初めてやってきた越後のお国は奥州と同じぐらい寒くて。
でも奥州と同じぐらい活気があって。
奥州とおんなじぐらい山に囲まれてて。
自然がいっぱいで。
そんでもって、そんでもって。


…おシゲちゃん……どこ…


とってもとっても広いところでしたおシゲちゃんとそっこうではぐれてしまってぜっさんまいごちゅうの真樹緒ですこんにちは…!


ちょっともう何かどこでおシゲちゃんとはぐれたんかも分かれへんねんけどどうしよう。
越後のお国に到着したところまでは絶対一緒やったんやけどどうしよう。
おシゲちゃんが馬から下りて、わらぐつを脱がせてくれて、赤くなった鼻をちょんって撫でてくれた所までは覚えてるんやけどどうしよう。
馬を預けて来るねって言うたおシゲちゃんをいってらっしゃいってお見送りして、ほんなら待ってる間にちょっと町の方を見に行ってみようかななんて動いて見たけど迷うほども無い近さやったから大丈夫かなって思ってたんやけどどうしよう。

やあお馬を預ける所の裏の方からええ匂いしてきたから見にいってみたけども。
行った所の向かいに市がたってて道を一つ渡るだけやしええよね、なんて軽い気持ちでその道を渡ってみたけれども。
でも思ってたより人が多くて、ぬん、多分市が出てるからやと思うんやけど、その人ごみに流されて流されて流されるままになってたところをこーちゃんにお助けしてもらったらすぐ目の前にあった市が前にも後ろにも右にもどこにもなかったんやけれども。


「ぬん…」


そおっと右を見てみる。
お茶屋さんとお漬物屋さんと、その隣の小さい屋台。
そこからええ匂いが漂ってくるんは多分おうどん屋さんやからやと思うん。
おだしの匂いするから。
ぐるっと首を戻して今度は左を向いてみる。
細い道が一つと、人が沢山通れる道が一つ。
反物屋さん?っぽいお店とお酒の匂いのするお店。
でもあの細い道の奥にはお寺っぽいのが続いてる感じ。
そおっと正面を向いて、心を落ち着かせてみるために手を組んでみたりして。


後ろを見ても人人人。
前を見ても人人人。


「…こーちゃん。」
「(しゅた!)」
ここえちごのどこやろう来てしょっぱなに俺まいご…!


えええ来てすぐやで。
えちごに着いてすぐやで。
俺、どんだけなん迷子これで二回目…!
薩摩のお国で初迷子体験してこれで二回目…!
デジャヴ…!


「ぬん…」


これはまずどうするところやろう。
おシゲちゃんを探すんはもちろんなんやけど。
でもおシゲちゃん軍神さんに会いに行くってゆうてたし。
それやったら俺とこーちゃんも軍神さんの所を目指した方がええかもしれへんし。
ぬん、でもおシゲちゃんが俺を探してくれてたらどうしよう。
そしたらここから動かん方がええんかなあ。
やあ、でもここでずっとぼうっとしてる訳にもいかへんし。

あっ、かすがちゃんはそういえば越後のお忍びさんよね。
偶然出会ったりできひんやろうか。
かすがちゃーん!って呼んだらひっこり出てきてくれへんやろうか。
ぬん、こーちゃんやったらお名前呼んだらすぐにしゅたっと来てくれるけど、でもかすがちゃんは越後のお忍びさんやしね、軍神さんのお忍びさんやしね、俺が呼んでみたところで聞こえる訳ないよねぬーん!


ぐるぐるぐるぐる考えて、ちょっと落ち着かなあかんよねって近くにあった長いすに腰かける。
これはうろうろしてるよりも止まって考えた方がいいよねって、座り込んでみる。
そしたら「いらっしゃい」って。


「…ぬ?」
「いらっしゃい、ご注文は?」
「ご注文…?」


顔を上げたらにこにこ笑うあばさんと目が合った。
じっとおばさんを見て首をかしげたら「おや、お客さんじゃ無かったかい?」なんて今度はちょっと心配そうな声で。

どうしたの、一人かい。
それとも連れとはぐれちまったかい。

やあやあ確かにおシゲちゃんとはぐれてしまったんは大正解なんやけど。
ぬん、あれ、ここ、お店?
何のお店?
よく見たら風にはためいてるのれんに甘味屋って書いてあって、俺が座ってた長いすにはお品書が置いてあった。


「ぬん甘味!」


そういえばちょっとお腹へってたってゆうか。
とってもさむさむやからあったか甘いものが恋しかったってゆうか。
迷子でものすごいだめーじを負った俺の心を甘いもので復活させたいなって思ったってゆうか。
ここが甘味屋さんやって気がついて、がぜん俺のこころがおどっちゃうっていうか。


「坊や?」
「!ご注文おねがいします!」
「お客さんかい?」
「ぬん!」


心配な顔がやんわりほぐれておばさんが笑う。
はいはいどうぞってお品書きを渡してくれてその中からあったかいお菓子を探した。

お焼きは焼き立てだよ。
お汁粉は餅か白玉を選んでもらえるね。
甘酒は体の芯からあったまるよ。
飲みものなら葛湯も色んな種類を置いてるけど。
そうそう最近寒いから温かいわらび餅なんてのも出してるんだ。

一つずつ説明してくれるおばさんに俺のしょんもりしてた気持ちがどっかに飛んで行く。
あんこ入りのおやきおいしそう、あったかいわらび餅って何やろう、お汁粉は甘くてあったかできっととっても幸せになれる。
葛湯はいちじくとあんずとゆずとしょうが。
甘酒は飲んだ事ないけどお酒なんかなあ?
お酒やったら俺、奥州の皆からも四国の皆からも飲んだらあかんよって言われてるから飲めやんし。


「どちらにしましょうか?」
「えー、まようー。」


ちょうまようー。
全部ためしてみたいおれー。


「こーちゃんはどれがいい?」


いっしょにたべよう?
俺、おシゲちゃんにおこづかい貰ってるからごちそうできるよ!


「(…ふるふる)」
「やあ、そんなごえんりょせずにー。」


ほら、俺いつもこーちゃんにはお世話になってるから。
お給金も払えてないのにとってもお世話になってるから。
俺からこーちゃんにいつもありがとうの気持ちを込めて甘味ごちそうしますー。
どれがいい?
べつべつのん頼んで分けっこしようこーちゃん!


「(…)」
「俺こーちゃんと二人でおやつ食べたいな。」


いっしょがいいな。
一人で食べるよりもきっとおいしいと思うん。
やからこーちゃんにも選んでほしい。


「こーちゃん。」


おねがい。


「(……)」
「こーちゃん?」
「(……とんとん)」
「あ、葛湯?」
「(こくり)」
「いちじくとあんずとゆずとしょうががあるって。」
「(とん)」


こーちゃんが指差したのはいちじくの葛湯。
それ俺も気になってた!ってこーちゃんを見上げたらふわ、ってこーちゃんの口元が緩んだ気がした。
嬉しくなって俺も笑う。
ほんなら俺はあったかいお焼きにしよう。
俺あのぱりぱりの皮のところが大好きなん。
こーちゃんにも好きよねお焼き!
おシゲちゃんがつくってくれたお焼き二人でいっぱい食べた事あるもんね!


「ほんならいちじくの葛湯とお焼きおねがいしますー。」
「はいはい、今すぐに。」


お店のおばさんにお品書きを渡してあったかいお茶を受け取る。
こーちゃんと二人並んでずずっと一口。
あったまるねえ、なんて顔を見合わせて町を眺めた。
人がたくさんで賑やかな町は国が豊かな証拠だよっておシゲちゃんがゆうてたのを思い出す。
それを聞いたのは俺が奥州の城下町に行った時やったんやけど、ここも奥州とおんなじぐらいにぎやかでお国を治めてる軍神さんが素敵な人なんやろうなあってちょっとわくわくする。

ぬん、ほら、奥州のお国を治めてる政宗様はちょうかっこいいやん?
すてきなお殿様やん?
俺のごじまんの政宗様やん?
やから越後におる軍神さんもまけずおとらずの素敵な人なんかなって!
会うんが楽しみになるよね!
でも一番は政宗様やけど!
うちの政宗様やけど!


ぬーん!


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ただのまったりデート回ですねすぐに続きます夢吉にも出会ってないよ…!

  

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