「真樹緒―、ああやっぱりここにいた。」
「ぬ?」
「ちょっといい?」
「はい?」
「真樹緒さ、」
「ぬん。」
「おシゲちゃんとちょっとこれからおでかけしない?」


政宗様のお部屋で、政宗様と向かい合わせで、たまにちょっとおしゃべりしながら政宗様はお仕事、俺はお手紙を書きながらまったり過ごしてたら扉がすぱんと開いてな。
お盆に今日のおやつとほかほかゆげが立ってるお茶を載せて、ごきげんなおシゲちゃんがひょっこり顔を出した。

政宗様が「あーん?」なんて言いながら顔を上げる。
俺は突然そんなこと聞かれて首をかしげて。
そのままにこにこ笑いながらお部屋に入ったきたおシゲちゃんは「お疲れ様」なんて言っておやつとお茶を机に置いた。

あまいあまいくりの匂い。
今日のおやつはくりのきんつばやって。
焼きたてみたいでゆげといっしょに美味しそうなくりの匂いがお鼻をくすぐるん。
持ってた筆を横に置いて、あったかい緑茶といただきます真樹緒ですこんにちは!


「あれ、文を書いてたの?」
「ぬん。」
「誰宛て?」
「えっとねー、四国に帰ったちかちゃんらあてのお手紙―。」


お元気してますかーって。
こっちはもう雪とけたよーって。
でもまだまだ寒いから夜は政宗様と一緒にねてますーって。
四国はどうですかーって。
あ、今日のおやつはきんつばってゆうんも書こうあとで。
くりのきんつばやよってゆうんも書こう。


………お手紙?
「ぬん。」
……四国宛ての?
「ぬん。」
……四国のお母さん達とさよならしたのってほんの五日前じゃなかったっけ?


お手紙って普段会えない人にお久しぶりですって書くものじゃないの。
季節の変わり目とかに折を見てお送りするもんじゃないの。
今日のおやつ事情を書いて、それは本当に四国の方々に出しても大丈夫なお手紙なの。



……
………



ぬ…?
「ちなみに真樹緒が書いてる文は長曾我部達と別れてから三通目だぜ。」
「はァ!?」


何それほぼ毎日文をやりとりしてるって事?
え、ちょっと待ってよ奥州から四国ってそんな簡単に文のやり取り出来ないよ?
四国の人達何考えてんの?
ていうかどんな文のやりとりしてんの?


おシゲちゃんのいけめんな顔がちょっぴりいけめんやなくなって俺と政宗様を交互に見る。
政宗様はちょっとにやにやしてるし、おシゲちゃんは眉毛をうんと釣り上げて。
俺はやっぱり首をかしげてどうしたんってお茶をごくん。
熱すぎず冷めすぎず、ちょうどいい緑茶かげんでお腹のそこからあったまるん。
そんな俺を見ておシゲちゃんは長い長いためいきはくん。


あれやあどうしたんおシゲちゃん。
おシゲちゃんもちかちゃんらからのお手紙みたかった?
俺、政宗様には見せたんやけど。
ほら、おれまだ読めやん字とかあるから届いた夜に、一緒におふとんの中で読んだんやけど。


「ぬん、おシゲちゃんもみる?ちかちゃんらから届いたお手紙。」


俺はきんつばに伸ばしてた手をひっこめて(ぬん、ちょっと残念やったけども後のおたのしみにするん)机の下にある箱を取り出した。
この箱はね、鬼さんがお手紙入れるのにどうぞって手作りしてくれたやつなん。
裏のお山の木を切って、やすりですって、その木を組み合わせて作ってあるん。
釘とかいっこも使ってへんのにしっかり箱の形してるんやですごい!
ふたはスライドさせて開くん。
そんでもってふたの所に俺の名前を彫ってくれてて、これは俺だけの手紙箱なんやで!
ここにね、ちかちゃんらから貰ったお手紙入れてるん。
大事な大事なものやから。


「これがね、俺がお手紙出して初めて来たおへんじ、」
「え、先に出したの真樹緒なの?」
「奴等が帰った夜に泣きながら書いてたぞ。」


俺の文机で。
それを風魔が届けてな。
あいつらまだ船の上だったんじゃねぇか。
政宗様が頬杖つきながらおシゲちゃんをちらって見た。
手に持った筆をくるんって回して筆置きに置いて、さっきからやってたお仕事の紙を放り投げる。
それを見やんとキャッチしたおシゲちゃんはせっかく政宗様が仕上げたその紙を思い切り握りつぶして。


「真樹緒。」
「…は、はい?」
「今までのお手紙風魔が届けたの?」
「…う、うい…」
「鴉のかーくんじゃなくて?」
「えっと、ぬんっと、こーちゃんの方が早く届けられるかなって…」




……
………




風魔を飛脚に使うんじゃありませんっ!
「ぬんっ!」


ばしっとその手を政宗様の文机に叩きつけました何かものすごいしたでこわい…!
余りの勢いに机に置いてあったすずりが飛び上がりましたおシゲちゃんこわい…!
ひょっとすると机が割れる勢いですおシゲちゃんこわい…!



「それに何これ。」


潮の流れが速いとか、天河が綺麗だとか、でっかい魚釣ったとか、日輪を見る為にもう寝るだとか明らかに船でお返事書いてもらったお手紙だよね何やってんの。
四国のお母さん達との繋がりはとっても大事な物だってわかってるけど何やってるの。


「お手紙出すのをやめろとまでは言わないけど、時季と場合と機会を選びなさい!」


日記みたいなお手紙出すんじゃないの!


「はああいいいいい!」


ごめんなさいいい!


おシゲちゃんがもう一回手をばしん!って机に叩きつけた。
今度こそほんまに机が割れるんちがうかなって本気で思ったけどそんな余計な事考えてる場合やないから正座で背筋ぴんって伸ばしておシゲちゃんにごめんなさい。
あんまりひんぱんに出すのはやめとくからってごめんなさい。
でも、でも、でも、今書いてるやつを最後にするからこれこーちゃんに頼んでもいい?っておシゲちゃんを覗きこんだらおシゲちゃんの眉毛がぴくっと動いたから、このお手紙出すんはもうちょっと後にしておこうと思いますおシゲちゃんごめんなさい。


「四国にばかり送ってないで、甲斐のお方達にも出してあげればいいのに。」
「ぬん?ゆっきーらに?」
「そう、奥州に帰って来ましたってお手紙出したっきりじゃないの?」
「やあ、そうなんやけど。」
「?何かあるの。」
「あのねえ、お返事かえってけえへんの。」


あ、返ってはきたんやけど。
ぬん、でもげんみつにゆうとお返事やないかもっていう気もするし。


おシゲちゃんの眉毛がもとにもどったから俺もひざをくずしておやつのきんつばに手を伸ばす。
まだあったかいそれにかぶりついたら、口の中がくりでいっぱいになった。
もちもちあまあまくりくりで幸せになった俺は首を傾げるおシゲちゃんに、手紙箱の中の、もう一番下の方になってしまったゆっきーからのお返事を取り出して渡す。
うすももいろで、桜の花びらが和紙にひらひらってなってる綺麗な和紙。
まだ桜咲いてへんのにね、ってゆうたら去年のだろって政宗様がゆうてたん。
去年の桜の花びらを入れて紙を梳いたんだろうって。
でもそんな素敵な紙に文字はひとつも書かれてへんくって、赤い紐がね、くるまれてて。


「紐?」
「真田紐だ。」


まるでてめェを表したかのような緋色の紐を送って来やがった。
全く面白くねぇ。
蒼ならばまだ粋なもんだと笑ってやったのに。

政宗様がふん!って鼻をならす。
ぬん、政宗様お手紙もらった日もそんな顔してたよね。
ちょっとおもしろくなさげやったよね。
やっぱり政宗様は青が好きやからやろうか。
でも赤も綺麗やと思うんやけどね俺!


「…そう言う意味じゃないと思うけど。」
「ぬ?」
「真樹緒は男心が分かってないねえ。」
「えー、なに、おとこごころ。」


俺、赤も青もすきやで!
ほら政宗様とゆっきーの色やんか!


「そこは分かってるのにね。肝心なところがね。残念だね梵。」
「うるせェ、真樹緒はpureなんだよ。」


そこがいいんだろうが。
なぁ真樹緒。


「うん?なあに?」
「今度は俺が青の寝衣をpresentしてやるからな。」
「しんい?」
「却下。」


見え透いてるんだよお母さんは許しません。


「?おシゲちゃん?政宗様?」


笑ってる政宗様とビシッ!て眉毛にしわをよせたおシゲちゃん。
ちょっとただようきんちょうかん。
首をかしげる俺は何で二人がぴりぴりしてるんか分からんくって目をいったりきたり。
政宗様とおシゲちゃんをいったりきたり。
あれどうしたんほんまに、って思ってたらおシゲちゃんがため息をはいた。



  

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