元就様のお船にこーちゃんと乗り込んですぐに、鬼さんの姿が見えた。
お船が集まってる所に立ってこっちに手を振ってる鬼さんの姿が見えた。
優しく笑いながら俺の名前を呼ぶ鬼さんの姿が見えた。
声は聞こえへんかったけど、きっと「真樹緒殿!」って俺を呼んでくれてるんやと思う。
俺はもう嬉しくて。
嬉しくて嬉しくて。
こーちゃんが危ないよってゆうのも聞かんとお船から乗り出して手を振り返した。
鬼さんはちゃんとこっちに気ついてくれて、始めよりもっとたくさん手をふってくれたんやで。
テンションあがったりの真樹緒です!
こんにちは!
やあやあまだ朝やからおはようございます?
ぬん、おはようございます…!
「鬼さん…!」
「よくご無事で…!」
あとちょっとで船が止まるってゆうところで我慢ができずに俺は鬼さんにとびついた。
滑って転げそうになったけど鬼さんとこーちゃんが支えてくれて俺はちゃんと鬼さんに受け止められる。
鼻が鬼さんのお腹にあたって痛い。
ぎゅうぎゅう抱きしめてくれる鬼さんの腕が痛い。
耳元で聞こえる震えた鬼さんの声が痛い。
「お怪我は。」
「どっこも、なんにも。」
「腹を斬られたとか。」
「もうへいき。」
「…長い間、どこへ行っておられました。」
「ぬん、」
あのねあのね。
あのね鬼さん。
俺とっても遠い所まで行ってきたん。
始めは甲斐だけのつもりやったけどね、色んな事が起こって甲斐だけやなくなってね。
近江やろう、それから四国へ行って、薩摩のお国にも行ったよ。
ザビーさんっていう人の所も行ったし安芸でね、厳島神社も見て来たん。
たくさんたくさん冒険してきたんやで。
「それは、大層な旅でございましたな。」
「皆に助けてもらったん。」
「真樹緒殿の人徳でございましょう。」
よく奥州にお戻りになられました。
そう言って鬼さんがさっきよりももっと強く俺を抱きしめてくれる。
すきまがなくなるぐらいに抱きしめてくれる。
俺も鬼さんの広い背中に手を回してぎゅうぎゅうぎゅう。
ただいま鬼さんってぎゅうぎゅうぎゅう。
「まさか海から戻られるとは。」
この綱元も想像しておりませんでした。
「びっくりした?」
「ええとても。」
「あのお船、富嶽ってゆうん。」
そんでもってここまで乗せてきてくれたんは元就様、ぬん、毛利元就様のお船なんやで。
鬼さんとおでことおでこを合わせて笑う。
鬼さんのおっきな手が俺の頭を撫でてくれた。
ちょっぴり目を細めてぽんぽんぽん。
ちょっぴり苦しそうにぽんぽんぽん。
その後目を閉じてぽんぽんぽん。
「…鬼さん?」
「本当によくご無事で…」
「あ…」
鬼さんが泣いてしまう、って思わず手が伸びた。
ちょっとだけ痩せてもうた鬼さんのほっぺたをそうっと撫でる。
ずっとずっと奥州で待っててくれた鬼さん。
やっと戻って来た俺を受け止めてくれた鬼さん。
そんな鬼さんへのありがとうとごめんなさいが喉につまる。
俺が何も言えやんでおったら、鬼さんが笑ってまた俺を抱きしめてくれた。
あったかい。
「くく…あんまり甘やかすと益々甘ったれになるぜ、綱元。」
「殿、」
「政宗様!」
俺が鬼さんの腕の中でもぞもぞしてたら、いつの間に上陸してたんか政宗様とこじゅさんが笑いながら俺らの後ろにおったん。
片手を上げて楽しそうにこっちに近づいて来て、政宗様が俺の頭をぐしゃり。
俺は鬼さんにぎゅうってされてたから逃げるのも出来やんくってそのままお鼻を鬼さんの胸にべしゃり。
もう!政宗様!って顔をあげたら「そうでした真樹緒殿」って鬼さんがその上げた俺の顔を掴んだ。
「ぬん?」
鬼さんと目が合って目をぱちぱち。
どうしたん鬼さんって首をかしげたら眉をきりっと上げた鬼さんがしゃがむ。
「真樹緒殿。」
「はい?」
「綱元は怒っておりますよ。」
「ぬんっ…!」
「城を勝手に出られて。」
俺と目線を合わせた鬼さんがとっても真剣な顔で俺を見た。
大きな鬼さんの手が俺の手をしっかりつかんで俺を見た。
「生きた心地がしませんでした。」
「あ…」
俺が奥州を出てからとっても心配してくれてたんやって。
鬼さんはもちろんやけど、お城の女中さんや兵士の兄やらもずっとずーっと俺の事を心配してくれてたんやって。
政宗様やこじゅさんが帰ってくるんとおんなじ様に、俺がいつ帰って来てもいいように待っててくれてるんやって。
女中さんは俺の好きなおやつを作ってくれてて、兵士の兄やんはお城が静かすぎてそわそわしてるんやって。
厩のお馬も寂しがってるよって鬼さんが言う。
城に着いたら覚悟なさいませって鬼さんが言う。
「鬼さん…」
鬼さんが握ってくれた手を強く握り返してごめんね、って呟いた。
心配かけてごめんね。
帰って来るのが遅くなってごめんね。
たくさんたくさんごめんね。
それから、ありがとう。
大きい声で言いたかったけど、やっぱり喉の奥がつまってしまったから小さい声で。
鬼さんに聞こえる様に耳元で。
「真樹緒殿。」
「はい…」
「…真樹緒殿!」
「っはい…!」
「どれ程この綱元に心配をかけたかお分かりですか!」
そしたら鬼さんは目をつむってめいっぱい息を吸ってそれから吐いて、大きな声で俺の名前を呼んだ。
つむってた目はこれでもかってぐらい開かれて、見た事も無い鬼さんに俺はびっくりして背筋がぴん!
肩がびくん!って揺れて指先から足の先までまっすぐに伸びた。
鬼さんを見たら鬼さんがげんこつ作って俺を見下ろしてるん。
思わず目をぎゅって閉じて手もぎゅって閉じて唇をかんで。
「反省なさいませ。」
「ごめんなさい鬼さん…!」
もうすぐ来るげんこつに覚悟を決めてたら
決めてたら。
……
………
ぽふん。
……
………
「ぬ?」
あれ?
……あれ?
頭…いた、無い…?
ぬん…ぬん…え、ぽふん?
鬼さんのこぶしが下ろされた所をそおっとさすってみる。
痛く無いん。
あれ、ほんならもしかしたらこの状態からの頭わしづかみの刑とか…?
そう思ってしばらく動かんとおったんやけど鬼さんのこぶしはいつの間にか頭を離れて、ぽふんってされたところを優しく撫でてくれてるん。
もちろん痛く無いん。
どっこもどっこも痛く無いん。
どっこも痛く無くて、ぬん、どうしよう逆にこわい…!
「真樹緒殿、」
「は…はい…!」
「綱元の怒りを分かって頂けましたか。」
……
………
「ぬーん…!」
ええええええ。
ええええええええええ…!
どこらへんで…!
やあ、ぬん、鬼さんがとっても心配してくれたんやなってゆうは俺ほんまこれでもかと分かったんやけど。
胸が苦しくなるぐらい分かったんやけど。
鬼さんの気持ちいっぱいもらったんやけど。
ぬん、けど。
「鬼さんの怒りどころどこらへんで…!」
……
………
「Oh…俺より強者がいたぜ。」
「何言ってんの予想通りだよ。」
鬼庭殿はどうあっても梵たいぷだよ。
真樹緒をこれでもかと甘やかしてくれる困ったたいぷだよ。
ほら真樹緒こっちおいで。
驚いてるのは梵もだからこっちおいで。
そんなとこで一人ぬんぬんしてないでいいから。
気持ちは分かるけどそこは小十郎が何とかしてくれるから。
「ぬ?こじゅさん?」
「そう、」
「ぬん…」
おシゲちゃんがす、ってこじゅさんを指差した。
さっきまで政宗様の後にいてたはずのこじゅさんは政宗様の後にはおらんくっていつの間にやら鬼さんの前に。
刀を持って鬼さんの前に。
ぬん…
かたな…?
「ってめェ綱元ふざけてんじゃねええええ!」
何だ今のは俺に喧嘩売ってんのか買ってやるそこへなおりやがれ…!
「何を言うか小十郎。」
俺はこんなにも怒り心頭だというのに。
心外な。
ああだが少し怒りすぎてしまっただろうか。
真樹緒殿の頭を叩いてしまった。
……
………
「えっ、俺叩かれたん…!?」
どこらへんを…!
まさかあのぽふんってやつやろうか痛くもなんともなかったんやけどこうかおんぽふんやったし…!
その後普通に撫でられてしまったし!
「(なでなで)」
「ぬん、ありがとうこーちゃん。」
全然いたくないから大丈夫よー。
でもありがとー。
鬼さんはあれよね、一番俺を甘やかしてくれるよね。
「(?)」
「そりゃあ政宗様もおシゲちゃんもこじゅさんも、もちろんこーちゃんも俺に優しいけど!」
ほら、怒られる時はちょう怖いからね。
政宗様は別にして!
ぬん。
政宗様はいつでも俺にあまあまやから!
「…綱元、」
「何だ小十郎。」
「本気か。」
「俺が本気でない事などあったか。」
お前こそ俺に喧嘩を売っているのか。
真樹緒殿のあの頭の瘤は何だ。
どうせお前がやったのだろう。
……
………
「ふ、てめェとは真樹緒の教育について一から話し合わなきゃならねェみてえだな綱元。」
大体真樹緒を甘やかすのは政宗様だけで十分だ。
てめぇみたいな野郎がいると真樹緒のこれからの育成に差し障る。
危機感すら自分で計れねぇまま放っといたらこの群雄割拠の戦国の世で、危なっかしくてしょうがねえ。
諌める時は甘い事言ってる場合じゃねェんだよ。
「受けて立ってやろう小十郎。」
お前に文句を言われる謂れは無い。
殿を見てみろ。
お前が育てたばっかりにあの様になられて。
いや、我らの殿に限って僅かな遜色もあるはずのないどこに出しても恥ずかしくない殿だが、如何せんやんちゃが過ぎる。
あの頃の可愛らしい殿はどこに行ってしまわれたのか。
真樹緒殿にはこのまま無垢に健やかに穏やかに育って頂かねば。
粗野な説教など言語道断。
「は、てめェとは本当に常々了見が合わねぇな。」
「どちらが正しいかは火を見るより明らかだがな。」
……
………
ドオオオオオン…!
「えええええええー!!」
何…!
何なん何で鬼さんとこじゅさん刀持って暴れてるんおシゲちゃん!政宗様!ちょっと見てぇやあれどういう事俺ついていけやんのやけど…!
こじゅさんの刀から青白いのん出てたり鬼さんの刀が黒光りしてたりするんやけど…!
何で感動の再会でこじゅさんと鬼さんの本気ばとる…!
しかも原因なんか俺っぽいなんで…!
「大体てめェはいつもいつも真樹緒を甘やかしやがってあいつのためにならねェと何度言ったら聞きわけやがる…!」
ドッカアアアン!
「自分が出来ないから妬けているのか。」
真樹緒殿は言葉にせずとも分かっておられる。
それを追い内をかけるように拳骨を落すなど。
お前の手の速さには恐れ入る。
ドオオオオン!
「ぬーん…!」
待って!
二人とも待ってちょっと止めて…!
それ絶対危ない刀から火花散ってるんやけど…!
二人を止めてもらおうと思って政宗様とおシゲちゃんの方を向いても、危ないから下がってなさいって素敵に笑顔でスルーされて。
ほんならこーちゃん!って見上げて見ても首をふるふるふられてしまって。
せっかく奥州に着いたのに何だかしゅらばです俺と鬼さんの感動の再会やったのにちょうせちがらいです真樹緒です誰かたすけて…!
「…奥州は毎日が楽しそうで結構ですねえ。」
羨ましい限りです。
「お前明智、思ってもねェ事言ってんなよ。」
「興味の欠片も感じられぬわ。」
「おかみがきょーみあんのは真樹緒だけだかんな。」
「おや、坊や。」
可愛い事を言ってくれますね。
「あん?ほんとのことだろ。」
「ふふ…今はそうでもありませんよ。」
……
………
「ぬーん!明智の光秀さんもちかちゃんも元就様もむさし君も、そんな遠い所で見てたらいや…!」
そのきょりかんいや…!
こっちきて一緒に俺とせちがらくなってお願い…!
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鬼さんと再会しましたー!
再会っていう程再会してないのですけれども…!
小十郎さんと鬼さんは仲が悪い訳ではないのですけれども、ほら義兄弟?だったりするので遠慮が無いと申しますか。
鬼さんも小十郎さんには敬語ではなくなります。
今後多分決着がつく前にキネマ主が止めに入ると思いますが、まさか教育方針うんぬんだけで一話分いくとかね!まさかね!私も思ってませんでしたよね…!
鬼さんが昔の政宗様の事をちょっとしゃべっていますが、別に殿をばかにしているとかではなく、元気に育ってくれたのはとってもうれしいけれど、まさか刀六本も持つような武将になるとは思ってなかったので愚痴った感じです。
鬼さんはきっと政宗様にも甘いです。
ニル政宗様は幼少時、それはそれは小十郎さんに心も体も鍛えられたかと思います。
いたずらをする政宗様を捕まえては拳と拳の勝負ですよほら小十郎さんも若いから!
なんてキネマに何も関係の無い事すみません(汗)
次回はお城を舞台にこれからの事と今までの事を話しつつ、東西兄貴達が鍛錬しているところを書ければいいなと思います。
24の小ネタみたいな感じで平和でふわっとしてます早く五章行きたいんですけれども…!
もう少しお付き合い下さいませ。
それでは。
この度は最後までご覧下さってありがとうございました!
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