「けーちゃんと半兵衛君はほんまに仲良しさんやねえ、」
「…あれと半兵衛がか。」
「ひでよし。」
「貴様の目にはそう映るか、真樹緒。」


右の上手に座ってるひでよしとは、俺はお茶会が始まってから初めてお話したん。

初めましてひでよし。
お名前はけーちゃんと半兵衛君からききました。
俺は真樹緒っていいます。
けーちゃんと一緒に越後からやってきたん。
突然やってきてごめんなさい。
お約束もしてないのにごめんなさい。
急にけーちゃんが喧嘩ふっかけてごめんなさい。
でもね、俺今すごい嬉しくて。
やあ二人とも怪我だらけやのにすごい失礼な事言うてるの分かるんやけどね。
けーちゃんとひでよしがお話出来て、喧嘩できてすごい嬉しくて!

ひでよしの目を見ながら一息に自己紹介。
ひでよしは一回頷いただけやったけど、その後あの大きな手で頭を撫でてくれたから多分自己紹介はうまくいったはず。


「ほら、喧嘩するほど仲が良いってゆうし。」
「ふ、なるほど。」
「…ひでよしもけーちゃんと仲良しやろう?」
「…」


じっとひでよしを見る。
じっとじっとひでよしを見る。
さっきから思ってたけどひでよしの口数は少ない。
その代わり目や口元、しぐさとか笑い方でいろんな事を話してくれる。
ちょっと前の「なるほど」はほんの少し懐かしそうなため息と一緒に出たから、もしかしたら半兵衛君とけーちゃんは前にもこんな事があったんかもしれへんねぇ。
今見上げたひでよしは。


「ひでよし。」


ぬん。
喧嘩するほど仲が良い、やでひでよし。
俺が人差し指をぴんと立てて顔を覗き込んだら、ひでよしはちらりとけーちゃんを見て小さく眉を下げた。
眉間に皺も寄ってへんし、ため息も出てへんし、困った顔でも無い。
苦しそうな様な顔でもないし、遠くを見るような目でも無い。
それだけで十分で俺は満足してまた酒まんじゅうを口に運ぶ。


「真樹緒。」
「はあい?」
「真樹緒はあれの友か。」
「あれ?けーちゃん?」


酒まんじゅうを口いっぱいに頬張ってしまって、こぼれたあんこをすくいながら返事をした。
ぬん、そう。
けーちゃんは俺のお友達。
越後で出来た俺の大事なお友達やで。


「あれはよく泣きよく怒る。」
「知ってるー。」
「孤独に慣れておらぬ。」
「知ってるー。」
「甘ったれで。」
「知ってる!」
「未来に期待を持ち過ぎ。」
「ぬん。」
「猪突だ。」
「ちょとつ。」


あれやね。
いのしし。


「あれを頼む。」


側を離れてくれるな。
泣き、怒り、孤独に震える時に側に。
甘ったれの癖に甘えられぬ不器用な馬鹿の側に。
大して大きくも無い背中に一人でいらぬ物を背負おうとする馬鹿の側に。
過度に待望し身侭に悲観する馬鹿の側に。


「ええー!俺一人やったらてにあまる!」


ひでよしと半兵衛君も手伝って!
けーちゃんが泣きだしたら俺一人やったら絶対むり!
やあ、そりゃあけーちゃん大事なお友達やからぎゅって抱きしめて側から離れやんけども。
けーちゃんが泣き止むまで側から離れやんけども。
でもけーちゃん泣く時ってだいたいひでよしと半兵衛君が原因なんやで!


「我らが原因か。」
「そうそう。」


もー、あんまりけーちゃん泣かさないで。
かわいそうやんか。
ひでよしがあんまりけーちゃんとお話してくれやんから。
思ってるだけやったら伝わらん事って一杯あるんやで。
特にけーちゃんって言葉にしやんと変な方向に考え過ぎがちなんやから。


「言葉にしても誤想しよう。」
「あー…」


たしかにー。
そう言われちゃうとー。
ぐうの音もでないってゆうかー。
でもそれがけーちゃんの性格ってゆうかー。

ずずず、っていい香りのするお上品なお茶をちっともお上品じゃなく飲んでけーちゃんを盗み見る。
俺の心配をよそにけーちゃんは相変わらず半兵衛君と口げんかをしてて。


「見てひでよし。俺とひでよしの心配がちっとも伝わってないわー。」
「くっくっく、」
「何か俺、けーちゃんのお兄ちゃんになった気分。」
「大きな弟よ。」
「そうそう心配ばっかりかけてくれる大きな弟なん。」


可愛い弟なん。
やからひでよしと半兵衛君も助けてね。
一緒にけーちゃんの側におってね。


「我らがか。」
「けーちゃんが泣いたり怒ったりしたらまたここに連れて来るから。」


その時はまた半兵衛君にお茶入れて貰って。
その時ここでひょうばんのお菓子出して貰って。
ひでよしにはけーちゃんと喧嘩してもらって。
俺は夢吉と一緒にほこりまみれになったけーちゃんの手を引っ張るから。
半兵衛君もひでよしもけーちゃんと一緒におって。


「ひでよし。」


じっとひでよしを見る。
じっとじっとひでよしを見る。
ひでよしの目に映る俺がはっきり見えた。
眩しそうに目を細めてしまったひでよしはそのままゆっくり目を閉じる。
それから口元が少しだけ上がる。


「ひでよ、」
「秀吉様!半兵衛様!ご報告がございます!」
「!!」


俺がひでよしにもっと近づこうと顔を寄せた時、飛び込んできた声に驚いて体が止まった。
俺だけやなくて、けーちゃんも半兵衛君もひでよしの体も止まった。
しん、って静まった部屋に急に漂う緊張感に訳も無く心臓がどきどきする。
甘い香りのするお部屋が緊張した雰囲気に。
それまで温かかった空気が一瞬で冷えて。


「…お茶会はここまでの様だ。」


半兵衛君が口をつけてたティーカップを静かにソーサーに置く。
髪をかきあげて困った様に笑ってた。


「真樹緒。」
「はい。」
「僕達はこれから、君達を交えては話せない事を話さなければならない。」
「…はい。」


残念だけどお茶会はお終いだよ。


半兵衛君が立ちあがるのと同時にひでよしが立ちあがった。
せっかくいい雰囲気やったのに今はそれが嘘みたいな空気で少しさみしい。
笑ったひでよしも、笑った半兵衛君も、喧嘩するほど仲が良い、をやってたけーちゃんと半兵衛君も全部無かったみたい。


「そんな顔をするんじゃないよ。」
「やって。」


やって。
やーって!
せっかく皆でいい雰囲気やったのにだいなしやなって!
最後のさよならはちゃんとごちそうさましてから、手振ってさよならしたかったなって!
もちろん大事な話やってゆうんは分かるんやで。
そのお話を俺らが聞いたらあかんのも分かるんやで。


「…お侍さんはこれだからもー。」


ちっとも一般市民の気持ちが分かってないわー。
ぶうぶうぶうぶう。
唇をとんがらせて俺も席を立つ。
ずっと文句を言うてる訳にはいかんから仕方なしに席を立つ。
夢吉を頭に乗せて、隣に来たけーちゃんの腕をぎゅう。


「真樹緒。」
「……ぶう。」


ひでよしが俺を呼ぶ。


「真樹緒。」


さっきと変わらん優しい声で俺を呼ぶ。


「真樹緒。」
「………はい。」


俺はちょっと腹が立ってたからあんまりお返事したくなかったんやけど、あんまりにもひでよしが優しい声で呼ぶから、俺の頭をぐりぐり撫でるから、仕方なくほんまに仕方なく小さい声でそれに答えた。

なあにひでよし。
俺、ちょっとご機嫌ななめ。
せっかくいい雰囲気やったのに急にそれを壊されてご機嫌ななめなんやけど!


「来たればよい。」
「え?」
「慶次が泣き、怒りに暴れた時にまた来たれば良い。」
「!ひでよし!」


俺の隣でけーちゃんが「なんだいそれ!俺は泣いても無いし暴れてもないんだけど!勝手な事言うなよ秀吉!」なんてどこのお口がそんな事ゆうんか分からんような事言ってるけど、俺はもうそれどころちがうん。
ひでよしの向かいで半兵衛君が「駄目だよ秀吉、甘やかしては。真樹緒だけならまだしもこんな煩いのをわざわざそんな面倒臭い時に呼ぶなんて。」なんてやっぱりけーちゃんにしんらつな事を言ってるけどそれどころちがうん。


「ひでよし。」
「我らは敵よ。」
「…ひでよし。」
「我は国。お前の国と刀を交える事もあろう。」


だがお前は国ではない。
真樹緒。
三つ目の強さを持つ子供よ。
我はお前を歓迎しよう。


「…ありがとうひでよし。」


俺の頭を撫でて秀吉は部屋を出て行った。
三回?四回?目ぐらいのそれは一番最後のやつが一番優しくて俺は胸が温かくなる。
ひでよしの後を追った半兵衛君が手を振ってくれてそれにも俺は胸がぎゅうって締め付けられる。
目の奥が熱くなるのを我慢できやんくって、けーちゃんの腕に顔をすりつけた。

けーちゃんが頭を撫でてくれる。
ひでよしと同じ所を撫でてくれる。
同じぐらい優しくってくすぐったくて、俺は笑いながらちょっぴり泣いた。






「報告を聞こうか。」
「は!甲斐の東方にて松永久秀と名乗る男が進軍しているとの由、斥候からの報告にございます!」


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という事でちっともお話は進んでおりませんがこれにて大阪城はお暇します!
秀吉さんが何か別人で本当すみませ…
私、秀吉さんって優しい人だと思うんですよ。
強さについての考え方は置いておいて人間的に優しい人だと思うんですよ。
だから慶次君の事ほっとけないと思うんですよ。
家康さんは秀吉さんを討てたけど、慶次君は秀吉さんを討てないし秀吉さんは慶次君を討てないと思うんですよ私の妄想ですが!

そんなそぶりを見せないで慶次君を見守ってくれる秀吉さん本当に男前(これも妄想)
半兵衛君は全部分かってるんです。
秀吉さんの側にずっといましたもの、秀吉さんが何を考えてるのかなんてお見通しなのです。
それでいて慶次君が何にも分かってないのでイラッときてるんですね。
説明したところで「でもだってけど」で言い返してくるので説明もしないんですね慶次君に。
でも家康さんが大事にしてるので慶次君の事は嫌いにはなりません。
本当手のかかる子だよ、って手のかかる事前提で相手してるので大丈夫です。


さて、今後ですが。
半兵衛君と秀吉さんは因縁の相手である松永さんの所に向かいます。
キネマ主達は越後へ戻る途中、手負いの才蔵君を拾って何かよくない事が甲斐で起こっている事に気づいて甲斐へ向かいます。
そこでまた再会して回顧して越後へ帰る事になるかも。
越後では慶次君からちゃんとキネマ主へのお礼と、気持ちの変化のあれやこれを書けたらいいな。

そして6章へ。
織田家族編です。
今回間章は書くことないかも!
ちゅー魔やってもいいんですけれども多分5章の最後で武蔵君が来てしまうのでそんな雰囲気にならないのです。

ああでも予定は未定ですので。
とりあえず5章完結目指して頑張ります。
この度は最後までご覧下さってありがとうございました!

  

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