きゃぁきゃぁと叫んでいる真樹緒を風呂場に残し、喉を鳴らしながら自室に向かった。
ふと自分の右手が今はすでに無い目に触れている事に気づく。
「Shit…」
今更どうという事は無いが。
真樹緒は気づいたかもしれない。
ふよふよとしている癖にどこか察しがいい子供だあれは。
はぐらかしてみたものの、どこまで信じているやら。
少し自嘲気味な笑みが漏れた。
「あんな顔されりゃなぁ…」
眉を下げて、おろおろと。
本人は気づいていないだろうが、今にも泣きそうな顔をして見上げられてしまった。
そんな顔をさせるような顔を自分がしていたのかと、思わず舌打ちそうになったぐらいだ。
お前にそんな顔をさせるのは本意じゃねぇ。
お前はけらけらと笑い、ぷうと頬を膨らませ、そして馬鹿みたいに可愛らしく俺の名を呼んでいればいい。
「政宗様」と、敬意が篭ってるんだか篭っていないんだか舌ったらずに。
「Ha、独眼竜が形無しだぜ…」
あの純粋な目に吸い込まれるまま、あの愛らしい笑みに癒されるまま、思わず触れた額は温かかった。
大きく見開かれた目に腹の奥が熱くなって今度は頬に唇を落とした。
柔らかいそこに何かが満たされた。
「政宗様?」
「小十郎か。」
「何か良い事でもおありですか。」
「く、そうだな。」
部屋の準備が出来たとやってきた小十郎に目を流し喉を鳴らす。
楽しくてしかたねぇぜ、と笑えば俺の右目は少し首を傾げた後「程々になさいませよ」と告げた。
実に俺のことを良く分かっている。
肩をすくめれば大きなため息を返されてしまったのだが。
「成実は?」
「すでに広間の方に。」
「Good.」
後は真樹緒が戻ってくるだけだ。
どんな顔を俺に見せるのか楽しみでならない。
赤い顔で可愛らしく拗ねてくれるのだろうか。
それともまた小十郎の後ろに隠れるのだろうか。
どちらにしろ俺の機嫌が良くなるだけで何も問題は無い。
「政宗様もそろそろお召し替えを。」
「ああ、」
俺の含んだ笑みにため息を吐いている小十郎には悪いが、こればかりは譲れねぇ。
手を振って自室に戻る。
さぁ、真樹緒。
早く戻って来い。
拗ねても隠れても好きにすればいいが、俺は湯から上がり温かいだろうお前を捕まえて思い切り抱きしめてやる。
手が、腕が、お前を欲している。
理由も分からず。
狂おしいほどに。
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センチメンタル政宗様。
ニル政宗様は無償の何か、を小十郎さんや周りのきのおけない方達以外から与えられるのが新鮮でちょっと戸惑っている感じ。
でもじわじわ嬉しくてどうしたらいいか分らない感じ。
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