「……全く、」
「ぬ…」
「相変わらず遠慮の無い男だ。」


目の前のお兄さんがため息を吐いた。
ゆっくりと首を振ってけーちゃんが走って行った方を見る。
じっとけーちゃんの背中を見つめる目はちょっと怒ってる様に見えて、でも何だか嬉しそうにも見えて。


「馬鹿なくらい昔から何もかわっていない。」


ぼそっと呟かれた声に、そう言えばこのお兄さんもけーちゃんのお友達やった事を思い出す。

えーっと、名前。
お名前なんやったっけ。
けーちゃんが呼んでたお名前。
んーんん、確かやあ、は…は…半兵衛?そうそう半兵衛君。
髪の毛が銀色でふわふわで何か全体的に紫で、ちょっとちかちゃんとか明智の光秀さんをほうふつとさせるけど体の大きさとかが何かこう華奢で可愛い感じで。
あと何でか知らんけどばってんのマスクしてるん。


「………」


マスク。
…何やろうこのちょっと残念な感じ。
ものすごい勿体無い感じ。
きっと絶対びじんなお顔してると思うのに、このなんとも言えやん感じ。
それでいてつっこみを許さないかんじ…!


ぬん…


やあつっこまんけど。
俺かって最近そういう空気読めるようになってきたからマスクの事には口に出したりせえへんけど!
やってやっぱり第一印象って大事やし!
うっかり漏らした一言で台無しになったらあかんし!
って事で真樹緒いきます。
せっかくおみや持って来たんやから立派にこれを半兵衛君に渡してみせます。
そのついでに自己紹介とかもできたらばっちしよね!


ではでは!
俺ふぁいと!
息を大きく吸い込んでふぁいと…!


「半兵衛君!」
「ききき!」


あっ、ゆめきちも応援してくれるかんじ?
ありがとうゆめきち!
俺がんばるよゆめきち!


両手の酒まんじゅうが入った風呂敷を持ち直して気合いは十分。
もう一回半兵衛君!ってまだけーちゃんが走って行った先を見てる半兵衛君に声をかけた。


「……うん?」
「初めまして半兵衛君!」
「ききぃ!」
「君は、」
「けーちゃんの友達の真樹緒ともうしますー。」


はじめましてー。
どうもこんにちはー。
いごおみしりおきをー。
あ、こっちはゆめきち。
けーちゃんの大事なお友達。
今はちょっと俺とお留守番してるんやけど、いつもはけーちゃんの肩にのっかってるんやで!


「慶次君の…」


銀色の髪をふわっと揺らして半兵衛君が振り返った。
明智の光秀さんよりもふわっふわで(ぬん、明智の光秀さんはほら、サラサラやから。サラサラストレートやから)ちかちゃんよりも柔らかい(ちかちゃんはこう、コシのあるちょっと固めででも触り心地がいいぜつみょうなかんじ)銀髪は俺をちょっぴりどきどきさせる。
綺麗やなあ、なんて見とれてよそみをしたらゆめきちにおでこをぺちぺち叩かれて。
やあやあそうね。
見とれてる場合やないよね。
自己紹介が終わったらこのタイミングでおみやよね。
両手に持った風呂敷をずずいっと前へ。
そんでもってすかさず頭を下げて。


「どうぞー。」


お受け取り下さいなー。
けーちゃんと俺と皆で選んだおみや。
お味はおりがみつきの酒まんじゅう。
どうぞ半兵衛君とひでよしとでお食べ下さいな。
とってもおいしいから!


自信を持ってぬん!って真っ直ぐ手を伸ばしたんやけど半兵衛君からの反応は無くて。
俺はまだ頭をぺっこり下げたまま、頭の上の様子がわからんくってちょっと不安になる。


あれえ?
俺の予定では半兵衛君が笑顔で酒まんじゅうを受け取ってくれるはずやったのに。
すかさず風呂敷ごと酒まんじゅうを受け取ってくれて、お茶でもどうだいって声をかけてもらうはずやったのに実は酒まんじゅうは俺らの分も入ってるよ!
やあ図々しいとか言わないで―。
食べ過ぎやんとか言わないで―。
お耳が痛いからー。
ほら、半兵衛君と食べる酒まんじゅうはきっとまた違ったお味やから。
おいしい事には変わりないと思うけど、感動はきっと別物やから。
まだ食べ足りやんとかやないから!


俺が頭をぺっこりしてる間、その頭の上ではゆめきちが同じ様に頭をぺっこりしてたんやけどいつまでたっても半兵衛君のお返事が無いから肩の方にやってきて不思議そうに首をかしげるん。
俺もゆめきちのまねをしてそおっと首を上げて様子を窺ってみる。
なあなあ半兵衛君どうしたん。
やっぱり突然やってきたから驚かせてしまったやろうか。
でもほら大阪に来るのを思い立ったんも最近で。
思い立ってすぐにやってきてしまったからお知らせとかする暇なくて。
うっかりしててほんまにごめんなさいなんやけど、けーちゃんはもうすでにひでよしに会いに行ってしまってるし、ここはそういうん全部大目にみてもらって酒まんじゅうを受け取ってくれると嬉しいわ…!
ていうかほんまに突然ごめんねよく考えたらお約束も無しでやってきた俺らものすごい失礼やったんちがうんおみやだけで済む問題ちがうねごめんなさい…!


「…君達は…」
「ぬ?」
「君達は本当に一体何をしにやってきたんだ…」


頭をぺっこりしたまま、けーちゃんがおらん今、一体この状況をどうしようか背中がひやっとしてた時、半兵衛君がつぶやいた。
俺がちらっと顔を上げた先、差し出した風呂敷包みを前に、戸惑った様な困った様な、でもびっくりした様な、けど結局呆れた様な半兵衛君の顔が見える。
何だかちょっと俺とむさし君とこーちゃんがちかちゃんの作ったからくりに追いかけられてる所をたまたま発見した明智の光秀さんをほうふつとさせる表情をした半兵衛君は、ちっちゃい声でまた「どういうつもりなんだ」ってつぶやいた。


ぬん。
半兵衛君その顔、その最後の顔あの時の明智の光秀さんにちょう似てる。
マスクしたままでもちょう似てる。


明智の光秀さんはあの後俺らを追いかけてたからくりをすごい切れあじの鎌でまっぷたつにしてたけど。
まっぷたつにしてちかちゃんに怒られてたけど。
怒られてたはずやのに何でからくりが俺らを追いかけてるんかって逆にちかちゃんが怒られてたけど!
ちなみにからくりはこっそり俺とこーちゃんがちかちゃんの工房?みたいなところから持って来たやつで。
ちいちゃいかえるみたいな形したやつやってんけど、むさし君がオールで叩いたら暴走してしまったん。
暴走して背中にある大砲撃って来たん。
やから誰のせいかって言われたら俺ら三人のせいなんやけど!
全然全くちかちゃん悪くないんやけど!

あの時はごめんねちかちゃん!
ぬーん!だそく!


「えーっと、けーちゃんはひでよしと喧嘩しに…」
「君は。」
「俺?俺は…そのけーちゃんの付き添いに…」


やあほら。
けーちゃん一人だけやったらなんてゆうか大阪つくまでだいぶかかりそうやったから。
一歩進むんも一日がかりな感じやったから。
手つないでいっしょに来たん。
ほら友達やから俺とけーちゃん。


「一人にさせたらねえ、ちょっと心配やったん。」


そりゃあゆめきちおるけど。
ゆめきちは大事なけーちゃんの友達やけど。
でもけーちゃんたまに誰にも言わんと一人で考え過ぎてまうところあるから。
俺心配で。


「…君は秀吉が何者が知っていてここまで来たのかい。」
「ぬ?ひでよし?けーちゃんの友達やろう?」


昔馴染みでー。
仲良くってー。
でもある時ちょっと事件が起こって喧嘩してもうたんよね。
その時からけーちゃんとひでよしが疎遠になってしまったんよね。


「……」
「ぬ…?」
「………」
「ぬん……?」
「……………、」
「半兵衛君?」
「ききっ?」


「…ああ確かに君は慶次君のトモダチだろうさ。」


訳が分かっているんだか分かっていないんだか、さも心得ているとでも言わんばかりのそういうところがそっくりだ。
何も分かっていないのはそっちの方だろうに。
ああ、全くどこまでも彼は。


「?うん?」
「本来秀吉は君達の様な者達が会える男じゃないんだよ。」
「そうなん?」
「身分、立場、存在、どれをとっても君達では分不相応だ。」
「あれやあ。」
「全く…」


半兵衛君が大きなため息を吐いて首を振った。
眉間に寄ってる皺も大きくて、俺はちょっぴり身構えてしまう。
半兵衛君を怒らせてしまったやろうか。
おみやも両手に持ったまんま受け取ってもらわれへんし、悲しくなって俺のまゆげも下がる。


そうよね。
やっぱりひでよしってこんなお城のお殿様やし何ていうか普通のいっぱんしみんの俺が会える訳ないしね。
やあけーちゃんがひでよしに会えたら別にそれでええんやけど、ほらここまで来たんやから俺もひでよしに会ってみたかったなって。
タイミングが会ったらご挨拶ぐらいはしたかったなって。
ていうか俺ふつうにけーちゃんと一緒に会う気満々やったなって。


「俺、お城入れてもらわれへん?」
「ここは秀吉の城、僕たちの要。どこの馬の骨とも知れない者を入れるわけにはいかないと思わないかい。」
「ぬん…」


だめもとで聞いたら涼しいお顔の半兵衛君に肩を竦められる。
腕を組んで当然でしょっていう声でお返事されて、おみや渡して半兵衛君とお近づきになる作戦が一向に始まる気配も無くてどうしよう。
俺ひとみしりとか無い方やけど、こう正面からお断りされたらさすがにこれ以上お願いできないってゆうか。
もうここで、扉の前でけーちゃんの刀を見守ってる他ないってゆうか。
あれそう言えばこの刀どうしたらええんやろうけーちゃん置いてったけど。
地面にぶっさしていったけど、俺これ動かすことも出来やんしもちろん運ぶ事とかもできやんし本気で見守るしかできやんのやけどどうしよう。
やっぱり大事なけーちゃんの刀やし、離れる訳にはいかんし。



「君、」



えっ、じゃあ俺このまま刀の側で待ってるべき?
あやしくない?
でっかい刀の側で、何かその刀よりちっさい子供が座ってるんってちょっとあやしくない?



「こら、君。」



やあやあでも俺この刀動かすんとか無理やし。
絶対に動かんし。
自慢やないけど俺、政宗様の刀一本持つのかって無理やったし。
あの刀細いのに。
政宗様は六本も振りまわせるのに。
俺片手どころか両手で持っても重たかったもん。
腕ぷるぷるしたもん。



君。
「ぬ?」
「……何をしてるんだ早く来ないか。」
「…………ぬ?」
「僕は忙しい。」


余計な手間を取らせないでくれ。


そう言って半兵衛君が今日三回目ぐらいのため息を吐く。
俺の方をちらりと見て、ちょっと面倒臭そうに髪をかきあげて。
いつの間にか俺が両手で持ってたおみやは半兵衛君の手の中で。
あれ…?
あれ?


「半兵衛君。」
「何かな。」
「俺、お城に入ってもええの?」
「入りたくないならずっとそこにいてくれて構わないけれど?」


いやいやいや。
いやいやいやいや。


「半兵衛君さっき入ったらあかんって言うたやん!」


俺!
だからちょっと諦めてたのに!
入り口で刀を見守らんとあかんなって内心胸がどきどきやったのに!
どこの馬の骨ともわからんやつを入れれやんってゆうたやん!
俺ちゃんと覚えてるで!
ついさっき!
俺!
半兵衛君にお城入るんことわられたやん…!


「君はどこの馬の骨とも分からない者なのかい。」
「俺はけーちゃんのお友達ですー!」


けーちゃんかって俺の事お友達やって思ってくれてるもん!
すっごい仲良いんやから!


「だったら何も問題ないじゃないか。」
ぬーん!


問題無いのが問題っていうか!
半兵衛君が始めに言い出したんやん!
おはなしちがうやん!
何で俺が叫んでると思ってるんせちがらい!
そんな涼しいお顔せんとって!


「早く来ないと門を閉めるよ。」
「あああああ!入る!入る!入るから待って…!」


俺のお話をちっとも聞いてくれやん半兵衛君はもうお城の門をくぐってて、走りながらその後につづく。
ふわふわの銀髪をなびかせて、半兵衛君の背中はなんだかちょっぴりご機嫌に見えた。
でも俺はやっぱり何でお城に入れてもらえたんか分からんくってゆめきちと顔を見合わせる。
いつどんな心境のへんかが半兵衛くんにあったんかなって、ゆめきちも首を傾げて二人でもんもん。
もんもん。


「君は、名前を何といったかな。」
「俺?ぬん、俺は真樹緒。」
「そう真樹緒。」
「はい?」
「僕は慶次君と秀吉が友だなんて認めないよ。」
「え?」


半兵衛君が振り返らずに呟いた。
普通にお話するこわいろで呟いた。
怒ってるわけでもない悲しそうでもない本当に普通の声やから俺はおもわず聞き流してしまいそうになる。
聞き間違いかなって思って半兵衛君の名前を呼んでみるけどお返事はないまんま。



辿り着いたのは黒い扉。
開いたら本棚に囲まれた部屋が見えた。
真ん中に大きな机があって、その上には巻物が広げられてて少しの墨の匂いがかおる。
赤いれんが色のじゅうたんには刺繍がしてあってとっても高級な感じがするん。
壁と机にはランプ。
落ち着いた洋室が俺とゆめきちを出迎えてくれた。


「…たたみや無い。」
「ふふ、うちは異国との貿易が盛んでね。」


香りの良い茶がある。
出してあげよう。
くつろいでくれたまえ。


半兵衛君が笑う。
綺麗な顔で笑う。
俺はますますさっきの言葉の意味が分からんようになって。
でもその笑顔に吸いこまれるまま、ゆっくりと部屋に入って行った。


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という事で半兵衛君とちょっとお話出来ました内容は進んでおりませんすみませ…!
ニルの半兵衛君は秀吉至上主義ですが、慶次君と秀吉が仲良かった頃も知っているので元通りになるならば元通りになればいいとも思っています。
それは全て秀吉のためであって、特に慶次君の事は考えてないんですけれども。
でも少しは慶次君の思うところも理解できないではないので、そんなそぶりは見せませんが慶次君に優しいところもあったりします見せませんが!


それでも半兵衛君の絶対は秀吉なので秀吉を諭す事はしません。
誰からの言葉にも揺らがないし、秀吉のために半兵衛君はいるのです。
ここで三成君がいたら三成君可愛がっていると思うのですが今はちょっと出ないのでね!
冷たい感じの半兵衛君でもう少しお付き合い下さいませ。

最後には秀吉をぶんなぐった慶次君を半兵衛君がぶんなぐって「これで許してあげるよ」ぐらい言ってもらいたいと思っています。
「何で俺が半兵衛に許してもらわなきゃならないんだい!」とかぬかしやがる慶次君をよそに、「大丈夫かい秀吉」と秀吉を労わる半兵衛君。
そんなやり取りを見ながら少し三人の距離が縮まったかもしれへんねーと夢吉と一緒に饅頭食べてるキネマ主で締めれたらいいかと思いますいつになるやら…!

ではでは長い後書きを含めまして最後までご覧下さりありがとうございました!

  

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