「……で?」
「、何です。」
「長曾我部と毛利が手を組んだんだって?」
「ええ。」
「、まさか。」
「ねえ、私もまさかと思いましたが。」


信長公の天下布武が勢いを増し、その手がいつ南下してくるか分からない今、一時とはいえ手を結ぶ事を最善としたのでしょう。
幸い毛利は天下に無欲で、鬼はあの通り鬼なものですから利害が一致したのですよ。
お互いに無駄な干渉はしない。
これだけ聞けば和平とは名ばかりのどんな緊迫状態かと思うようなものですが、意外とうまくいっている様で。
非常の際には互いに文句を言いながらも互いに手を貸すのでしょう。


「…へえ…?」
「納得がいきませんか。」
「長曾我部と毛利に興味は無いけれど、」


それを語るアンタに興味は湧いたかな。
少し。
言えば明智光秀が目を少し見開いた。


「本当に近江のお母さんになったんだね、アンタ。」


ていうか四国のお母さんだよね。
西海の鬼を尻に敷いてあの手のかかる坊やをうまくあしらって。
たまに遊びに来る毛利の相手もしてるんでしょ。
更には真樹緒まで。


「四国のお母さん。」


本当、ご立派。


「喧嘩を売っているんですか。」


買いますよ。


「高いよ。」
「望む所です。」


くっくっくと笑えば四国のお母さんは音が聞こえる程の盛大なため息を吐いてくれた。
苦虫を噛み潰した様な顔で俺から視線を逸らす。
どうしたん明智の光秀さん、なんて不思議そうに見上げる真樹緒を煙に巻くその様子にも笑いが込み上げるからたまらない。

本当、清々するよ。
さっきはよくも俺をあんな目で見てくれたね。


「真樹緒が毛利や長曾我部を引き連れて帰って来たのには何か理由があるの?」
「いいえ、あれは各々の意思ですよ。」


伊達が奥州へ戻るという知らせは得ていました。
そして豊臣が不穏な動きをしているという知らせも。
そんな知らせを受けてた上で、鬼も毛利も真樹緒を奥州へ送り届けて下さいました。
足が無かった私達は鬼の船に頼る他ありませんでしたから。


「ひとえに真樹緒の人徳ですよ。」


明智光秀が真樹緒の頭を撫でた。
「なに?」なんて言いながら真樹緒が首を傾げる。
団子を食べ終わって、梵達の方を向いていた大きな目が明智光秀を映して。


「明智の光秀さん?」
「あなたには誰だって敵いませんよねえ。」
「ぬ?」


それを見た明智光秀がとんでもなく柔らかく笑うものだから、俺は思わず目を見開いてしまう。
そんな顔も出来るのか。
死神の癖に。
嫌味の一つでも言ってやろうと思ったけれどそんな雰囲気では無くて。


「…アンタがまんまと絆された口だろう。」
「奥州の母上は何でもお見通しですね。」


ああやだやだ。
明智光秀なんて大嫌いなのに。


「ねえ、真樹緒。」
「なあにおシゲちゃん。」
「真樹緒は近江のお母さんの事どう思ってるの。」
「ぬ?」


どうしたん?
急に。


「うん?ちょっと気になって。」


聞かなくても分かるけど気になって。
それを聞いた時明智の光秀さんがどんな顔をするか気になって。


「ぬん!俺、明智の光秀さんの事大好きやで!」


聞けば真樹緒が満面の笑みで言った。
明智光秀を見て、俺を見て、もう一度明智光秀を見て。
それからこれでもかというくらいの、おひさまみたいな顔をして笑った。
あのね、明智の光秀さんは近江のお母さんでとってもこわい時もあるけど、いつもはとっても優しいんやで!
なんて思ってた通りの答えに頬が緩む。
ちらりと明智光秀に目をやれば眉間に皺を寄せてばつが悪そうに「成実殿」と。


「俺、アンタの事は大嫌いだけどさ。」
「存じております。」
「近江のお母さんはそんなに嫌いじゃないよ。」


いいんじゃない、近江のお母さん。
やっぱり俺は四国のお母さんの方がお似合いだと思うけれど。


「…ご冗談を。」
「ふふふ、満更でも無い癖に。」


額に手を当てる明智光秀に笑いながら、自分の分の団子を食む。
餡が口の中でとろけてとても甘い。
真樹緒向けに作った少し甘過ぎる団子は、俺には一つで十分だ。
甘い甘いそれに何だか頭まで甘くなってしまう。


「おシゲちゃん?」
「ほら、真樹緒。」


うるさいのが来るよ。
真樹緒がとんでもない事を大声で叫ぶものだから。
木刀放り出してこっちにきちゃったじゃない。


「へ?」
「Hey真樹緒!聞き捨てならねぇなァ?」
「政宗様!」
「オメーは相変わらずかーちゃんが好きだな。」
「ちかちゃん!」


木刀を持った長曾我部と、にやりと嫌な顔で笑う梵が真樹緒を囲む。
驚く真樹緒を他所に二人は真樹緒を挟んで楽しげに。


ぐしゃぐしゃと真樹緒の髪をまぜる梵は意外にも明智光秀に寛容だった。
真樹緒が帰って来て、無事にその手に抱いて、この後どんな顔して明智光秀に襲い掛かるのかと思っていた俺は拍子抜けで。
「お前と一緒にするんじゃねぇよ」なんて台詞まで頂いてしまって腑に落ちない。

文句を言うつもりは無い。
異を唱えるつもりも無い。
梵が明智光秀を奥州の地に受け入れたその事実が全てだ。
そしてその事実を良しとしている自分がいる。


「よう明智光秀。」


こっちへ来て俺と手合わせしねェか。
西海相手だと全く手応えが無くてよ。


「あああァン!?」


何言ってやがる独眼竜よう!
俺についてこれーねーでへばってたのはどこのどいつだ。
もっと体力つけた方がいいんじゃねェかい。


「Ah?やんのかコラ。」
「あァ?受けて立ってやるっつってんだろコラ。」
「……二人纏めてお相手しますよ。」
「あら、やるの。」
「…ここにいては蛇が藪から出そうですので。」


じとりと流された目に気付かないふりを。
明智光秀が短い髪をなびかせて立ちあがる。
わざわざ睨み合っていた梵と長曾我部の間を通って庭に降りた。


「毛利、お暇でしょう。」


持て余している様でしたら私と共に独眼竜と鬼で遊びませんか。


「ふん。」


良いだろう。
暑苦しい試合に苛々としていたところよ。
薄く笑う毛利が青石から降りる。
あの毛利が、なんて驚きもしない俺はやっぱり感化されてしまったのだろうか。


「Ha…」
「、梵…」


こっちへ来た目的は真樹緒に構う事だっただろうに、梵はそんな明智光秀と毛利に目を光らせて。


「今度は政宗様とちかちゃん対、明智の光秀さんと元就様?」
「見てろよ真樹緒、この俺が死神と智将を地に這い蹲らせてやる。」


いくぜ西海。
足引っ張るんじゃねぇぞ。


「勝手に決めるんじゃねぇよ。」


そりゃァこっちの科白だ。
途中でバテやがったりしたら分かってんだろうなア。



Ah?
あア?



あ、勝負が見えた。
最後の団子を飲み込んでそんな事を思う。


「おシゲちゃん!どっちが勝つと思う?」
「うーん、毛利と明智の光秀さんじゃない?」
「えー、いがいー。」


おシゲちゃんは政宗様ってゆうとおもってたー。


足を庭に投げ出したまま寝転がる。
寝転がったまま目をつむってそんな真樹緒の声を聞いていた。


そうだねえ。
俺もここが戦場ならそう思ったと思うよ。
でもここは戦場でなく城の庭で。
とんでもなく平和な昼下がりの城の庭で。
武器は木刀、二対二の手合わせで。
それなら頭の良い方が勝つに決まってるでしょうよ。
きっと梵と西海は明智の光秀さんと毛利には敵わないよ。
あの二人は頭がいいから。


「おシゲちゃん、寝るん?」
「うん。終わったら結果教えてね。」


えー、一緒に見ようやあ。
おシゲちゃーん。


ころころとした真樹緒の声が耳を転がる。
心地がいい。
穏やかですぐにでも眠ってしまいそうだ。




「おシゲちゃん?」




ほんまに寝たん?
おシゲちゃん?




「ん…」




風が前髪を揺らした。
喧騒が遠くなる。
とろける意識の中、「おやすみおシゲちゃん」と、俺の大好きな声が聞こえた様な気がして口元が緩んだ。


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という事で何でもない日常回と説明回でございました…!
明智の光秀さんと成実さんがメインでしたが、この二人はお母さんとしてなら意外にお話が合いそうです。
お母さんとしての明智さんの腹の内を知った成実さんはそんなに明智さんを嫌わなくなったらいいなあと思いました…!
ああでも仲良くはなれない多分。
お母さんで手を組んだらちょう怖そうだけれども仲良くはならない多分。

最後の手合わせの結果は想像にお任せしますが、多分明智の光秀さんと元就様が勝ったかと思います。
どちらも攻撃型の政宗様達は個々の力は明智さん達よりも強いんだけれど案の定足を引っ張りあって撃沈です。

そしてこんな騒ぎがあったらすぐさま出てきそうな武蔵君ですが、出すタイミングが無かったとかそんなまさか。
小太郎さんは多分お仕事で屋根裏か越後に駆けております。
武蔵君は寝ているという事でひとつお願いしますあと付け…!


次回は明智の光秀さんの今後とかをお話して、間章をシメたいと思いますいい加減五章いきます五章。
慶次君とひでよしと半兵衛君が待っておりますのでまいていきます。

ではでは!
最後までご覧下さってありがとうございました!
お久しぶりの更新で本当に申し訳ないです…!

  

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