「お忍び君に何があったのか聞かなかったの?」
「え?」
「お手紙、受け取った時に。」


持ってきてくれたんじゃないの?


「ああ!あのね!それね、違うかったん!」


俺もてっきりさっちゃんがお手紙のお返事持ってきてくれるんかなって思ってたのに、やってきたんは全然見た事の無いお忍びさんで。
迷彩ポンチョやなくって真っ黒ポンチョのお忍びさんで。
ちょう無口で。
お隣におったこーちゃんが何か背中の刀をぬいちゃうぐらいには微妙なくうきがただよっちゃって。
でも、ほら、ゆっきーのかもん?おだんごみたいな。
あれがついたお手紙もってたからああこれゆっきーからのお返事なんやなってうけとったんやけど。


「…ゆっきーもさっちゃんも忙しいんかなあ。」


こっちに戻って来たらすぐ会えるかなって思ってたから俺ちょっとしょっくで。
このお手紙気にはなったんやけど、でも、俺がここでまたお手紙をわたすんはあれかなって思ってこのお手紙と紐は大事にとってあるん。


「…梵。」
「俺らが詮索する事じゃねェ。」
「まあそうだけど。」


うちに何も伝わってこないところを見ると甲斐でどうにかする問題なんだろうけれど。
口出しなんて無用なんだろうけど。
それでも。


「…真樹緒。」
「はい?」
「もうちょっと温かくなったら甲斐へ真田殿達の顔を見に行こうか。」
「!まじで!」
「うん、まじで。」


まだ山道は雪で足を取られるだろうから。
それがすっかりとけてしまったらお土産を持って甲斐にお邪魔しよう。
ほらあれでも真田殿は一国を任されてる方だからさ。
更に信玄公の虎でもあるわけだからさ。
お忍び君はお忍び君だから真田殿のお忍び君で大変だろうし。
今は忙しくてお手紙書けないのかもしれないじゃない。


「山野雪が溶ける頃にもう一度お手紙を書くといいよ。」
「うん!」


ゆっきーのお手紙を綺麗にたたんで箱に戻す。
何にも書いてないけど、ゆっきーから戻って来た大事なお返事やから。
一緒に入ってた紐は着物を着た時に結ぶ紐らしいんやけど、結ぼうと思ったら政宗様がほどいてしまったから真っ赤な紐はお手紙箱の中にしまってあるん。
何でほどいてしまうんかは教えてくれやんかったんやけど。
(やあ、やっぱり政宗様は青色が好きやからやろうか)
でもたまにこっそり結んでるのはないしょ。
やってせっかく貰ったもんやしね!
つけてみたいってゆうんは誰でも思うよね!
真っ赤でほんまにきれいなん。


「よし、そしたらおシゲちゃんと一緒におでかけしようか。」
「おでかけ?」
「そう、初めに言ったでしょ。」


おでかけしない?って。
おやつ食べた後だけど。
おシゲちゃんと一緒におでかけしよう。


「…どこに?」
「越後に。」
「えちご…」



……
………



「えっ、えちご…!?」


ぬんえちご!
越後ってあれやん。
かすがちゃんがおるとこやん!

やあ、かすがちゃん越後に戻ってるん?
ぬん戻ってるよねやって越後のお忍びさんやもんねかすがちゃん。
俺かすがちゃんには明智の光秀さんのところでとってもお世話になったし、急に離れ離れになったしとっても気になってたん。
お礼もちゃん言いたいし、俺奥州に帰って来たよってゆうんも伝えたいし、それこそお手紙書いてもよかったんやけどほら俺越後の謙信様?ぬん、謙信様。その謙信様とは知り合い違うししつれいかなって思ってて。
ほらかすがちゃんは謙信様のお忍びさんやから。
謙信様の事が大好きやから。


「一緒に行く?」
「行く!」
「おいこら成実、そりゃァどういう事だ。」


てめェ俺を差し置いて真樹緒とdateだァ?
冗談も程々にしろよ。


「冗談なんか言うわけないでしょう。」


今回の甲斐奥州越後の同盟について、越後に正式に挨拶に行かなきゃならないのは梵も知ってるじゃない。
書状のやり取りだけでもそれは確かなものだけど、今回の事であちらのお忍びさんに真樹緒がお世話になったしお礼も兼ねてご挨拶に窺うんだよ。


「なら俺が真樹緒と行きゃあいいだろう。」


奥州筆頭直々にっつー方が礼儀ってもんじゃねぇのか。


甲斐に行ってた時から溜まりに溜まった政務を山積みにして何言ってんのかなァ?うちの奥州筆頭さんは。


その俺が行って当然だろうみたいな顔やめてくれない。
怒るよ。
やっと机に向かったと思えば真樹緒といちゃいちゃべたべた、にかわで貼り付けたみたいにくっついて。
何度ひっぺがしても懲りないでいい加減にしなよ梵。


「ちゃんとお仕事終わらせるまで真樹緒は没収します。」
「Ah!?」
「真樹緒!おいで!」
「むぐっ!?」


政宗様とおシゲちゃんがお話してるあいだ、こっそり残りのきんつばをもぐもぐしてたら突然よばれて首をあげる。
でも口の中のはきんつばでもぐもぐ。
お返事しようにもきんつばがもぐもぐ。
水分全部もっていかれそうになるのを頑張ってもぐもぐ。
ほどよいところで、お茶をぐいっと。
ふう!って息をついてごちそうさまでした。
こっちに伸ばすおシゲちゃんの手を取った。


「おい真樹緒、お前俺の傍を離れるつもりは無いんじゃなかったのか。」
「ぬ?」
「海で。俺に言ったろう。」


忘れたとは言わせねえぞ。


じっとりこっちをうらめしそうに見る政宗様が、俺の手を握る。
おシゲちゃんと繋いでるのと反対側の方の手。
ぎゅうってそれはとっても強くて振りほどけやんのやけど。


「やあ、やって政宗様ほんまにお仕事すすまへんやろう?」


お約束したけど。
もちろん政宗様の傍に俺これからもおるつもりやけど。
でもやあ。
一緒にいちゃいちゃしてくれるんはとっても嬉しいんやけど、このままやったらこじゅさんにも怒られてしまうよ。
ただでさえ俺、政宗様のお部屋へ行くのひかえるようにって言われてるのに。


「…Really?」
「やー!」


それにほら、俺、かすがちゃんに会いたいなって。
お久しぶりに会ってお礼言いたいなって。
たくさん心配かけてしまったしごめんなさいも言いたいなって。
謙信様にも会ってみたいなって。
ていうかえちごに行ってみたいなって。


っお前最後の方が本音だろうコラ待て俺も行く!
「ぬーん!おシゲちゃん政宗様が離してくれへんー!」
「往生際が悪いよ梵!」


風魔!
風魔!行くよおいで!


「(しゅた!)」
「こーちゃん!」


こーちゃんが音も無く現れて黒い羽がふわふわ舞った。


黒い羽。
ぬん、俺が今までとってもお世話になってる黒い羽。
包みこまれるといつの間にか瞬間移動してたりする黒い羽。
これちょう便利なんと違うかなって最近思ってたりする黒い羽。
その黒い羽が俺とおシゲちゃんを包む。


「じゃあね梵、お土産は買ってくるからさ。」


残りのお仕事頑張るんだよ。


「ぬ?え?このまま行くん?」
「そうだよ。ほら真樹緒も梵に行ってきますして。」
「あれやあ。」


俺準備とかしてへんけど大丈夫なんやろうか。
とっても急なおでかけやけど大丈夫なんやろうか。


「真樹緒、はやく。」
「ぬん!」


黒い羽の向こうで政宗様がびっくりした顔で固まってた。
でも次の瞬間は!って気がついて黒い羽をかきわけてこっちに手を伸ばす。
俺はその手をすっごくにぎりたかったけど、でも、ぬん、やっぱりかすがちゃんにもあいたいからぐっと我慢して。




「政宗様!俺ちょっとえちごまで行ってくる―!」



ぬーん!
おシゲちゃんとこーちゃんとえちごにおでかけしてくるー!
すぐかえってくるからお仕事さぼったらあかんよ!
頑張ってねー!
お土産も買ってくるからね!
行ってきますー!




「っwait!待て真樹緒!」




政宗様の声は聞こえるけど辺りは真っ暗。
でもふわふわした羽の中で俺とおシゲちゃんは顔を見合わせてひっそり笑う。
政宗様おこってるよ。
たまにはお灸も必要なんだよ。
そんなこそこそばなしをして。




てめぇ覚えてろよ成実えええええ!




ふ、って体がうく感覚の中聞こえてきた政宗様の声に、今度は声をあげてわらった。


ごめんね政宗様。
ちょっとおでかけしてくるね。
すぐに戻って来るから。
えちごまで行ってきます!


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越後に行ってなくてすみませ…!
何か前フリが長くてすみませ…!

やっとこ五章が始まりました。
次回から舞台は越後です。
しょっぱなにキネマ主が迷子になるのですけれども!
迷子になって夢吉と出会います。
おシゲちゃんが途方にくれますが、迷子をエンジョイしつつその後は慶次君と出会いたいと思います。
おシゲちゃんと再会するのは謙信様のお屋敷になるかと(笑)

姿がめっきり見えない甲斐組ですが、再会できるのは五章の終わりの方になりそうです。
特に危機ではなく元気にしておりますが、とある事情で忙しいのでお返事がわりに紐を送りました。
政宗様が勘繰るような意図はありませんが、少しはそういった含みでもあると思いますキネマ主に伝わっておりませんけれどもね!

ではでは次回は夢吉とデートをお送りしたいと思います。
五章が始まったからには月一更新を卒業したいしょぞん。
がんばります。

ではでは最後までご覧下さってありがとうございました!
  

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