軍神さんのお屋敷は、お山のてっぺんにあって、すっごく見晴らしがよくって、たまにふわふわ雪の粉が風に乗って下りて来る、すてきなお屋敷で。
お庭には大きな藤棚があって、あとふた月もしたら一面が紫色になるらしくって。
淡い紫色と白色の藤がすごく綺麗らしくって。


何それいいな!
見て見たいな!


思わず俺がゆうたんをばっちり聞いてたかすがちゃんが、おシゲちゃんを軍神さんの所へ案内した後俺らがまったりしてる日当たりの良いお部屋へ戻って来て、去年取れた藤の花の塩漬けを浮かべたお茶を持ってきてくれたん。
ふわんって甘い藤の匂いが香って良い匂い。
おシゲちゃんが買ってきてくれたあったかいわらび餅を縁側でつつきながら、四人とゆめきちでまったりおやつしてます。
真樹緒ですこんにちは!


「おもちもちもちーしあわせー。」


花茶との相性もばつぐんー。
うまー。


「…本当に美味そうに食べるねえ、真樹緒は。」
「やっておいしいもんー。」


ねえ、こーちゃん。


「(もぐもぐ。)」
「こーちゃんもおいしいって!」
「言ってる事が分かるの?」
「俺とこーちゃんはふうふやから。」


らぶらぶなふうふやから。
新婚さんはもう過ぎてもうたけど、ちゃんと二人思いあってるふうふやから。
お嫁さんの言いたい事はばっちり理解するんが旦那様のやくめやから!
そこはまかせて俺じしんまんまん!
こーちゃんが何ゆうてるかなんて俺には簡単に分かってしまうんやから。


「ねーこーちゃん。」
「(こくこく)」
「ぬん!」


もちもちのわらびもちに黒蜜ときなこをつけてもぐもぐ。
ぷるぷるやから落とさん様に口に運んでもぐもぐ。
俺は「ほらね」ってけーちゃんんを見上げてもぐもぐ。
「ほんとだね」って笑うけーちゃんに俺も笑ってもぐもぐごくん。


「うまー。」


あ、わらび餅はね、ちゃんとこーちゃんの分もけーちゃんの分もかすがちゃんの分もゆめきちの分もじゅうぶんあるから大丈夫やで。
おシゲちゃん三人分ってゆうてたけど一人分がちょっと多くってこの人数でちょうどいい位なん。
かすがちゃんが持ってきてくれた大きめのお皿に乗せて頂いてるん。
おシゲちゃんの分ももちろんあるよ。
別々によけてあるけどね、軍神さんとのお話終わったら食べてねって持って行くん。


「…喉に詰まらせるなよ。」
「だいじょうぶー。」
「お前の大丈夫はあてにならない。」
「ぬんっ…」


今はため息を吐いてお茶をすすりながら俺を見てるかすがちゃんは、感動の再会の後ひとしきり俺を怒ってくれた。
それからその後優しく笑って俺の頭を撫でてくれた。


無事で何よりだ。
お前の事だからあの三傑にも嫌という程小言を言われただろう。
だから私はもう何も言わん。


そう言って笑ったかすがちゃんに俺は泣きそうになりながらごめんなさいをして。
ほほえましく見守ってるおシゲちゃんとこーちゃんと、何だかとってもびっくりしてるけーちゃんとゆめきちと一緒に軍神さんのお屋敷にお呼ばれされた。
「何でお前がいる慶次。」ってかすがちゃんはその可愛いまゆげをきゅっと上げたけどそこはね、ちゃんとね、俺がお願いしたんやでって伝えてね。
ことなきをえたから大丈夫なんやで。
ちゃんと無事に一緒におやつたべれてるから大丈夫なんやで。


「それにしても、まさかかすがちゃんと真樹緒が知り合いだったなんてねえ。」
「かすがちゃんが前に奥州へ軍神さんからのお手紙持ってきてくれたん。」


それが初対面よねー。
初めましてよねー。
初対面やのに恋ばなに花が咲いちゃったよねー。
あの時のかすがちゃんちょうかわいかったー。


「っ真樹緒!何を言う!」
「やってほんまの事やもん。」


顔を真っ赤にしたかすがちゃんを見ながら藤の花茶をずずー。
あったかくってほんのり甘ずっぱい藤の花茶を味わいながらずずー。
真っ赤になるかすがちゃん可愛いねーってずずー。
あ、飲み終わっちゃったー。
おかわり貰えるやろうかー。


「いいねえいいねえ!恋の話!俺にも聞かせてよ!」
「ぬ?」
「慶次!」
「あれだろう?かすがちゃんと謙信の事だろう?」
「っ私の話はいい!真樹緒!話さなければいけない事があるのはお前じゃないのか!」


私は肝心の事の顛末を聞いていないぞ!
近江を出てその後どうなったのかちゃんと話せ!


「ぬ?」
「うん?真樹緒も恋してるのかい?」


なんだい、良い人が近江にいるのかい?
随分遠いねえ。


「おれ?」


んー?
おれー?
俺は特に恋とかはしてへんけど。
近江はほら、俺のお母さんがおるとこでね。
近江のお母さん。
良い人っていうか大事なお母さんっていうか。
恋?ではないと思うん。
大好きやけど。
近江のお母さん俺大好きやけど!


ほら今はわらびもちが恋人っていうか。
おいしすぎて他は考えられないっていうか。
そんな事ゆうたらおやきも、奥州で食べて来たきんつばも恋人みたいな感じやけど。
なんてゆうかこーちゃんってゆうお嫁さんもおるし。
別にほら、恋人とかはまだまだいいかなーって。


「あ、政宗様の事は好きやで!」
「政宗…ああ、独眼竜!」


こりゃあ参った。
真樹緒の良い人は独眼竜かい!
大物じゃないか!


「んーどうやろう?」


俺、こじゅさんも鬼さんもおシゲちゃんもみんな好きやし。
さっちゃんもゆっきーもおやかた様も好きやし。
もちろん明智の光秀さんやちかちゃんやむさしくん、元就様も好きやし。


「こーちゃんの事も大好きよ?」
「(?)」
「こーちゃんは俺の事好き?」
「(こくり)」
「ぬん!」


りょうおもい!


二人してわらびもちもぐもぐ。
黒蜜ときなこをたっぷりかけてもぐもぐ。
顔を見合わせてに、って笑ってもぐもぐ。
口のまわりについてるきなこをこーちゃんに取って貰いながらもぐもぐ。
やっぱり美味しくて顔がゆるんでしまうん。


「あ!もちろん俺かすがちゃんの事も好きやで!」


ぬんぬん忘れてた訳ちがうんよ。
全然まったくそんなつもりやないんよ。
ただちょっとぬん、きな粉が。
黒蜜ときな粉が俺を誘惑しにかかってたっていうか。
わらび餅に乗ってるあれってすぐもぐってしてしまわんと思いっきり落下していって悲しい事になるっていうか。


かすがちゃんおれ、おれ…
…分かったからきな粉まみれになりながらそんな顔をするな。


正直全く気にしていない。
思い詰めた顔で餅を食われると後味が悪くて敵わん。


「…真樹緒には早かったかい?」
「一概にそうとも言えんがな。」
「うん?」
「真樹緒は伊達の寵児だ。」
「、へえ。」
「なに?政宗様?」


ためいき吐いたかすがちゃんのお隣で慶次君が首を傾げる。
俺も突然政宗様のお名前出たもんやからふりかえって。
政宗様がどうかしたん?
慶次君も政宗様知ってるん?


「、こりゃあ。」
「ぬ?」


慶次君?


「独眼竜の方が苦労してそうだねえ?」
「そうでも無いぞ。」
「ぬ?」


かすがちゃん?


「あれは愛だ。やっかいなな。」


惚れた腫れた、恋などという甘やかなものじゃない。
真樹緒がどうにもこうにもあんな風だからな。
応えをあきらめたんだろう。
独眼竜のそれはとうに恋を通り越してしまっている。
与えられている真樹緒もそれを自然に受け入れているし、与えている当人もかねがね幸せそうに惚気ている始末だ。
手に負えん。


「あっは!深いんだねえ。」
「?慶次君?かすがちゃん?」
「真樹緒。」
「?はい?」
「難儀だな。」
「うん?」
「だがそれもまた一つのかたちなのだろう。」


やっかいだが、私はそれがとても温かいもののように思う。
お前が幸せなら何よりだ。


「そら、熱いうちに飲め。」
「?う、ん…?」


からになった湯のみにお茶をそそいで藤のお花をそおっと落としてかすがちゃんが手渡してくれる。
でも俺が首をかしげたまんま動かへんかったから、かすがちゃんは小さく笑って俺の手に湯にみを持たせて立ち上がった。
俺の頭をゆるゆるなでて「私はこれで失礼する」ってゆうて立ち上がった。
まだ軍神さんからの言いつけがあるからここでゆっくりしてられやんのやって。
今お話してるおシゲちゃんと軍神さんの所にもいかなあかんのやって。


「ではな。」
「あ、かすがちゃん!」
「、何だ。」
「ん!これ!わらび餅!」


さっきから一個も食べてへんやろう?
俺とこーちゃんとけーちゃんとゆめきちばっかり食べてたやろう?
やからあーんなんやでかすがちゃん。
ちょっとかがんでお口開けて欲しいん。


「いや私は。」
「かすがちゃん。」
「、」
「おいしいよかすがちゃん。」


楊枝にたべごろのわらび餅をぷすっと刺して。
もちろん黒蜜ときな粉はたっぷりめ。
それを落ちやんように左手でうけながらかすがちゃんにどうぞって差し出した。
食べてかすがちゃん。
とってもおいしいから。


「あーん!」


じ、ってかすがちゃんを見上げてたらかすがちゃんがおんなじ様に俺をじっと見て。
俺とわらび餅を交互にじっと見て。
ちょっと困った様な顔でまた俺を見た。

だめだめ。
俺このわらび餅はかすがちゃんに食べて貰うって決めたんやから。
かすがちゃんが食べるまで俺動かんのやから。

やあでもぬん。
かすがちゃん…そろそろぱくっとしてくれやなわらび餅が楊枝から飛び下りそうなんやけど。
やあ飛び下りても俺の左手に着地するから大丈夫やと思うけどでも食べるなら今やと思うん。
ほらやって今にもわらび餅が。
ぷるぷる震えてるわらび餅が限界をうったえてきてるん。


「かすがちゃ、」
「いただこう。」


俺がわらび餅を持ってる手を取って、長い金色の髪の毛を耳にかけながらかすがちゃんがわらび餅をぱくん。
くちびるのそばにちょっとついてしまった黒蜜を指でぬぐってぺろり。
それ!
俺たまにやっておシゲちゃんに怒られるやつ!


「母上だからな。」
「ぬん!」


おいしいな、ってかすがちゃんが笑ってくれたから俺もわらび餅もう一個口に入れてもぐもぐ。
今度こそお仕事に戻るかすがちゃんを見送ってもぐもぐ。
またあとでね!って手をふって。


「仲良しだねえ。」
「俺とかすがちゃん?」
「そ!俺の時と大違い!」


俺が謙信を訪ねて来た時なんて門前払いもいいとこなんだよ。
「何をしに来た!」「謙信様はお忙しいんだお前の相手をしている暇はない!」ってな感じでさ。
目なんかこーんな釣り上がっちゃって!
自分の目じりを指でつりあげながらけーちゃんが言う。


「謙信の前では乙女なのにねえ。」
「やあそれはほら、恋バナやから。」
「こいばな。」
「ぬん、恋のお話。」


かすがちゃん軍神さんの事ちょう好きやんか。
やっぱり好きな人の前では緊張もしちゃうしどきどきもしちゃうしそわそわもしちゃうと思うん俺。
そんでもってそんなかすがちゃんちょう可愛いと思うん俺。
一生懸命な女の子って可愛いよね!
っていう事はかすがちゃん可愛いよね!


「ちがいない!」
「ぬん!」
「真樹緒にはまだ早いみたいだけどね。」
「えー?やって俺よう分からんもん。」


でもみんなが好きなんはほんまやで?
ちょっと恋っていうんがまだけいけんぶそくなだけで。
してみたいなーっていうのもたまに思ったりするんよ?
でも、今が楽しいっていうか。
そういうんより皆と一緒にいる方が楽しくて幸せやってゆうか。


「ぬん!俺の事ばっかりやなくってけーちゃんはどうなん!」


考えても考えても俺にはちょっとまだ難しいから、さっきからほほえましく俺を見て笑ってるけーちゃんにお話をふってみる。
わらび餅を食べてても、膝に肘をついてこっちを見ても、どこから見ても男前なけーちゃんやから恋もたくさんしてたりするんやろうかって思って聞いてみる。


「俺かい?」
「けーちゃんは恋した事あるん?」


俺のお皿に乗ってた最後のわらび餅を口に入れてけーちゃんを見た。
そんなに俺の事笑うんやったらけーちゃんは経験あるんやろうね!
ぷん!ってほっぺた膨らませて見たけーちゃんは、膝に乗せたゆめきちにわらび餅をあげながらちょっとびっくりした様な顔で振り向いて。



「けーちゃん…?」



風が吹いた。
あったかい、春の匂いのする風が吹いた。
ふわふわ優しく俺の傍を通り過ぎた。
まだ咲いてるはずないのに桜の花びらが俺の目の前を飛んで行く。
思わず手を伸ばしたら捕まえる前に雪みたいに解けて消えた。



「けーちゃん、いま、さくら…」
「あるよ。」
「ぬ?」
「恋した事あるよ、俺。」



消えた桜を探してた俺が振り返った時、けーちゃんは見た事もない顔で笑ってた。
優しい優しい顔なんやけど、今にも泣いてしまいそうな顔で笑ってた。
今見た桜みたいにすぐに消えてしまうんやないかって心配になるぐらいのけーちゃんの笑顔は、俺の心配をよそに瞬きする間にはいつも通りのけーちゃんになって。
俺はちょっとお腹のあたりがもやっとしたんやけど、もやっとの原因が分からへんから今度は胸の辺りがぎゅっとして。



「ねえ、真樹緒。」
「…ぬん。」
「俺の話、聞いてくれるかい?」



あんまり楽しい話じゃないかもしれないけどさ。
返事をするより先に俺はけーちゃんにくっついた。
俺とけーちゃんの間にあったわらび餅の乗ったお盆と急須の乗ったお盆を脇に避けてくっついた。
俺の膝にきたゆめきちの頭を撫でて。



「ききたい。」



俺、けーちゃんのお話ききたい。
俺そばで聞いてるよ。
どんなお話でも大丈夫よ。
ちら、ってけーちゃんを見上げたら顔をくしゃ!ってしてけーちゃんが笑う。
かなわないねえ!
そんな声が頭の上から聞こえて大きな手が俺の髪の毛をまぜて。




「じゃあ、俺の友達の話から始めようか。」




ゆっくり目を閉じた時、またあのあったかい風が俺のそばをふきぬけて行った。


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という事でわらび餅回でした。
ほらわらび餅しか出て来なかったでしょう!
何にもお話進んでないでしょう!
わ、分ってるんですでもこれで五千字とかいっちゃって更新一回分になっちゃってもう、もう、ほんとすみませ…!

かすがちゃんは可愛いけど男前だと思うんです。
ハンサムな彼女だと思うんです。
キネマ主の前でも紳士だよ。

慶次君はちょっと真中あたり空気ですみません。
でもほら、これから主役になりますから。
今回は主役をわらび餅も持っていかれましたけれども次回はお話の主役ですから。

次こそはひでよしの所へ行こう!な決心まで書けたらいいな…
何せ大阪ではキネマ主半兵衛君担当ですから。
大阪のお母さんをこさえないように気をつけますもうさすがに…お母さんは…多すぎる…!

ではではお久しぶりのキネマ、最後までお付き合い下さってありがとうございました。
いつもお待たせしてすみませんー!
少しでもお楽しみいただければ幸いです。
でも主役はわらび餅なのでほんと微妙なしあがり…!

  

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