頭の上から懐かしい声がした。
顔を上げたら目の奥が熱くなった。
こじゅさん、って言おうと思ったのに声がのどの奥にひっかかって出てけえへんかった。
さっきはちゃんと言えたのに。
こじゅさんって叫んだのに。
こじゅさんの顔を見てしまうと、一番かんじんなとこやのに口がゆうことをきかへんかった。
声が出えへん分が目にきて。
ただでさえ目の奥がとっても熱かったのに更に熱くなって痛くなって。
痛くなって。
「っこじゅ」
「真樹緒。」
「こじゅさ…」
ガツンッッッ!
「ぬーん…!」
えええええええ。
えええええええ!
痛い…!
目の奥ってゆうか頭がものすごい痛い割れそう…!
とつぜん頭がちょう痛いさっきまで目の奥が痛かったのに…!
俺の頭からガツンって音したでそんな音今までだした事無い俺…!
上をむいてた頭が衝撃でそのまままっすぐ真下にしずんだ。
頭だけやなくって、体ごとしずんだ。
とつぜんの衝撃についていけやんかった俺は、頭がいたいまんま何だささっきとはまた違った涙が出そうになってきて。
右手で頭のてっぺん、左手で体を支えてうずくまる。
なんともいえやん痛さを耐えようとうずくまる。
うずくまったかって全然まったく頭のてっぺんのじんじょうやない痛さはどうにもなれへんのやけど!
ぬーん!
「い…いたい…」
じわ、って浮かんで来た涙を流れやんように我慢する。
絶対に落としたりせえへんように我慢する。
ぐっと唇をかんで震えた手をごまかした。
やって。
やって、この頭のがつんはこじゅさんからのがつんで。
こんなに頭のてっぺんが痛いのは、それだけこじゅさんが俺のこと心配してくれてたからで。
がつんってした後こじゅさんは何も言わへんけどこのがつんはそういう意味のがつんやから、俺は泣いてる場合やないん。
泣いたらあかんの。
このがつんにはこじゅさんの気持ちがいっぱいつまってて、俺の事を思ってくれてる優しい気持ちがいっぱいつまってて。
やから俺が泣くところ違うん。
「ひ、っく、」
違うのに。
我慢しやなあかんかったのに。
こじゅさんの気持ちやのに。
「ふ…っく、」
目にたまってた涙がぼろぼろ。
とまれとまれってゆうてるのにぼろぼろ。
滝みたいにぼろぼろ流れ落ちて俺の左手をぬらす。
ぎゅってその手を力一杯にぎっても、ぎゅって思いっきり目をつむっても、ぎゅって唇をかんでも、それはやっぱり止まらんくって。
くやしくって顔が上げられやんくって落ちて行く涙をじっとにらんだ。
止まって。
止まって止まって。
こんなんやったら顔上げられへん。
俺、こじゅさんのお顔みたいのに。
こじゅさんとお話したいのに。
ただいまってゆうて、おかえりってゆうてもらいたいのに。
「真樹緒。」
「っく、」
「…真樹緒。」
泣くな。
「ひーっく…」
大きな手が俺の頭をなでた。
なんども俺の頭をなでて、ゆっくり俺の顔を持ち上げる。
あったかい手につつまれたと思ったら、めじりを太い親指がなぞった。
なぞってあふれる涙をぬぐってくれた。
「痛いか。」
「ぐすっ…」
「思い切り殴ったからな。」
笑いながら、まだまだ止まらん俺のなみだをやっぱり優しい手でぬぐってくれてるのんはこじゅさんで、そんなこじゅさんにまた目の奥と胸が熱くなる。
涙が出たんはがつんが痛かったからもあるけどそれだけやないん。
殴られたからやないん。
痛いだけやないん。
痛いのはもうどっかへいってもうたん。
こじゅさんが俺に優しいから。
いっぱい心配かけていっぱい迷惑もかけていっぱい大変な事があったのに優しいから俺は、ごめんなさいとありがとうとそれからやっぱりごめんなさいとで胸が痛くなる。
涙が止まらん様になる。
「こじゅさん…」
「何て面してやがる。」
「やって。」
こじゅさんが何もゆわんからやんか。
俺が、あんな事したのに、迷惑かけたのに何もゆわんからやんか。
言いながら目の前にあるこじゅさんの首に力一杯抱きついた。
顔がぬれてたけどそんなのおかまいなしにこじゅさんへ腕を伸ばした。
そしたらこじゅさんは笑いながら俺を腕の中へ入れてくれる。
あったかくって広くってこじゅさんの匂いがした。
「こじゅさん俺のことおこらへんの。」
「…あれじゃあ足りなかったか。」
「………違うんそうやなくって。」
何か、ほら。
ぬん。
俺に、言いたい事とか。
怒る事とか。
俺、分かってるん。
今回の事で皆にいっぱい心配かけたって。
やから皆に怒られやなあかんって。
政宗様にも怒られたよ。
おシゲちゃんにも怒られた。
二人とも俺の事とっても大事に思ってくれてたん。
「こじゅさんのがつんも俺、ちゃんとしっかり、ぬん、うけとったんやけど。」
こじゅさんがどれだけ俺を心配してくれてたんか分かったんやけど。
でもそれだけやったから。
こじゅさんがそれだけで何にもゆわんから。
優しくぎゅってしてくれたから。
「俺、ちゃんとごめんなさいできたんかなって…」
「…そういやちゃんと聞いてねぇな?」
「…ぬん…」
…ごめんなさい。
ちいちゃい声でゆったらこじゅさんが笑って背中を撫でてくれた。
「よく帰った」ってぽんぽん背中を撫でてくれた。
「なあ、真樹緒。」
「…。」
「真樹緒。」
「…はい。」
「俺が何より悔んでいるのはな。」
「ぬん。」
「お前の大事に、お前の傍にいてやれなかった事だ。」
恐ろしかっただろうあの時に、傷を負ったあの時に、お前を一人きりにしちまった事だ。
「こじゅさん…」
「政宗様を差し置いて、何を言っているかと思うかもしれねぇが。」
俺はな。
お前と初めて出会った時の事を忘れた事はねえ。
こじゅさんが俺の顔を覗きこんだ。
乾いた涙のあとをそうっと撫でて張り付いてた髪の毛を耳にかけてくれる。
それからちょっと困った様に笑うこじゅさんが立ち上がって、俺の手を引っ張ってくれた。
「寒い寒い洞窟の中で、目を揺らしたお前を一度だって忘れた事はねぇ。」
そこで俺が傍にいると約束した事もだ。
「こじゅさん。」
「よく無事で戻った真樹緒。」
俺は生きた心地がしなかったぜ。
二度とはしてくれるな。
「っこじゅさん…!」
もう一回こじゅさんにだきついた。
今度は首に届かんかったからこじゅさんのたくましー胸にとびついた。
ちょっと土の匂いがしたけどそれはちゃんとこじゅさんでまた胸が熱くなる。
「心配かけてごめんなさい。」
「ああ。」
「勝手に出て行ってごめんなさい。」
「ああ。」
「それから。」
「…ああ。」
「ただいまこじゅさん…!」
俺の事を思ってくれてありがとう。
政宗様をずっとお守りしてくれてありがとう。
いっぱいいっぱいありがとう。
俺、かえってきたよ!
「随分長ェ旅だったな。」
ああ、よく帰って来た。
よく戻って来てくれた。
「ぬん、ちょう冒険してきたん。」
「聞きたい事は山ほどあるぜ。」
「それ政宗様にもおシゲちゃんにもゆわれたよ。」
とっても長くなるけど、全部聞いてくれると嬉しいわ!
こじゅさんをぎゅってしたままこじゅさんの胸に顔をすりつけた。
頭を撫でてくれるおっきな手がとっても気持ち良かった。
ずっとずっとそのままでおりたかった。
「真樹緒。」
「うん?」
「お前の忍も労ってやれ。」
政宗様にお前の存在を知らせ、その力を奮わせたのはあいつだ。
「…こーちゃん?」
笑いながら振り返るこじゅさんを追ってその背中をのぞきこむ。
やあこーちゃん?
こーちゃんもいてる?
元就様がこじゅさんと一緒に来るような事ゆうてくれてたけど、全然さっきから見当たれへんよ。
どこにもこーちゃんおらんけど、ってもう一回こじゅさんを見たらひゅるるって風が。
黒いふわふわな羽と一緒にやわらかい風が吹いた。
「(しゅた)」
「こーちゃん…!」
「もがもがもがもがもが!」
「…と、あれむさし君?」
ぬん。
あれやあむさし君。
そういえば静かやなーって思ってたんやけどむさし君、こーちゃんとおったん。
いつもやったら途中で、結構かんじんな所でむさし君がお話に飛び込んで来ちゃう感じやのに、今回最後まで静かやから俺びっくりしてたん実は。
やあこーちゃんとおったんやねえ。
ぬーん。
何でかお口ふさがれてるけど。
思いっきりこーちゃんにお口ふさがれてるけど!
「もがもがもがもが!」
「(…)」
「もがもがもがー!」
「(…ふるふる)」
「もが!もが!もが!」
「(…)」
「…ぬん、こじゅさんとのお話終わったからお口離してあげてこーちゃん。」
ありがとうこーちゃん。
むさし君を止めてくれてたんやね。
俺とこじゅさんがお話してるから。
でももう大丈夫やからむさし君を離してあげて。
なんかむさし君真っ赤になってきてるから!
「(こくり)」
こーちゃんが頷いてむさし君を押さえてた手をぱっと離した。
その瞬間むさし君がどこからともなくオールを持ち出してこじゅさんにむかって行く。
飛びかかる勢いでこじゅさんにむかって行く。
ぬん…あれ。
あれむさし君。
むさし君そのお船のオールどこから出だしたん。
けっこう前から思ってたけど、むさし君が走って行く時に何でかいつでもどこからでも出て来るそのお船のオールどこから出したん…!
「てめー!真樹緒をなぐりやがったな!」
そこへなおれ!
おれさまがあいてになってやらー!
「威勢がいいじゃねぇか坊や。」
これは俺と真樹緒の問題でな。
文句があるなら相手になってやるぜ。
かかってきな。
「おめーにぼーやなんていわれるすじあいねー!」
「えー!むさし君ちょっと待ってそっちやなくって…!」
こじゅさんもそんなノリノリで。
ノリノリで…!
そんなむさし君を乗せやんとってほしいんむさし君けっこう本気やから!
オール持ったむさし君って中々とめられやんから…!
ぬーん!
ほんまに。
こじゅさんとただいまってやって、おかえりってやって、とってもめでたしめでたしやったのに何で最後の最後にこんなじたいに…!
……
………
「…やだやだ、結局悪者はお母さんなんだから。」
お父さんってずるいよね。
本当にいいとこばっかり持って行くんだから。
「Ah?お前は真樹緒を殴れねーだろうがよ。」
「おや私は出来ますよ。」
「ちょ、あんたうちの真樹緒に何してくれてんの!?」
「ふざけた事を言った時に柄杓ですこんと。」
「お前は真樹緒に甘いのと同じくれー厳しいよな。」
「甘ったれに育てるのは本意ではないので。」
「何、その言い方だと俺が真樹緒を甘ったれに育ててるみたいじゃない。」
甘やかしてるのは梵だけだよ。
「…よく言うぜ。」
お前も大概じゃねぇか。
「溺愛も程々にせぬと真樹緒の為にならぬぞ。」
「あーん?そういうアンタも真樹緒には甘いじゃねぇか。」
最近は忍と坊主にも何かと甘いよな。
「そうですよ、私に隠れてあれらに菓子を与えるのはやめて頂きましょうか毛利。」
「………煩い母よ。」
……
………
「ぬーん!みんなそこで家族会議してやんとこっちに来てほしいんこじゅさんとむさし君が本気ばとるになりかけてるんたすけて…!」
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という事で!
やっとこただいまが終わりました再開するのにどれだけかかってるの…!
うわーんお待たせいたしました。
今回は小十郎さんとキネマ主です。
小十郎さんは言いたい事はおシゲちゃんが言ってくれたので自分は自分の領分で怒ってみた感じです。
ちゃんと怒ってるのですよ!
でもゲンコツ一発で終わり(笑)
そのゲンコツには小十郎さんの思いやなんかがいっぱい詰まっているので一発で十分なのです。
後はよく帰ったなとお帰りのハグを。
めでたしめでたしにしたかったのですが、むさし君はキネマ主が殴られて黙ってないだろうなあとぽちぽち打った結果、最後収拾つきませんでしたもうしわけありませんぐすん。
でも次回は舞台を奥州にかえて、お城でまったりしたいと思います。
元親さんや元就さんはあまり長居は出来ないのでまいていきたい気持ちでいっぱいです。
明智の光秀さんの身の振り方も決めなければいけませんしね!
お土産のくだりもやりたいですし。
(ほら切り子の。でも出来てもちょびっとだと思いますが)
もうしばらく続きます間章、お付き合い下さればと思います。
この度は最後まで読んで頂きありがとうございました!
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