「さあどうぞ。」
「ありがとう半兵衛君。」
「たんとお食べ。」


ほかほか湯気の上がる酒まんじゅうを受け取って、俺はそれにかぶりついた。
俺が持って来た酒まんじゅうは半兵衛君に渡した時にはもう冷めてたはずやのにあれ?って首を傾げたら半兵衛君が蒸し直したんだよって教えてくれた。
こうすれば出来たてを再現できるだろう?って片目を瞑って。
なるほどなぁって、帰ったらおシゲちゃんに教えてあげようって、思いながら口いっぱいに広がるふかふかの生地とあんこを味わった。


「ちょっと半兵衛、俺のお茶温いんだけど。」
「は!茶を淹れて貰っただけでも有難いと思うんだね。」


君はどこまでがめついんだい。


「はあ!?」


言っとくけどその酒饅頭持って来たのは俺と真樹緒だからな!
そっちこそ有難がって食えってんだ!


「手土産を有難がれとはまた図々しい。」


君には謙虚さというものがないのか。
だいたい手土産とは言うが君が望んで持って来たものではないだろう。
大方真樹緒が言い出したに違いない。


「半兵衛君すごい!せいかい!」
「真樹緒はどっちの味方なの!」
「えー、俺はけーちゃんの味方やけどー。」


それはゆるぎない事実やけどー。
でも嘘はよくないって思うん。
はじめはけーちゃんお土産持って行くんおかしいってゆうてたやんか。
そうだけど!って机を叩くけーちゃんはさっき泣いてたのが嘘みたいに半兵衛君とおっきな声で喧嘩してる。


あの後。
けーちゃんが俺の肩に顔をうずめて泣いてしまった後。
暫くけーちゃんの背中をよしよしって撫でてたんやけど、突然半兵衛君がぱん!って手を叩いた音で俺は顔を上げた。
まだ土埃がただよう瓦礫だらけの壊れた部屋の、空気を切る様に叩かれたその音は気持ちいい位に響いて思わず背筋が伸びる。
けーちゃんも顔を上げようとしたけど、まだお鼻がぐずぐず鳴ってたから顔上げんでええよって頭を撫でて俺だけ振り返ったんやけど。



「よし、お茶にしよう。」



瓦礫の向こう、ひでよしに肩を貸した半兵衛君がそんな事を言うてにっこり笑う。
何か今までのひでよしとかけーちゃんとかの雰囲気を全部ふっとばしてにっこり笑う。
隣のひでよしはちょっと息を吐いて半兵衛君の肩を叩いて。
俺はけーちゃんの頭撫でながらきょとん。
けーちゃんもぐすぐす鳴ってた鼻を止めて。


「…お茶?」


ええええ。
えええええ。
ええの半兵衛君。
俺が言うのもあれやけど、こんなちょっとシリアスな雰囲気をどかんとふっとばしてええの。
ものすごい笑顔やけどええの。
今ちょっとお茶しよかっていう空気や無かったと思うんやけどええの。
ひでよしもそんなやれやれ、みたいな顔して。
俺ら、ぬん。ほんま今更やけどひでよしに喧嘩売りにきただけやのに、そんなん、ええの。


「真樹緒。」
「はい。」


じっと俺の顔を見る半兵衛君はそれ以上何にも言わんの。
俺、まばたきぱちぱち。
半兵衛君、にっこり。
俺、ちらっとけーちゃんを見る。
半兵衛君、肩をすくめてそれから一つ頷いて呆れた様ににっこり。


「その泣きべそ君をちゃんと連れて来ておくれよ。」
「な!誰が泣きべそだい!」


顔を上げたけーちゃんの目元と鼻は真っ赤で説得力は全然無い。
汗でおでこに髪の毛がはりついてたからそれをそっとよけて俺はけーちゃんの目元をぬぐう。

けーちゃんけーちゃんお茶やって。
またあのお花のお茶かなあ?
俺ね、けーちゃんがひでよしのとこ行った後とっても可愛いくていい香りのお茶いただいたん。
カステラもね、貰ったよ。
いつまでもここにおるわけにもいかんやろうし、半兵衛君のお言葉にあまえよう?
そんで持って来たおみやの酒まんじゅう出して貰おう。
たくさん動いてお腹減ったんやない?
甘いもんってねえ、疲れも取ってくれるし力も戻って来る素敵な食べ物なんやで。


「真樹緒…」
「喧嘩の後は仲直り、は無理にせんでもええと思うけど。」


もしけーちゃんがここへ来た時と今と、ここの重さが少しでも軽くなってて。
そんでもってけーちゃんがしんどくないんやったらお茶頂いて帰ろう?
おでことおでこをこつん。
ねえねえーちゃん。
ちょっと甘えた声を出したらおもっきり眉間に皺を寄せて不機嫌です、って様子を隠しもしやんとけーちゃんがそっぽを向いた。
唇をとんがらせて、でも俺の肩におでこをぐりぐり寄せて。


「真樹緒がそう言うなら、俺は、別に、行ってやってもいいけど。」


半兵衛と一緒に茶を飲むなんて本当は嫌だけど。
ましてや秀吉と一緒だなんて訳わかんないけど。
真樹緒がそう言うなら仕方なく行ってやってもいいよ。
そんな事を言うけーちゃんに俺はうん、うん、ありがとうって頷いた。
全然全く「行ってやってもいいけど」な顔してへんよけーちゃん。
いっこも「仕方なく」って顔やないよけーちゃん。
実は、ほんまは、嫌やないんやんねえ。
俺わかる。
なんかとーっても照れくさいだけやんねえ。


「俺、ちょっと喉渇いたからお茶飲みたいな。」
「…しょうがないなあ。」


けーちゃんが笑って俺も笑う。
じゃあいこう。
すぐいこう。
れっつごー!
けーちゃんの手を引っ張ってそのまま手を繋いで瓦礫だらけの部屋を出た。
出て俺が半兵衛君とお茶したお部屋に戻って来たんはええねんけど。


「ほんっとお前はああ言えばこう言う奴だな!」
「言わせているのは誰だい。」


大人しく茶も飲めないのか。
せっかく蒸し直した酒饅頭が無駄になるじゃないか。
ああそれとも。
初めから君の分は出さない方がよかったかい?


「そんな事誰も言ってないだろおおお!」


……
………


ぬん、仲良しさん。
「きき?」


俺のお膝から手を伸ばして酒まんじゅうを食べてる夢吉の頭を撫でる。
お部屋に戻ってきた俺らの前には、半兵衛君が用意してくれたほかほかの酒まんじゅうとほかほかのお茶が並んでた。
相変わらず見た事がないくらい綺麗なティーカップに緑やなくって赤く色がついた良い匂いのするお茶。
あのお花のお茶では無かったけど、こっちも少しお花の蜜みたいな匂いがする。
酒まんじゅうは、明らかにそれ酒まんじゅう乗せるやつ違うよねえっていう洋風なお皿に乗せられててやっぱり酒まんじゅうが酒まんじゅうやないみたい。
俺は目を輝かせてけーちゃんの手を「早く早く」ってひっぱりながら席に着いて。
さあこれから皆で一緒にお茶しましょって雰囲気やったのに。



  

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