明智の光秀さんにくっついたままぐるっと背中を振りかえる。
俺の後ろには頭の後ろに腕を組んであぐらをかいてるむさし君が。
一緒にぷんすこ怒るはずが、静かに俺らを見守ってくれてたむさし君が。


「真樹緒、おかみがしんぱいか。」
「ぬん。」
「あんしんしろ、おれさまがおかみのめんどーみてやる。」


おかみはあぶなっかしーかんな。
ひとりだとなにするかわかんねー。
おれさまがおかみといっしょにいてやっからしんぱいすんな。




……
………




は?
ぬ?
「あ、でもおかみおめーさくせんもねーのになぐりこみってのはよくねーぞ。」


まずはおにんとこにかえってからさくせんかいぎだな。
どーせおにのふねにのったまんまじゃまおーのおっさんとこにいけねーんだしよ。
ひとりでこのままばっくれるつもりだったかしらねーけどよ、おれさまがゆるさねーからな。




……
………




小僧が正論を言うておるわ…
あいつ考えてねェ様で考えてたんだな。
え?どういう事?


明智の光秀さんの腕の中で首をかしげる。
首をかしげて何だか自信満々のむさし君を見た。
あんしんしろよ真樹緒!なんて笑うむさし君やけど、俺は何が何だかわからんくって。
腕を組んでる元就様を見て、けらけら笑ってるちかちゃんを見て、ぴくりとも動かん明智の光秀さんを見上げる。
あっけに取られた顔でむさし君を見てる明智の光秀さんは黙ったまんまやったけど、手がちょっとふるえてて。
俺の背中にある手がふるえてて。
だいじょうぶ?って明智の光秀さんにしがみついた。


「むさし君が明智の光秀さんとおってくれるん?」
「おう。」
「明智の光秀さん一人やないん?」
「おう。」
「元就様やちかちゃんもいっしょ?」
「さんでーはわかんねーけどな。」


おにはだいじょーぶだろ。
あれでもかいぞくだかんな。
へんないんねんつけられてもきにしねーよ。


「でも…」
「真樹緒。」
「ぬん…」
「おれさまをしんじろ。」


むさし君が俺の頭をぐしゃぐしゃにまぜる。
笑いながららんぼうにまぜる。
首が取れる!って言ってもお構いなしに。


「真樹緒のそばにもいてやりてーけどよ。」
「むさし君…」
「おかみはほっといたらどっかいっちまいそーだからな。」


おめーはそれがやなんだろ。
おかみはおれさまにまかせとけ。
ちゃんとめんどーみてやるからよ!


むさし君のおでこと俺のおでこがこつん。
得意気に笑うむさし君がとっても頼もしくてしょんもりしてた気持ちが吹き飛んでしまう。
ぎゅうって潰されそうやった胸がほかほかあったかい。
じわじわほっぺたも熱くなって、嬉しくって口元がゆるんだ。

むさし君が明智の光秀さんのそばにおってくれるんやって。
一緒におってくれるんやって。
明智の光秀さんが無茶せえへんかちゃんと見ててくれるんやって。


「…勝手な…」
「あん?」
「…勝手な事を言わないで下さい…」


大きなお世話ですよ。
本当に大きなお世話です迷惑です。
私には本懐があると言ったはずですよ。
そのための拠り所などいらない。
甘えなどいらない。
安息する場所などあってはならない。
私は一人で、


「うるせーおかみ。」
「…坊や。」
「おれさまがきめたんだ。」


おかみのもんくなんざきかねー。
おれさまのきめたことはおれさまにぜったいだ。


じっとむさし君が明智の光秀さんを見る。
明智の光秀さんもむさし君を見る。
まっすぐな目と目はどっちも真剣で、俺は声もかけられへんくって息をつめた。


「くっくっく、」
「…ちかちゃん…?」
「そろそろ観念したらどうだア、明智よう。」


しん、って静かなお部屋にちかちゃんの声がひびく。
目だけでちかちゃんを追い掛けた。
もう外は夕暮れから夕闇にかわって、お船の中もほのぐらい。
行灯の火がゆらゆら揺れる。
かげってお顔が半分しか見れやんかったけど、口元が笑ってた。


「お前と坊主二人ぐれェ増えた所で、四国は屁でもねェぜ。」
「ふん、冷やかしにぐらいは行ってやろう。」
「鬼…毛利…あなた方まで何を…」


明智の光秀さんが一人ぼっちやない。
そこの事が嬉しくって俺は胸がどきどきする。
あったかいまんまどきどきして爆発してしまいそうになる。
ちかちゃんも、元就様も、むさし君も、明智の光秀さんを大事にしてくれてて泣きそうになる。

嬉しい。
嬉しい嬉しい嬉しい!


「明智の光秀さん!」
「…真樹緒…」
「ぬん!」


俺ね、決めた。
もう決めた。
明智の光秀さんの事はね、むさし君とちかちゃんと元就様にお願いすることにする。
お任せすることにする。
俺の大事なお母さん、ちゃんと大事にしてくれる人にお願いしたいもん。
明智の光秀さんを一人にせんと、一緒におってくれて、ちゃんと明智の光秀さんを死神さんから明智の光秀さんに戻してくれる人にお願いしたいもん。


「むさし君!ちかちゃん!元就様!」
「あん?」
「どうした。」
「何ぞ。」


あのね。
あのね。
俺のお願い。
ばいばいの前の最後のお願い。


「明智の光秀さんをよろしくお願いします!」
「っ、真樹緒!?」


明智の光秀さんがびっくりして俺の顔を覗きこむ。
それに笑って、明智の光秀さんをぎゅってして、俺もう決めたんってやっぱり笑って。


「明智の光秀さんを一人ぼっちにしやんとってね。」
「おう。」
「もし死神さんになってたらちゃんと明智の光秀さんに戻してね。」
「そなたの名を出せば一発よ。」
「明智の光秀さんが逃げようとして暴れたらちゃんと捕まえてね。」
「腕が鳴らァな。」
「ぬん!」


明智の光秀さんの腕から抜け出してぺっこり頭を下げる。
両手を足にくっつけて起立。
腰を九十度に曲げてね、ちゃんとおじぎ。
こういうんはマナーやから。
だいじなことやから。


「真樹緒、待ちなさいあなた何を言って」
「明智の光秀さん。」


あのね聞いて明智の光秀さん。
俺ね、明智の光秀さんの事がとっても大事なん。
これはどうしても譲れやんの。
すっごいわがままな事ゆうてるん分かってるよ。
でもやっぱり、俺むり。
このまま明智の光秀さんを見送ってしまうんは無理やもん。
明智の光秀さんが俺と約束してくれへんのやったら、むさし君やちかちゃんや元就様にお願いする。


「俺決めたん。」


明智の光秀さんが何ゆってもきかんからね!
じって明智の光秀さんの目を見る。
すこしもずれやんようにそらさんように。
静かな部屋で、ちょっとぴりっとした緊張感の中で。
俺にもゆずれやんもんもあるんよって精一杯明智の光秀さんに伝わるように。


  

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