なのさ!」


真樹緒ったら!


後ろに乗ってる俺を振り返りながらけーちゃんが叫ぶ。
大丈夫やから!俺を信じて!ってけーちゃんにろくな説明もせんまま俺はまっすぐ森を駆け抜けるこーちゃんに目を凝らした。
真樹緒です。
お久しぶりの真樹緒です。
こんにちは!


「けーちゃんよそみしてたら危ないよ。」
「じゃあちゃんと説明しろよ!」


ぬん。
けーちゃんのお口があらっぽい。


「今から甲斐に行きたいん。」
「はぁ!?」


やあやああのね。
今ね。
こーちゃんの背中にはあの俺にゆっきーらからのお手紙を届けてくれたお忍びさんがおぶさってるん。
けーちゃんのお馬に乗せてもらってもよかったんやけど、ほらあのお忍びさん怪我してるみたいやからあんまり揺れやんこーちゃんの背中の方がええかなって思って。
こーちゃんがあの甲斐のお忍びさんを見て、血の匂いはひどくないってゆうてくれたんやけどやっぱり傷口とか開いたら怖いしねえ。
やから俺がこーちゃんの背中から下りてけーちゃんのお馬にお世話になってるん。
向かってる先はもちろん甲斐で、このお忍びさんをゆっきーとさっちゃんに届けるのが目的なん。


「甲斐だって!?」
「やってこのお忍びさん甲斐のお忍びさんなんやもん。」


俺お手紙持ってきてもらった事あるもん。
何でこんなところで怪我してたんかは知らんけど、俺今怪我を手当てするもの持ってへんし、それやったら甲斐に連れて帰ってあげた方が安心やと思うし。
前で森の中を颯爽と走るこーちゃんの背中を見た。
うんともすんとも動く様子が無い甲斐のお忍びさんの怪我の具合は俺にもよく分からんくって心配になる。

もうちょっとやからね。
こーちゃんすごく走るの早いからね。
大丈夫やからね。
心の中で応援しながらけーちゃんの着物を握った。


「……危険は無いんだな?」
「だいじょうぶ!」


それは大丈夫!
俺、ゆっきーともさっちゃんともすっごい仲良しなんやで!
お友達なんやで!
しんゆーと言ってもかごんでは無いんやで!
やあ、たまにさっちゃんは甲斐のお母さんになるけど。
最近はたまにどころかしょっちゅう甲斐のお母さんになるけど!
もっぱら原因は俺やけど…!
ぬん!今度親孝行するからね…!

さっちゃんのくだりは俺が恥ずかしいから隠したまま、俺に任せて!って自信まんまんにけーちゃんに頷いた。
そんな俺を眉間にぎゅっと皺を寄せて見てたけーちゃんは俺が頷いたことでやっとその眉間の皺を取ってくれた。
取った後、ついでにおっきなため息も吐いてくれた。
ついでのついでに眉毛をこれでもかと下げてくれた。


えーなに。
なによーけーちゃん。
そんなため息ついちゃって。
呆れた様な顔しちゃって。


「真樹緒の交友関係に今更ながら感心してるんだよ。」


奥州の真樹緒が甲斐のお方達とどうやって知り合うの、なんて野暮な事は聞かないけどさあ。
聞いたって真樹緒だしねぇの一言で終わっちまいそうな気がするけどさあ。
なんだかなあ。


「けーちゃん?」
「……」
「?どうしたん?」
「俺以外にも真樹緒を知ってる奴等がいるんだねぇって。」
「ぬ?俺いっぱい友達おるよ?」


もちろんけーちゃんもお友達やで?
俺の大事な。
そうやろう?ってけーちゃんを見上げたら何だか不満げなけーちゃんの顔と視線がぶつかった。


違うんだよ。
俺が言いたいのはそう言う事じゃなくてさあ。
もっと、こう、さあ。
真樹緒と仲がいいのは俺だけが良かったとかさあ、そんな事別に思ってないけど。
真樹緒が誰と仲良かろうがそれは俺に関係ないんだけど。
でも何か許せないっていうか。
いや誰とでも分け隔てなくあるのは真樹緒の良い所で、それは俺も凄いなって思うよ。
でもさー、そのいい所も俺だけが知ってたいとか、ほら俺達友達だし。

そんな事をもにょもにょ小声で言って唇をとんがらすけーちゃんに首を傾げてきょとん。


「?」


うん?
どういう意味けーちゃん。


「……別になんにもないよ。」
「何にもないん?」
「ないない忘れて。」
「えー…でも、けーちゃん何か嫌な事あるんやろう?」
「ないない、ないから。」


本当ごめん。
俺ちょっとおかしいんだよ。
何か越後出た辺りからおかしいのは分かってるんだよ。


「それより、真樹緒の友達の話しをしてよ。」
「ええん?」
「うん。」


そう言ってけーちゃんはお馬の手綱を引く。
何だかはぐらかされた様な気がしなくもないけど、けーちゃんはそのままもう振り返ってくれやんかったから俺は首を傾げながら今まで出会った人らを思い浮かべて指を折った。


「えっと、まずは甲斐のゆっきーとさっちゃんやろう?それから四国のちかちゃんに安芸の元就様…薩摩のむさし君…?」


あ、明智の光秀さんは近江におったけど今は四国でちかちゃんらとおるはずやから四国でひとくくりね。
ていうか明智の光秀さんもお友達っていうよりお母さんやけど。
近江のお母さんやけど。
最近四国のお母さんとか言われ始めたお母さんやけど。
おやかた様はほら、おやかた様で。
お友達は恐れ多いっていうか。
そうゆうたら元就様もなんかお友達とはまたちょっぴり違った雰囲気なんやけど。


「…ふううううん、真樹緒はいっぱい友達がいるんだねええええ。」
「もー、また機嫌わるなったー。」
「別に悪くなんてなってないよ!」
「やってけーちゃんいつものしゃべり方と違うもん。」
「一緒だよ一緒!」
「絶対違うしやあ。」


いつものけーちゃんはもっと優しいもん。
そんなとがった言い方せえへんもん。
面倒臭いなあって言い方せんへんもん。


「もーしつこいなあ!」


終わり終わり!
この話は終わり!


「ぬーん!けーちゃんがお友達の話してってゆうたんやし!」


何でおれがさらっとあしらわれやなあかんの!
もーう!
ひどい!
けーちゃんの広い背中をぽかぽか叩く。
それでも気が治まらんかったからけーちゃんのもふもふの着物を引っ張った。
俺が引っ張ったぐらいではびくともせえへんけどそれでも思いっきり引っ張った。
けーちゃんがお話してよってゆうたから俺話したのに!
けーちゃんご機嫌わるなるし!
理由聞いたらしつこいって言われるし!
おれさんざん!


「ほーんと、腹が立っちゃうねえ。」
「俺いかりしんとう!」
「真樹緒の言う事ももっともだよ。」
「俺まちがった事いうてない!」
「だからそんな奴の背中になんて捕まってないでさっちゃんの所にこようか。」
「俺さっちゃんのとこいく!」
「よしきたー。」
「えっ?」



えっ?
えっ?



「っ真樹緒!?」
「ぬ?けーちゃん?俺、体が浮いて…」



って、えっさっちゃん?



……
………



さっちゃん!?


「久方ぶりだね真樹緒。」


知った様な気配がいると思えば。
全く驚かせてくれるんだから。


「っさっちゃああん!!」
あー、そうそうこの感じ。


懐かしいねえこの感じ。
もっとよく顔を見せてよ真樹緒。
久しぶりすぎて顔を忘れるかと思ったよ。


「ぬーんほんものやぁぁぁ…」
「本物のさっちゃんだよー。」
「うわあああんんん!」


けーちゃんの背中にしがみついてお馬に乗ってたはずの俺をひょいと持ち上げてしまったのは、なんと近江のお屋敷で別れて以来のさっちゃんやった。
久しぶりすぎるさっちゃんやった。
さっちゃんは木の上からひょっこり顔を出して笑った後、鮮やかなてさばきで俺をだっこする。
さかさまに見えてたさっちゃんの顔はあっというまに正面。
俺はびっくりするのと嬉しいのとやっぱりびっくりするのに忙しい。


ほんもの?
ほんまに?
さっちゃん?
上から下までさっちゃんを確かめて、ぺたぺたぺたぺたほっぺたの感触も確かめて、やっと実感した俺は、お馬の上からけーちゃんが叫ぶのも聞かずにさっちゃんに抱きついた。
さっちゃん!
本物のさっちゃん!
久しぶりのさっちゃん!


「元気だった?」
「うん、さっちゃんは?」
「俺様は元気だよ。」
「ゆっきーとおやかた様は?」
「相変わらずだね。」
「あれやってる?」


幸村ぁぁぁぁぁ!お館様ぁぁぁぁ!ってやつ。


「毎日飽きもせずにね。」
「お庭は無事?」
「この間、門と塀が使い物にならなくなってさ。」
「あれやあ。」


やれやれ、って肩をすくめたさっちゃんとおでこをごつん。
目を合わせてくすくす笑う。
いつもどおりで安心したおれ。
俺様も真樹緒が変わらずで安心したよ。
心配かけてごめんね。
ううん、無事でよかった。


「さっちゃんは怒ってへんの?」
「さっちゃんは心配したの。」
「、しんぱいかけて、ごめんなさい。」
「奥州のお母さんからこってり絞られただろうから、俺様から言う事は何にもないよ。」


ちょっとは大事にされてる事自覚した?
なんてさっちゃんがいたずらっぽく片目をつむるから、俺は俺のできるかぎりのしんみょうな顔で頷く。
大丈夫。
俺わかってる。
皆にどれだけ大事にされてるか分かってるよ。


「なら、俺様は久しぶりにあった真樹緒をこうやって抱きしめるだけだよ。」
「ぬん!さっちゃん!」


俺、すっごい会いたかった。
俺は無事やでって伝えたかった。
お手紙のお返事もらう時にもしかしたら会えるかなって思ったけど持ってきてくれたんはさっちゃんとは別のお忍びさんやったし。


「あっ!さっちゃんそのお話で思い出したけど、俺のところにお手紙持ってきてくれたお忍びさんが怪我してて!」
「才蔵の事?」
「?さいぞ?さいぞ君?」
「うん、今風魔の背中におぶさってるうちの忍。」


才蔵って言うの。
俺様だって本当は自分で持って行きたかったんだけどちょっと手が離せなくて才蔵に任せたの。
今回はあいつ忍務で西の方に行ってたはずなんだけど。


「ぬん、そのさいぞ君が怪我してて!」
「怪我ねぇ?」
「さっちゃん!」


ほんまなん。
やって木の上から落ちたんやもん。
それは、まあ、うちのこーちゃんがクナイを投げたからかもしれやんのやけど。
でもその前にも怪我してたっぽくって。
お腹は血だらけやし。
俺、思わずデジャヴ!って叫んだもん。


「でじゃぶ?」
「前にこーちゃんもこじゅさんもそういう状態で俺発見した事あるから。」


心臓とまるかとおもった。
二度ある事が三度あって俺すごい取り乱したん。
一生懸命俺が説明するのにさっちゃんはふんふん頷くだけで、ちっとも驚いたり心配したりしてくれなくって俺は焦る。
ちら、ってこーちゃんの方見るだけで、見て手を軽く振るだけでまた俺にさっちゃんの視線が戻って来る。
戻ってきてにっこり笑う。


ちがうんちがうん。
さっちゃん、ちがうん。
さいぞ君が怪我してるんやで!
もっとちゃんと才蔵君見てあげて。


「才蔵。」
「ぬ?」
「おいこら才蔵。」


返事しな。
起きてんだろ。


「え?さっちゃん?」
「才蔵。」


さっちゃんが俺をだっこしたままこーちゃんの所まで飛んだ。
いつものクナイの件があるかなってちょっぴり身構えたけど(やってこーちゃんは何回ゆうてもさっちゃんにクナイなげちゃうから!出会いがしらでもおかまいなしだから!)、こーちゃんはさいぞ君をおぶったまま木の上で静かに立ってるん。
ちょっとご機嫌が悪いみたいやけど、でも俺とさっちゃんの感動の再会を見守ってくれてたん。
ありがとうこーちゃん!
さすが俺のおよめさん!
空気もよめちゃう!


「才蔵。」


真樹緒は知ってるだろお前。
風魔だって会った事があるはずだ。
後、気になるって言やぁあのお方だけど。


「真樹緒。」
「なあに?」
「下で俺様達をこれでもかと睨んでくれてるお方は前田慶次で間違いないね?」
「さっちゃん知ってるん?!」
「ううん、知らない。」
「ぬーん!!」


さっちゃんが!
さっちゃんで!
もう!


「って事は加賀の人間って事だけど。」


真樹緒のお友達?


「うん?」
「前田慶次。」
「うん。」


越後でね、出会ったんけーちゃんとは。
あ、俺おシゲちゃんと一緒に越後にお邪魔してたんよ。
ほら同盟の件で。
甲斐と奥州と越後で同盟組むってお話やん?
それを正式なものにするために政宗様の代わりにおシゲちゃんが謙信様に会う事になってね。
そこで謙信様のお友達やってゆうけーちゃんにも会ったん。
ここにおるんは二人でおでかけしてきた帰り。


「なら大丈夫だね?」


そう簡単に信じちゃいないけど、真樹緒がそういうなら真樹緒がいる時はそういう事で大丈夫だね?
俺様は実際疑ってるけどね?


「うん?」
「才蔵。」


ほら、大丈夫だって。
怪しい奴じゃないよ。


さっちゃんがため息を吐きながらさいぞ君を見る。
俺もつられてさいぞ君を見る。
さっきまでこーちゃんの背中で全然まったく動く様子のなかったさいぞ君が、さっちゃんの声を聞いて顔を上げた。
猫みたいにとんがったさいぞ君の目と俺の目とかばちんとぶつかって、さいぞ君の口元がにっっとあがる。


「さいぞ君!怪我大丈夫なん!?」
「……」
「さいぞ君?」
「あ、真樹緒そいつ」


実は、なんてさっちゃんが俺を見下ろした時、さいぞ君がいつの間にか俺の前に。
お鼻とお鼻がくっつくぐらいに目の前に。
近づいた猫の目がきらりと光る。
あれさっきまでこーちゃんの背中におったはずやのに。


「さいぞ君…?」


そんな目にじっと見られてどうしたらええんか焦る俺をよそにさいぞ君が人差し指を立てた。
そして一言。



もしょり!




……
………




ぬーん!



えええええ。
えええええええ。
聞こえへん。
全く聞こえへん。
こんな近くにおるのに。
お鼻とお鼻がぶつかるところにおるのに…!
ぜんぜん!
きこえへんかった!
何かもしょりしかきこえへんかったもしょり…!
さいぞ君ちょう自信まんまんやったけど俺いっこも!きこえやん!もしょり…!




さっちゃん!
さっちゃん緊急じたい!
さいぞ君の声が!
ちいさい…!


「いやあ、そいつ昔っから声が小さくてさあ。」
「小さいってレベルちがう…!」
「そのうち慣れるよ真樹緒なら。」


ほら、風魔といっしょだよ。
あいつとも意思疎通できてるじゃない。


「さっちゃん俺を何やとおもってるん!」


俺に何を期待してるん!
こーちゃんはほら!
お嫁さんやし!
お付き合い期間もながいし!


「でも出来るだろ?」
「がんばる!」


にっこり笑うさっちゃんがにくたらしー!
けど俺さいぞ君と仲良くなりたいからがんばる!
ちょうがんばる!


まずはさいぞ君のもしょりをちゃんと聞きとれる様にがんばる…!
まさかの事態にさいぞ君を見つけた時とは別の意味で泣きそうです真樹緒です。
でも自信満々で楽しげに俺を見てるさいぞ君の為に努力はおしまないかくごです真樹緒です。
こうなったら何が何でもさいぞ君と楽しくお話しようと思います真樹緒です…!


-------------

という事で甲斐にたどり着いていないという事態の方が緊急事態なのですが、ひとまず佐助さんと才蔵君と話ができました!
更新をお待たせしてすみません…!

ああでももしょりって言っただけ。
才蔵君がもしょりって言っただけ。
何も!進んでいやしない!

次はもう甲斐です。
一緒に行ってもいいのですがきっとまた甲斐にたどり着けないので甲斐に到着したところをお届します。

途中から空気だった慶次君もね!
ちゃんとお話しますよ!
忘れてたんじゃなくて、話に入るタイミングが無かったっていうね!

お嫁さんは今回空気ちょう読みました。
久しぶりの母子の再会に水を差しませんでしたさすがお嫁さん。
才蔵君は知らない人がいたので様子を見ていただけです。
慶次君がいなかったらもしかしたら意思疎通を図っていたかもしれません。
声ちょう小さいけど。
これからも才蔵君はもしょり!かもしょしょしょ!しかしゃべりませんすみません。
オリキャラが増えてしまって申し訳ありませんがどうぞよしなに。


では失礼します。
最後までご覧下さってありがとうございました!
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