「え…?」




思わず手を見て、別に何にも無くてそのまま頬に触れる。
そこにあるのはいつもの俺なのに。
ぱちぱちと瞬きする度に、手を動かす度に、真樹緒を見る度に、ぼろぼろぼろぼろ。
体中から色んな物が剥がれて行く。
一体どうなっているんだろう。
もう一度真樹緒を見たらどうしてだか真樹緒だけきらきらと光っていてすごく眩しい。



「…ええ?」



体は軽いし、息苦しくも無い。
もう首も下を向かない。
真樹緒は相変わらずきらきらしていて俺は思わず目を細めてしまう。


「けーちゃんは何たべたい?」
「いや…それどころじゃないよ真樹緒。」
「ぬ?」
「何かおまえ…きらきらしてるよ。」


どうしたの。
俺の目がおかしいの。
でも目をつむっても首を振っても真樹緒を見たらきらきらやたらと光っていて眩しくてしょうがない。


「えー?何かついてる?」


ほこり?
きらきらって何やろう砂とか?
でも俺別に砂かぶった覚えは無いんやけど。


「よく見せて。」
「ぬ?ぬん。」


どうぞ。
どうぞけーちゃん。
そんでもって何かついてたら取ってけーちゃん。
虫とかやなかったらええんやけど!


目をつむって俺を見上げる真樹緒に顔を寄せる。
あの大きな目が閉じられているからか分からないけれども、きらきらは少しおさまった様な気がする。
でもやっぱりまるで星屑が弾けた様なそれは変わらない。
真樹緒の周りを光色にいろどってとても綺麗だ。



もっともっと近くで。
出来ればこの手ですくい取れるくらいに。



「…真樹緒、」



鼻と鼻が触れる。
きらきらはもう近すぎて俺の目が耐えられない。
だからゆっくり目を閉じて。
今度は瞼にうつるきらきらにじわりと涙が出そうになった。


「けーちゃん?とれた?」
「まだ。」
「まだ?」
「まだまだ。」
「えー。」


はよーして。
なんか怖いやん。


「もう、ちょっと。」


あと少しで真樹緒との隙間が全部無くなってしまう。
そしたら真樹緒のきらきらが俺にもうつってくれるだろうか。
温かいそれに包まれる事ができるだろうか。


もう少し。
あと少し。


「真樹緒…」
「はい?」
「真樹緒。」
「?けーちゃん?」
「俺…」




あと―――




「(しゃきん)」




……
…………




ぬ…?


こーひゃん?
ぬん?
どーひらんこーひゃん。
もごもご。
くち。
くちちょっと苦しいもごもご。


「(………)」
「あー…あー…、その、ええっと…」
「(しゃきん)」
「…ちょっと近すぎたかい…?」


目の前に突き付けられた苦無に目が冴えた。
切っ先が迷わず眉間を狙っていて背中が冷える。
思わず両手を頭の上に上げて真樹緒からそろそろと離れた。


「けーひゃん?」
「真樹緒。」
「うん?」


とれた?
何やった?
虫ちがった?


「真樹緒。」
「?けーちゃん?」
「ありがと。」
「?…なにが?」


背中から忍び君に守られてる真樹緒はやっぱりきらきらしている。
眩しいな。
愛しいな。


「ねえ真樹緒。」
「うん?」
「俺、秀吉をぶん殴りに行くよ。」
「!」
「あいつのクソ固い頭を思いっきり叩いてやりたいと思うんだ。」


目ェ覚ませよって。
昔のお前はどうしたって。
馬鹿野郎って。


「喧嘩してこようと思う。」


どうだい?
笑った俺は真樹緒の目にどう映っただろう。
真樹緒がきらきらと輝いていたみたいに俺もそうある事が出来るだろうか。


「すっごくいいとおもう…!」


もうね、思いっきりけんかしたらいいと思う俺!
色んなものぶつけ合ったらいいと思う俺!
もちろん俺はけーちゃん応援するからね!
ひでよしが強くても負けたらあかんよ!


「ああ、勿論負ける気なんて無いさ!」


真樹緒の手を取って歩き出す。
あの忍君がじろりと俺を睨んできたけれど構わない。
許しておくれよこれくらい。
だって真樹緒が眩しくてしょうがないんだ。


「そうだ真樹緒。」
「うん?」
「今、あっちの方では酒饅頭が人気らしいよ。」


馴染みの水茶屋で聞いたんだけど。
食べておくかい?


「!おまんじゅう!食べる!」
「あ、あとかるめいるって言う菓子も。」
「かるめいる?かるめらの事かなあ?」
「知ってるのかい?」
「何かねえ、見た目とはうらはらに固いんやけど甘いおかし!」


こう、ぷくっと膨れててね、おうちでも作れるお菓子なんやで。
砂糖がこげた感じの甘くて苦い大人のお味もあじわえるん。
おいしいよ!


「一緒に食べようねけーちゃん!」
「ああ!」


もちろん!
真樹緒が繋いだ手を思い切り振りあげた。
きらきらがそこからもこぼれてやっぱり俺は目を細める。
下は見ない。
そんな所に秀吉もねねも半兵衛もいないから。
真っ直ぐ前を向いて温かい手を握り締める。




「ありがとう真樹緒。」




そんな呟きは真樹緒の耳には入らなくて、小さな背中は「先にどっち食べる?おまんじゅう?かるめら?楽しみやね!」なんてそわそわしている。
腹の中から笑いが込み上げて来て思い切り笑ってしまった。


「あっはっは!真樹緒は本当に菓子が好きだね。」
「ぬ?」
「謙信の屋敷でも沢山食べたろ?」
「やあほら、でも今からめっさ歩くやん?」


大阪までやろう?
めさめさ長いやん?
ほんなら絶対お腹空くと思うん。


「ん?馬借りるよ?」
「えっ?」
「流石にここから大坂までは遠すぎるよ。」
えっ?


町に馬貸してくれる所あるからまずはそっからだね。
真樹緒は馬に乗れるかい?


「えー一人で乗った事ないよ俺。」
「じゃあ俺と乗ろう。」


真樹緒は俺が守るよ。
何があったって守ってみせる。


「おねがい!」
「任せとけ!」




待ってろよ秀吉。
お前には言いたい事が沢山あるんだ。
もう俺は逃げない。
お前からも、半兵衛からも、ねねからも。
俺からも。
正面からお前をぶん殴ってやる。



―――
―――――



「けーちゃんけーちゃん、お馬の旅やったらおやつ買っていこー。」


皆で食べるおやつかってこー。
おかしー。
またあのお焼きのお店いこー。


「まだ食べんの!?」


大阪でも食べるんだろ!
駄目駄目ちょっとは我慢しなよ!
絶対食べ過ぎだって!


「えー、政宗様やったら買ってもいいよってゆてくれるのに。」


おやつ食べててもおシゲちゃんに黙ってこっそり買ってくれるのに。
一緒に食べておいしいねって言ってくれるのに。



……
………



「…なにそれ…」
「俺の好きなお菓子覚えてくれてて、真樹緒と一緒に食うともっとうまくなるぜって笑ってくれるのに。」
「……へ、ええ?」
「政宗様のお膝でね、食べるん。おいしいん。らぶらぶなん。」
「っ分かったよ!ちょっと待ってろよ真樹緒!ぜってー独眼竜より美味い菓子買ってきてやるから!」


買ってきたら俺の膝で食うんだからね!
負けねぇぞ!


「えっ、けーちゃんどこいくん待って…!俺も行くよってけーちゃん早い待って…!」


っていうかお馬の上で食べるお菓子やからけーちゃんのおひざのれやんと思うおれ…!


---------


という事で!
ちょっとふっきれた慶次君でした今から大阪とか信じられませんね出発してなかった…!

前半うじうじ慶次君、後半何かきらきらしたものが見えた慶次君です。
私はこれで慶次君がキネマ主に恋したのだと思っていますが、慶次君はまだ気が付いていません。
政宗様を引き合いに出されるとイラッとしたのですが、それがなぜかは分っていません。
嫉妬なんて思っても無い感じです。

秀吉をぶっとばして帰ってくる頃にはねねさんの事もふっきれているので、普通に俺はねねの事が好きなんだ!って話せるようになります。
でもまだねねの事が好きで幸せ、ああやっぱり初恋だし忘れられてないと思ってしまうので、ねねも好き!でも真樹緒も好き!(慶次君はキネマ主の事好きって気づいていないから無自覚の好き)で突き進むので、面倒くさい事この上ないですね!
ふっきれてる事に気づいていない系男子です。

でもキネマ主も「政宗様がすき!ぬん、でもけーちゃんも好きやで!」なスタンスなのでお互い様ですね!
これを聞いてイラッとするのは政宗様と慶次君ですが、慶次君は何故いらっとしたかはわからないので政宗様を更にイライラさせてくれる事でしょう。


私、慶次君は甘い考えのおぼっちゃんだと思っていて(前半は明らかにそんな感じで書きました)うだうだ悩むし、自分の事で精一杯なのに何か他人の事まで考えようとするし、お前まず自分がしっかりしろよ!と若干いらいらしていたのですが、後半はこう、少しは自分の甘さ加減も馬鹿さ加減も理解して背筋が伸びたかなと思っています。
イケメンには程遠いですが…!
わたしこれが精一杯ですが…!

次回はもう大阪に着きますたぶん。
早く秀吉ぶんなぐらなきゃね。
その前に小太郎さんは半兵衛君達に身バレしてるので何とかしなきゃですね。
かるめら食べてる場合じゃありませんね。
食べますけど。

あ、かるめらは南蛮菓子で調べたらのっていたのでつい入れ込みました。
安土桃山時代〜らしいけれど、信長様いるしいいよね…っていう事で大坂では今かるめらがブームだよ!
私かるめら食べられないけど!甘いから!


ではでは本日はこのあたりで失礼します。
最後までご覧下さりましてありがとうございます。
お久しぶりの更新ですみません。
本当にお待たせいたしました…!

  

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