「…この子は本当に、」





ばかですね。


どれくらいたったころやろう。
すごく、とっても長い間明智の光秀さんの目を見てた気がするけど。
波の音しか聞こえやんかったお部屋に、小さい小さい明智の光秀さんの声が聞こえた。
震えて今にも消えそうな声やったけど、それでもしっかり俺の耳に届いた。
お返事するように笑ったら明智の光秀さんは俯いてしまう。
顔を手で覆ってため息をはいて。
それから泣きそうな声で。


「…もう、好きになさってください…」


わたしはなにもいうことはありません。
しこくへでもどこへでもつれていってくださいな。
最後はちょっと子供が拗ねた様な声で。


「どうあっても母は子に勝てんな。」
「ンな事ァ、初めっから分かってたろ。」


ちかちゃんが笑う。
元就様も笑う。
むさし君は明智の光秀さんの顔を覗きこみに行って頭をがつんってやられてた。
「いてーなおかみ!かわいくねー!」なんて声が聞こえて来る。
俺も嬉しくって笑う。
笑った勢いでまぶたに溜まってたなみだがこぼれた。
ぼろぼろぼろぼろこぼれて止まらんくって、思いっきり目をこすったら手をつかまれて。



……
………



ぬ?



つかまれて?
腕を?
ぬん?
あれ?
だれに?



「(すっ)」
「え?」
「(だ め)」
「!こーちゃん!?」


上を見上げたら俺の手をつかんで首をふってるこーちゃんがおったん。
顔を覗き込んで涙のあとをなぞるこーちゃんがおったん。
あれこーちゃん!
お仕事行ってたんちがうんこーちゃん!
お久しぶりこーちゃん!
朝からお仕事に行ってたんちがうんこーちゃん!

俺の目元をゆるゆる撫でてるこーちゃんは確かこじゅさんにお仕事頼まれておつかいにいってたはずで。



「もうそんな刻限か。」
「そういやァ、日も暮れたなあ。」
「…真樹緒の迎えですか。」
「(こくり)」



「あ…」



こーちゃんが俺をだっこする。
だっこしてぎゅうってして背中をぽんぽん。
そろそろお城へ戻らなあかん時間やねんて。
おシゲちゃんはいいってゆうたんやけど、政宗様がちょっぴりお待ちかねなんやって。
お外も暗いし皆心配してくれてるんやって。


「真樹緒を取られるとでも思っているか。」
「違いねェ、」


なんならこのまま攫っていっちまうか。
俺ァ、真樹緒が惜しィぜ。


「あて馬になりたいのならどうぞ。」


真樹緒と独眼竜のゆかりを見てよくそんな事が言えたものです。
面倒事は御免ですよ。


「冗談じゃねェや。」
「がまんしろよおに。」


おれさまだってがまんしてんだからよ。


「あああン?」


てめーのどこに我慢っつー殊勝なモンがあんだ。
ちかちゃんがむさし君をこづく。
むさし君はみけんにしわを寄せてちかちゃんを睨む。
それを見た明智の光秀さんがため息をついて。
元就様は腕を組みながらちょっと楽しそうに笑ってた。




「ぬん…」



お別れなんやな、って思う。
これで最後なんて絶対にしたくないけど、お別れなんやなって思う。
でも俺が思ってたよりも寂しいもんやなくってね。
苦しいもんでもなくってね。
富嶽にきて、お話し始めた時よりも俺の胸は落ち着いててね。
ちかちゃんに会えてよかったなって。
元就様に会えてよかったなって。
むさし君に会えてよかったなって。
明智の光秀さんに会えてよかったなって。
俺は幸せやなって思うん。


「こーちゃん…」
「(…、)」
「おれねえ、さみしいけどさみしくないん。」
「(…)」
「しあわせ。」
「(なでなで)」
「ぬん…」


こーちゃんが頭を撫でてくれた。
おっきい手で優しく撫でてくれた。

だいじょうぶですか。
へいきですか。
もうすこしならじかんがあります。

こーちゃんの優しい気持ちが伝わって来る。
それに大丈夫やでってお返事して。



「明智の光秀さん、ちかちゃん、元就様、むさし君!」



呼んだら皆ふりかえってくれる。
に、って笑ったら同じ様に笑ってくれた。
笑ってさよならするん。
ちゃんとばいばいってゆうん。
また会おうねって約束して、約束通り絶対にまた会うん。
ぬん、って息を吸い込んで。



「ありがとう!」



俺といっしょにおってくれてありがとう。
いつも俺を守ってくれてありがとう。
俺のわがまま聞いてくれてありがとう。
いっぱいいっぱいありがとう。
それから。
それから。



「っさよなら…!」



喉の奥から込み上げてくるものをのみこんだ。
やっぱり目の奥が熱くなったけど我慢した。
笑って笑ってめいっぱい笑って。



「これで最後じゃねぇよ。」


必ず会える。
達者でいろよ。


「ありがとうちかちゃん。」
「息災でな。」


四国なぞ忍を使えばすぐよ。
文を寄越せば迎えにやろう。
煩い輩は放っておけば良い。


「ありがとう元就様。」
「真樹緒、おれさまがいねーんだからあんまりむちゃすんじゃねーぞ。」


おしのびはたよんねーかんな。
ひとりでうごくんじゃねーぞ。
へんなやつにあったらすぐにげろよ。


(しゅっ!)
カキン!


「、ありがとうむさし君。」
「真樹緒。」
「明智の光秀さん…」
「あなたは本当に手のかかる子でしたよ。」
「ぬん…」
「…手のかかる、私の大事なかけがえの無い子です。」


お元気で真樹緒。
わたしがあなたを忘れる事は無いでしょう。
いつだってあなたを思っている。


「…ありがとう明智の光秀さん。」


おれかって絶対に忘れたりしいひんよ。
俺の近江のお母さんやもん。
ほっぺたを冷たい指でなぞられる。
いつも俺の頭を撫でてくれた指は、ゆっくり顔を確かめるようにふれて離れて行った。
それを合図にこーちゃんが窓辺に立って。




ばいばいちかちゃん。
ばいばい元就様。
ばいばいむさし君。
ばいばい、明智の光秀さん。




「ばいばい!ほんまにほんまにありがとう!」




思いっきり手を振った瞬間、黒い羽に包まれた。
目の前が真っ暗になるぐらいの羽に包まれた。
体がふわって浮いて、こーちゃんの腕に引き寄せられる。
笑ってるちかちゃんが見えて、笑ってる元就様も見えて、笑ってる明智の光秀さんも見えて、手を振ってるむさし君が見えた。
我慢してた涙がぼろぼろあふれるのはもうしかたがなくってこーちゃんにしがみつく。
波の音も海の匂いもしやんようになって。
ますます涙があふれて来て最後に。




ドッカァァァァァン!!!




「っ…!?」




富嶽から打ちあがった花火みたいな大砲に、とうとう俺は声をあげてないた。






「うわああああん!」
「あらあら大層なお帰りだねえ。」

ほら目をこするんじゃないよ。
赤くなるでしょう。
洗ってあげるからこっちにおいで。

「そら真樹緒、お前の好きなかすてらがあるぜ。」

口を開けろ。
甘いだろう?
俺が作ったからな。
愛がこれでもかと入ってるぜ。

「葛湯だ。」

飲んでみろ。
体が温まる。
手足をこんなに冷やしやがって。
政宗様のかすてらを食ったらすぐに湯殿に行って来い。

「今日は綱元と入りましょうか。」

久しぶりに真樹緒殿とお話しとうございます。
小十郎の畑で柚が実りましたので、本日はゆず湯ですよ。


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という事で間章が終わりました長かった…!
とっても長いお付き合いありがとうございましもたもたしてすみませんぐすんー!

なんていうかおかみがぐずっておかみをなだめる回でしたね…!
明智の光秀さんはもう本当にふんわりフェードアウトする気満々だったのですが、四国家族がゆるしません。
無理強いはしないけれど、空気感でもって明智さんを繋ぎとめます。
きっとむさし君はふらっと出て行くおかみの後を一緒についていって、手を引いて返ってくるんだと思います。

「おれさまはらへった。かえるぞおかみ。」

そんな事言いながら毎回つきあってくれるむさしくんです。
わたしむさしくん好きすぎですね…!

元親さんや元就様にいたってはあんまり書くことがないんですけれど、キネマ主のお願いならおかみの面倒は見てやるつもりでいます。
別に頼まれなくても明智さんの事どうにかしようと思っていたので大丈夫なのですが。

最後、奥州家族はキネマ主が泣いて帰ってくるのは分っていたので、温かさと愛でもって出迎えます。
今夜はとっても甘やかしてくれるのではないでしょうか!


さて、これから暫くは四国組はお休みです。
次回から五章に入り、豊臣さん慶次君編になります。
ストーリーは決まっているので多分今よりはお待たせすることが無いかと思いまする。
どうぞこちらも最後までお付き合い下さればと思います。

この度は長い長い間章、最後までお付き合い下さって本当にありがとうございました!

  

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