目を覚ますと見えたのは穴が開いた天井で。
頭を小さな柔らかい何かに乗せられ、俺は力の入らない体を投げ出してその天井の片隅から見える青い空をぼうと眺めていた。


「あ、けーちゃん気がついた?」
「……あ、れ…?」
「体、大丈夫?」
「…え…?」
「けーちゃん?」
「…真樹緒?」


うん、真樹緒。


「なんでここに…」


涸れた喉に咽ながら唯一動く目だけをうろうろとさまよわせる。
どうやら俺が頭を乗せているのは真樹緒の膝で、目を覚ますまで俺はその小さな真樹緒の膝に頭を乗せられ頭を撫でられていたらしい。
目が合うと真樹緒が笑う。
頑張ったねえなんて言って笑う。


「お疲れさま、けーちゃん。がんばったね。」
「真樹緒…真樹緒、」
「うん。」
「おれ、おれ、…おれ…!」
「…うん。」


うん、うん、けーちゃんがんばったね。
お疲れ様やったね。
ちゃんと喧嘩できたね。


「けーちゃんのここ、ちょっとは軽くなった?」


俺の胸のあたりをぽんぽん撫でて真樹緒が言う。


おめめうさぎさんやねえ。
ひでよしに何かわるぐち言われた?
俺、かたきとってこようか?
ほら俺はけーちゃんの味方やから。
やあでもひでよしも結構まんしんそういやから。
ちょっと今はかわいそうやからまた今度の機会でもいい?


「真樹緒、」
「うん、」
「俺分かったんだ。」
「うん。」
「俺さ、寂しかったんだよ。」


一人ぼっちだって思いこんでさ。
自分で一人になってさ。
秀吉だねねだ半兵衛だって言ってるくせに、俺が考えてたのは自分の事ばっかりだ。


「真樹緒。」
「なあに、けーちゃん。」
「最後の最後にさ、」
「うん。」
「ちょっとだけ昔の秀吉に会ったよ。」
「良かったねえ。」
「うん。」


真樹緒が笑う。
俺の髪を撫でながら笑う。




「あいつの思う事と俺が思う事は違うけど、違ってもいいんだね。」




俺の反対側、滅茶苦茶になった部屋の向こう瓦礫の奥に秀吉が見える。
傍らには半兵衛がいて。
俺と同じ様に動けないでいる秀吉の背を支えていた。


「半兵衛。」
「何だい秀吉。」
「…強さとは二つのかたちがあるらしい。」
「慶次君に何か言われたかい?」
「ああ、」
「…そう。でも、僕の信じる強さは君が求める強さだよ。」


慶次君に強さを説かれるなんて虫唾が走る。
自分から一人を選んだくせに。
君を放って行った慶次君なんかに理解して貰いたくもない。


「半兵衛。」
「全く君は昔から慶次君に甘い。」
「…我が甘いか…」
「あんなのは少しぐらい痛い目を見た方がいいのさ。」


君の優しさに甘えてよくも好き勝手言ってくれたじゃないか。
今度は僕が相手になろうか。


「…そう睨んでやるな。」


我も奴のこころを抉った。
他でも無い我の言葉で。


「本当に全く君ったら!」



いいや駄目だ。
このままじゃ僕の気が治まらない。
僕は行くよ。
止めないでくれ秀吉。



「…半兵衛?」



声を荒げた半兵衛の声が聞こえる。
漸く動く様になった首を持ちあげて声がした方を見れば半兵衛が真っ直ぐこっちにやってくる。


「半兵衛くん?」


真樹緒が首を傾げて。
俺も首を傾げて。


「慶次君。」
「何だよ半兵衛、」
歯を食い縛りたまえ。




………
……………




へ?
ぬ?



笑った半兵衛が拳を振り上げる。
それが避ける間も無く、目にも留まらない速さで下ろされた。



「いっってえええええ!!!」



次に来たのは衝撃。
頭が割れるんじゃないかってぐらいの衝撃。



「っけーちゃ、!」
「ああ一発じゃ足りないな。」
「半兵衛君!」



真樹緒の膝から落ちる。
瓦礫の中に顔面から突っ込んで。
ぐるぐる回る頭。
首が嫌な音を立てて曲がった。



「けーちゃん!?けーちゃんだいじょうぶ!?」


思いっきり入ったけど。
半兵衛くんのぐーぱん思いっきりほっぺたはいったけど!
そのうえ思いっきり瓦礫の中つっこんでもうたけど!


「ふん、このくらい耐えられなくてどうするんだ。」


真樹緒の焦った声が聞こえる。
憎たらしい半兵衛の声も聞こえる。


「っ…、な……、俺………だ……、!」
「何だい聞こえないよ。」
「け、けーちゃん?」


だいじょうぶ?
うごける?
けーちゃ、


「っ何で俺が半兵衛に殴られなきゃなんないんだい!」
「!!けーちゃん!」
「痛いよ!」


痛いに決まってるだろ!
俺が満身創痍なの見てわかんねーかな!
何で俺が半兵衛に殴られなきゃなんないんだよ!


「君は真樹緒がぶん殴られるのを見ても平常心でその殴った奴の前に立てるのかい。」
「言い訳も出来ないぐらいにぶん殴り返してやるよ!」
「そう言う事だよ。」
えっ、どうゆうこと?


立ちあがって半兵衛の胸ぐらをつかむ。
けれど足がついて行かなくてよろけた。
真樹緒が首を傾げながらも慌てて俺を支えて。
半兵衛は呆れた顔で俺の手をいなす。


「じゃあ真樹緒が秀吉殴ってもいいってんだな!」
「えっ、俺がひでよし殴るん!?無理やとおもう!」
「僕がさせるもんか。」


秀吉は君のせいでしなくてもいい怪我を負ったっていうのに。


「半兵衛ええええええ!」


お前ってやつは!
昔っからかわらねぇな!




半兵衛が俺に返事もせずにひらひらと手を振りながら歩くその奥の奥。
未だ砂埃が立ちこめるその煙の奥。
膝を立てて座る秀吉が声を上げて笑っているのが見えた。


息が止まる。
瞼の奥にいつかのあの日が重なる。
秀吉が笑って。
ねねが笑って。
半兵衛が笑って。
俺も笑って。


その瞬間、喉からせり上がって来る何かを、目から溢れて来る何かを、どうやっても我慢できず。



「けーちゃん…?」



半兵衛に殴られた事なんかすっかり頭から放り出し、崩れた足に身を任せ俺を支えてくれる真樹緒に情けなくも縋り。
その小さな肩に隠れて泣いた。



「けーちゃ、」



声が出ない。
息も辛い。
体は痛い。
でも、どうしようもなく胸が温かかった。


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という事で!
何か月ぶりかの本編の更新でございましたお待たせしてすみませんー!

あわわ。
あわわ…!
久しぶりなのに何か特に進んでない…!
まじで!


ああでもこれで一応大阪でやる事は済みました。
後は皆でおやつ食べるだけですね!


ニルの秀吉さんは何かと慶次君に甘いです。
多分昔から甘くて袂を分かった今でも根本は変えられない感じ。
24でも呟きましたが、私ハッピーエンドが好きなので特にシリアスにならなくてすみません。
仲なおりしてるみたいになってすみません。

お互いの強さについては絶対にどちらも譲れないなら譲らなくていいじゃない、でお話が終わった気がします。

秀吉の方が大人なんですね。
ねねさんの事はもう秀吉さんとねねさんの間でちゃんと決着がついていてねねさんも多大な愛の結果の死である事も分かっていて、だから秀吉は自分の強さについて譲らないし譲ったらねねさんの死が本当に無駄死にになってしまうのを分かっているからこそのあの態度なんですね。
それを慶次君が分かって無かったものだからあんなにこじれたのです。


これはあくまでニルの秀吉と慶次君とねねさんを巡るお話なのでよしなに。
とんだねつ造設定妄想での創作ですがどうぞご容赦下さい。
ああでもいくらなんでも勝手にしすぎですね和解しちゃったよすみません。


この後は皆でおやつです。
おまんじゅうです。
みんなあつあつのお茶頂く中、慶次君のだけ温いお茶です。
お茶を淹れてくれたのは半兵衛君だよ。

あ、秀吉さんは別に昔の秀吉さんに戻ったわけじゃありませんよ。
素が出てしまったのです。
そもそも戻る戻らない以前に別に秀吉さんは昔から変わってない根本的に。
それに慶次君が気がつくのはもう少し先ですが、これ以降定期的に喧嘩していたらいいですね。


それでは!
次回は酒まんじゅうでお会いしたい所存です。
最後までご覧下さってありがとうございました!

  

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