おシゲちゃんが目にもとまらん速さで明智の光秀さんへ向かって行った。
刀を持って怖い位の顔で向かって行った。
「おシゲちゃん!明智の光秀さん!」
いやや待って!
おれおシゲちゃんも明智の光秀さんも怪我するんいや!
叫んだのに全然聞こえて無いおシゲちゃんは勢いを止めてくれる様子も無くて思いっきり明智の光秀さんへ飛び込んだ。
俺はもう見てられやんくって。
見てるのが怖くて。
政宗様の首にぎゅうって顔を押し付けた。
ガッ!って大きな音がする。
ズズズ!って引きずる音もする。
バキ!って何か折れた音もして。
それからしーんって色んな音が止まった。
こわい。
こわい。
明智の光秀さんはどうなったんやろう。
おシゲちゃんは何したんやろう。
何で音が全部とまったんはなんでやろう。
確かめるのが怖くて政宗様に首にしがみつく。
ほんならそんな緊張感の中、やっぱり聞きなれた声が。
「てめー、おかみにあにしてくれてやがんだ。」
けんかうってんのか。
おかみのかわりにおれさまがかってやらあ。
「おうおう、やっと起きたか小僧よう。」
あんまり目を覚まさねぇからくたばってんのかと思ったぜ。
「真樹緒のこえでおきた。」
うるせーおに。
おめーがいながらなんでおかみがおそわれてんだ。
「あァ?ちゃんと守ってやっただろうが今。」
「あにいってやがる。おれさまがこねーとせりまけてただろーが。」
たよりになんねーおにだな。
「あァん!?」
「………あなた方、一体どういうつもりですか。」
私は一言だとて加勢など求めておりませんが。
このような事をされると迷惑なんですよ。
「お前、こいつからの攻撃を受ける気満々だっただろう。」
こっちがどういうつもりですかだってんだ。
「おかみ、真樹緒をなかせるな。」
きられるならたたかってきられろ。
おれさまがかたきをとってやる。
真樹緒にもちゃんといってやる。
「一人でいいとこ持ってくんじゃねぇよ糞餓鬼。」
「たよりねーおにはだまっとけ。」
「あ゛あ゛ァンン!?」
……
………
「ぬ?」
あれ。
あれ。
あれ?
「…ちかちゃんとむさし君の声や…」
それに明智の光秀さんの声もする。
ちゃんと明智の光秀さんの声がする。
政宗様の首元から顔を上げた。
ちらっと見えたのは何だかおかしそうな政宗様の顔で、ちっちゃく政宗様って呼んだら俺を見て頭を撫でてくれる。
「お前、面白い奴等を連れて来たな。」
「え?」
「見てみろ。」
政宗様がくいっと首をお船の方へ向けた。
それを追いかけて俺もお船を見る。
甲板の手すりの上からそっと覗いて見る。
「死神が守られてやがる。」
「!ちかちゃん!むさし君!」
甲板の上にはお明智の光秀さんとおシゲちゃん。
思いっきり明智の光秀さん狙いやったおシゲちゃんの刀を槍で受け止めてるちかちゃんに、その槍を後ろからオールで支えてる寝てたはずのむさし君。
「…避けないって事は俺に斬られるつもりだったって事でいいのかな。」
俺が用のあるのは明智の光秀さんだけなんだけど。
なんなの君等。
邪魔するなら容赦しないよ。
「ふふ…あれを斬ったお詫びに一刀は正面からお受けしようと思っていたんです。」
私、あれを斬った事に後悔などないんですよ。
ほんの僅かも。
けれどその事であなた方を気に病ませた事は少し申し訳無く思っていまして。
「…この馬鹿野郎が。」
オメーが斬られたら真樹緒が泣くだろうがよ。
「まったくどーいけんだばかやろーおかみめ。」
真樹緒がそんなこといったのか。
しっかりしろおかみ。
「…お節介な方々ですねえ。」
一刀だけだと申し上げたでしょうに。
「あァ?」
「私、近江の母として奥州の母上に討たれる気は毛頭ありません。」
ふ、真樹緒から話を聞いて一度お会いしたいと思っておりました。
いい機会です。
語り合おうじゃあありませんか。
……
………
「ぬ?」
あれ?
明智の光秀さん?
ぬん?
明智の光秀さん?
あれ?
何のお話?
「言ったね?」
俺聞いたよこの耳で。
いい度胸じゃないそうこなくっちゃ面白く無い。
「で?誰が真樹緒のお母さんだって?」
何言ってくれてんの。
真樹緒のお母さんは奥州だけで事足りてるんだよ。
戯言は止めてくれない。
その喉、かっ裂くよ。
……
………
「ぬ?」
あれ?
おシゲちゃん?
あれ?
ぬん?
のりのり?
……
………
「ぬーん!政宗様どうしよう何にも解決してへんよどうしよう…!」
明智の光秀さんが鎌構えてもうたよ!
おシゲちゃんも刀構えてもうたよ!
おシゲちゃんの刀を止めてくれてたちかちゃんとむさし君がのいてもうたよ!
うわーんいしょくそくはつ再び!
何でちかちゃんとむさし君のいてもうたんそのまま二人を止めてて欲しかったな俺…!
「あん?しょーがねーだろ。」
おかみがあいてするっつってんだ。
おれさまとおにのでるまくはねー。
「ちゃんと相手すんなら大丈夫だろ、ほっといてもよ。」
「むさしくーん!ちかちゃああん!」
もーう!
そんな事ゆうて!
そんな軽い感じでゆうて!
政宗様!
早く政宗様甲板行こう!
もう俺が止めるん。
こうなったら俺が止めるん。
二人を止めて見せるから俺をあそこに下ろして!
政宗様の肩を持って政宗様をぶんぶん。
早く下りてってぶんぶん。
やって早く行かんともうすでにキンキンカンカン鎌と刀がぶつかり合う音してるし。
おシゲちゃんは奥州のお母さんどころやない目つきになってるし。
明智の光秀さん鎌振りかぶって見た事もない顔になってるし。
「あれ…ぬん、でも何でおシゲちゃんと明智の光秀さん闘ってるんやっけ政宗様。」
「Ah?どっちがお前の母親に相応しいかで揉めてんだろ?」
……
………
「えっそうやったん!?」
何それおシゲちゃんと明智の光秀さんそういうお話?
お母さん同士のお話?
でも何か全然そんな雰囲気ちがうんやけどお話とかしてるように見えやんねんけど刀と鎌のぶつかり合いなんやけど二人ともちょう怖いんやけど…!
視線を政宗様からまた甲板におる明智の光秀さんとおシゲちゃんへ戻す。
飛んだり跳ねたりしながら、そんでもって結構な死闘を繰り広げながらお船の上を飛び回ってるんやけど二人目で追いかけるんも大変なんやけど!
「真樹緒と一緒にいて何があったか知らないけど、あの子はうちの子だよ。」
風魔と纏めてうちの子だよ。
小十郎っていうお父さんもいるんだよ。
どれだけ可愛がってると思ってるの。
ぱっと出のお母さんになんかやってたまるかってんだよ!
「おやおや、奥州の母上ともあろうお方が気弱な。」
不安の表れでしょうか他愛ない。
父と言うならこちらには鬼がいるんですよ。
真樹緒と同じ様にはしゃぐのは頂けませんが、そちらの右目殿よりは甲斐性もあろうというもの。
坊やとういう兄弟が増えてすこぶる良好な家計を築けておりますが。
「わぁ殺したい。」
「何と悪いお口でいらっしゃる。」
真樹緒が真似しませんといいですね。
「っこの死神が!」
「っ、!」
「おシゲちゃん!」
おシゲちゃんが刀を明智の光秀さんに投げた。
危ない!って叫んだ時には明智の光秀さんがその刀を鎌で弾いてたけどおシゲちゃんが明智の光秀さんの背中に迫ってて。
そのままおシゲちゃんが明智の光秀さんの髪の毛を掴む。
床に刺さってたさっきの刀を取って明智の光秀さんの首へ。
俺は手が震えておシゲちゃんの名前を思いっきり叫んだ。
まっておシゲちゃん。
やめておシゲちゃん。
俺、それは、ぬん、いやや。
「おシゲちゃん!待って!」
おシゲちゃん…!
お願いまって!
「……真樹緒を泣かせるのは本意じゃないんだよね。」
「本当に甘い方々ですよ。」
「ああでも俺、まだ気が治まらないや。」
もっとぼっこぼこにしてやるつもりだったのに。
ぐっちゃぐっちゃにしてやるつもりだったのに。
「おや、怖い怖い。」
「ふん、」
まあ真樹緒がお世話になったみたいだし。
それなりにお世話かけただろうし。
ここまで連れて来て貰った訳だし。
何やら真樹緒があんたの事気に入ってるみたいだし。
「これで勘弁してあげるよ。」
「おシゲちゃん…!」
おシゲちゃんがきらっと光る刀を振りあげた。
明智の光秀さんの首から離れたそれは今度は後ろに回る。
するっと素早く通り抜けて次の瞬間には。
「ぬーん!明智の光秀さんの髪の毛が!」
素敵な銀色の髪の毛が!
俺の大好きな髪の毛が!
みつあみするんが楽しみやったつやつやロングヘアーが!
首元ですぱっと綺麗に切られてしまったんおシゲちゃん何するん…!
ショート!
明智の光秀さんがちょうショート!
首が丸見えるぐらいのショートになってもうた明智の光秀さんの髪の毛!
おシゲちゃん何で切ってもうたんひどい…!
「おや…」
「ああ、少しはすっきりしたかもね。」
似合ってるよ近江のお母さん。
「………耳ぐらいは持って行かれると思っていましたが。」
「血が出たら真樹緒が泣くでしょ。」
俺はあの子の泣き顔は見たくないの。
「ぬーん!なに二人ともそんなに落ち着いてるん俺明智の光秀さんの髪の毛が無くなっても泣くよ!」
俺の!
俺のお気に入りの髪の毛が!
素敵な明智の光秀さんの髪の毛が!
「これくらいで泣くんじゃありませんよ。」
大げさな。
「でも…でも…でも!」
「あ、ちょっと真樹緒。」
次は真樹緒の番だからね。
明智の光秀さんとの積もる話はまた後から落ち着いてするとして、真樹緒とのお話もたっぷりあるからね俺。
梵と一緒に早くこっちに下りておいで。
「え…」
「おシゲちゃんからお話沢山あるよ。」
「あ…」
「言い訳は聞いてあげるけど許さないよ。」
「ぬ、…」
「覚悟しな。」
……
………
「ぬーん…!」
明智の光秀さんとおシゲちゃんが何だかすっきりした顔で俺と政宗様を見る。
今までのそうぜつな闘いが何とも無かったふうにけろっとした顔で俺を呼ぶ。
そのおシゲちゃんがちょうぜつ笑顔で。
何だかこう、何てゆうたらいいんか分からんぐらいの素敵な笑顔で。
素敵な笑顔やのに俺の背中はとっても冷たいものが流れて寒気がします真樹緒ですどうしようぬーん…!
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やっとお母さん達のタイマンが終わりました!
その割にはあっさりしていてすみません…!
あれですね。
お母さんだと自覚している明智の光秀さんを書くのはとっても楽しかったです元親さんがお父さん認定されていますが深い意味はありませんよ…!
おシゲちゃんに言われたから対抗しただけですよ!
元親さんもお父さんっつーより兄貴じゃねえのか?なんて思ってるけれど水を差すので言いませんでした空気読んでます素敵アニキ!
やっとおシゲちゃんとも再会する事ができたので、次回はおシゲちゃんとキネマ主です。
今回、最後でおシゲちゃんがいい笑顔しておりますが、でも実は結構限界なのできっと次回は泣いてしまうんではないでしょうか。
おシゲちゃんが泣いたらキネマ主も泣くのでちょっとお船が大変な事になりますね!
明智の光秀さんは本気で切り刻まれる覚悟はあったのですが、思いの外奥州のお母さんが甘かったので拍子抜けです。
髪の毛なんてその内伸びますしね、な感じで。
衝撃だったのはキネマ主ですが、むさし君もちょっと不機嫌になっています。
ほら、おかみの髪の毛切られた訳ですし!
という事でおシゲちゃんとむさし君の折り合いは悪いです(笑)
ではでは次回は全員そろってお船で奥州へ。
小太郎さんも小十郎さんも元就様も揃います多分(たぶん!)
どうぞお付き合い下さいませ。
この度は最後までご覧下さってありがとうございました!
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