「真樹緒。」
「……」
「…どうしたの真樹緒。」
「…おシゲちゃん…」
軍神さんとのお話が終わって俺を迎えに来てくれたおシゲちゃんが、不思議そうに首を傾げて俺とちょっと離れた所にいるけーちゃんを見比べる。
喧嘩…な訳ないだろうしねえ?
ぽふぽふ俺の頭を撫でてる優しいおシゲちゃんの手に頭をすりつけて、ちょっと甘えながら、あのねっておシゲちゃんを見上げた。
「うん?」
「けーちゃんとお話してたん。」
「楽しそうな声が聞こえてたよ。」
「ぬん。」
そうなん。
初めはね、とっても楽しかったよ。
こいばなしてね。
かすがちゃんとこーちゃんとゆめきちとけーちゃんとで。
「けーちゃんお友達がおるんやって。」
「うん。」
「でも、そのお友達がけーちゃんとけーちゃんの好きな人にとってもひどい事をしちゃったんやって。」
「うん。」
「でも理由が分からんくって。」
やあ、理由はあるってゆうたらあるんやけどけーちゃんはそれが納得できやんくって。
俺もよう分かれへんけど、でも何となく、その…全然全くけーちゃんらの事を知らんかったからこそね、その理由にちょっと思う事があるってゆうか。
理解できるとかやなくてね、やあ、理解とかは俺には絶対できやん二人だけの大事な事があるんやろうけどね、そういう気持ちもあるんやなって、悲しいけど受け入れられてもうてね。
「うん。」
「それで俺、けーちゃんをしょんぼりさせてしまって。」
「うん、だから真樹緒。」
「はい?」
「真樹緒は風来坊にどうしてあげたいの?」
おシゲちゃんが頭を撫でる手を止めて、けーちゃんの背中を見る。
何だかへっこんでる背中だねえなんてため息を吐きながら。
俺もそれを追ってお庭のけーちゃんを見た。
「どうしてあげたら…いいとおもう?」
「そうだねえ。」
「ぬん。」
「お話を聞いたのは真樹緒でしょう?」
「ぬん。」
「どうかしてあげたいって思ったのも真樹緒でしょう?」
「ぬん。」
「じゃあ真樹緒が思った通りに、背中を押してあげたらいいんじゃないの?」
ほら見てごらんよ真樹緒。
あの風来坊の背中。
真樹緒が思いっきりぶつかっていってもきっとびくともしないよ。
だったらどーんと風来坊がすっ転ぶぐらい押してきてやったらいいんじゃない。
おシゲちゃんが悪戯っ子みたいな顔で俺を見る。
そんなおシゲちゃんを、俺は目をまんまるくして見上げる。
「…俺のちからでけーちゃんすっころぶかなあ。」
「これだけ助走があったら大丈夫だよ。」
頑張れ真樹緒。
友達なんでしょう?
体当たりぐらいでちょうどいいんだよ。
「ぬん。」
じゃあ、おれ行ってみる。
おもいっきりけーちゃんにぶつかってみる。
背中どーん!って押して来る。
「真樹緒ならできるよ。」
「おシゲちゃん。」
「なあに。」
「もしかしたら俺、ちょっとお留守にするかもしれやん。」
俺がけーちゃんを転ばせるにはね、助走と、俺の体と、やっぱりそのお友達が必要で。
けーちゃんがすっころんだ後はほら、起き上がらなあかんやろう?
じっと。
じっとおシゲちゃんの目を見る。
勝手にどこかに行ったりせえへんってお約束したから、おシゲちゃんにはちゃんとゆうときたいん。
きっと俺の事を心配してくれるおシゲちゃんやから黙ったまんまどこかへ行かんことにしたん。
やからちゃんとおシゲちゃんに聞いてもらいたいん。
「風魔を連れて行くなら許してあげるよ。」
「え?」
「うん?」
「…止められるとおもった。」
「ふふふ。」
「行ってもええの?」
「おシゲちゃんね、真樹緒を信じる事にしたの。」
心配ばっかりしてたら俺の心の臓がいくつあっても足りないから、俺真樹緒の事を信じる事にしたの。
そうしたら俺、すごく穏やかになるよ。
ここが。
言っておシゲちゃんが胸をぽんぽんたたく。
「ちゃんと帰ってこれるね?」
「ぜったいおシゲちゃんとこに帰って来る!」
「なら行ってらっしゃい。」
どこに行くか知らないけど、上杉殿も真樹緒に会いたがってらしたよ。
失礼にならないように早く帰っておいで。
あんまり遅くなったら梵の機嫌だって悪くなる。
ちゃんと思いだしてあげるんだよ。
「ありがとうおシゲちゃん!」
大丈夫!
俺、政宗様の事いつでも大好きやから!
忘れたりせえへんよ!
「無茶はするんじゃないよ。」
やっぱりため息を吐いたおシゲちゃんにもう一回ありがとう!ってぎゅってして俺はけーちゃんの背中に向かって走る。
全速力で走る。
すぐ手が届くところまできて、けーちゃんが俺に気がついて、でもふり返るそのちっちゃな隙をついて思いっきりけーちゃんの背中を押した。
全体重をかけて体ごと押した。
押されたけーちゃんの体はふいをつかれた事もあって、おもしろいぐらい簡単に倒れて行った。
「けーちゃん!」
「なっ…!なっ…!何するんだい真樹緒…!」
「けーちゃん!」
ぬんけーちゃん!
聞いてけーちゃん!
俺もちょっと今のは勢いつきすぎてびっくりしたけど聞いてけーちゃん!
「真樹緒…?」
「けーちゃん!はよう立って!」
今から行くよ。
すぐに行くよ。
出発するよ。
一秒も無駄にできやんよ。
「行くって…どこに…」
「けーちゃんのお友達のとこ。」
「…っ!?」
「けーちゃんも俺も分かれへんから、お友達に聞きに行こう。」
どういうつもりやったんか。
何を考えてたんか。
ちゃんと聞きに行こう。
「それでもけーちゃんの気がすまへんかったら、がつん!とぬん!強めにいっとこう!」
ほら。
愛の鞭てきな。
俺が前にこじゅさんから貰ったがつん的な。
それやりにいこう。
「…真樹緒、でも俺は…」
「俺、けーちゃんがそんな顔するん嫌なん。」
一緒にお焼き食べた時みたいに、お団子食べた時みたいに笑ってほしいん。
やからね。
これからずっとずっと、その事を思い出してけーちゃんが悲しい顔するん嫌やからね。
「ちゃんとお話しに行こう。」
俺も着いて行くから。
いざとなったら俺がけーちゃん守るから。
何も心配ないよ。
大丈夫。
ぜったいに一緒におるから。
「けーちゃん。」
「…真樹緒。」
「行こう。」
けーちゃんに向かって手を伸ばす。
尻もちをついたまま泣きそうな顔で俺を見上げるけーちゃんに手を伸ばす。
動かんとじっとじっとけーちゃんが手を取ってくれるのを待つ。
目はぜったいそらさへんよ。
けーちゃんが不安になってしまうから。
手は俺からはお迎えに行かんよ。
やってそれはけーちゃんから伸ばしてくれやな意味がないから。
ずっと、ずっと、ずっと待って。
しんぼう強く待って。
やっとけーちゃんの手が伸びて来て。
でもやっぱり我慢して待って、待って、待って。
「真樹緒…。」
「一緒に行こうけーちゃん。」
俺の小さな手にけーちゃんの大きな掌が乗った瞬間、俺は思いっきりけーちゃんをひっぱりあげた。
あったかい風が吹く。
さくらの匂いの風吹く。
けーちゃんの長い髪の毛に絡まったさくらを見て俺は、やっぱりけーちゃんがさくらの精なんちがうかなって思って嬉しくなった。
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という事で!
やっとこ慶次君とのお話がおわりました…!
ほらおシゲちゃんが何だかおいしいところを取って行ったでしょう。
慶次君、男前なところ全然なかったでしょう。
うじうじしてばっかりだったでしょうごめんね慶次君…!
おシゲちゃんはあえて行き先を聞きませんでした。
聞いたらひきとめてしまいそうだったから。
まあ私だから秀吉っていう名前を出さない様にしたんですけれども。
名前知ったらおシゲちゃんに止められるから。
信用とか以前の問題だから。
今回のキネマ主は大阪から帰って来てからおシゲちゃんに事の真相を伝えてちょっぴり怒られます。
褒められてちょっぴり怒られます。
次回は慶次君とキネマ主の大阪入りか、おシゲちゃんと謙信様のお話の様子かどちらかになるかと思います。
大丈夫、キネマ主はお友達の名前を慶次君から聞き出してちゃんと「ひでよし」呼びになりますよ。
少しこころのもやっとがほぐれそうになった慶次君は、大阪でキネマ主に優しくされればいいと思います。
それでは!
今回何だか長くなってすみません。
最終的にはおシゲちゃんがいいとこどりで慶次君が桜の精とか訳のわからない事になってすみません。
最後までお付き合いくださってありがとうございました!
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