久しぶりに会った政宗様はおっきくて。
あったかくて。
しおっからくて。
ちょっと血のにおいがした。


「…政宗様、けがしてるやろう?」
「してねぇよ。」
「……うそついたら嫌やって前にもいうたよ、おれ。」


けが、してるやろう。
お顔も泥だらけやったし、傷だらけやったし、血のにおいもするん。


海にぷかぷか浮かびながら、政宗様にぎゅってしてもらいながら、とっても顔が見たいけどまだぎゅうが足りやんからやっぱり離れやんまんま、政宗様に聞いた。


「政宗様。」
「……少しな。」
「いたい?」
「…」
「政宗様、」
「少しな。」
「…後で、痛いの痛いのとんでけやね。」


前にもやったね。
おまじない。
今度も痛いの痛いのとんでけって、俺、政宗様の怪我におまじないするからね。


政宗様の首に回した腕をぎゅってする。
胸がいっぱいで、何でけがなんかしたんなんて聞けやんくってひたすらぎゅってする。
政宗様に会いたかったよって思いを込めてぎゅってする。


俺、近江に行っても四国に行っても安芸に行っても島津のじっちゃんの所へいってもザビーさんのところへ行っても政宗様の事忘れた事無かったよ。
たくさんの人と出会って、とっても大変な事もあって、とっても楽しい事もあったけど、全部政宗様と一緒やったよ。
ずっとずっと会いたかったよ。
口に出すのは何でか分からんけど、とってもすごく苦しかったからそれは俺だけの秘密やったんやけど。
お嫁さんのこーちゃんにも、近江のお母さんな明智の光秀さんにも内緒やったんやけど。
やから今初めて政宗様に言うんやけど。


「まさむねさま。」
「…真樹緒。」
「あいたかった。」


俺、まさむねさまに会いたかった。
毎日毎日会いたかった。
会ってこうやってぎゅってしてもらいたかった。


「…こっちの科白だ馬鹿野郎。」
「ごめんなさい…」
「勝手に城を出てどういうつもりだ。」
「ごめんなさい。」
「俺が、どれ程心配したと思っている。」
「ごめんなさい。」


政宗様が思いっきり俺を抱きしめてくれた。
海に沈んでしまわんように、ちゃんと政宗様と俺の体がくっつくように、すきまが全然なくなるようにぎゅっと抱きしめてくれた。
海の中で思った様に動けやんかったけど俺も一緒にくっついて。


「体は無事か。」
「ぬん。」
「腹を斬られただろう。」
「もう大丈夫。」


ちゃんとね、塞がったよ傷。
もう痛く無いし、動けるし、全然大丈夫やで。
あの時は、ほんまにあの時は、びっくりさせてごめんね。
沢山心配かけたね俺。




「真樹緒。」
「っ、政宗様、くるしい…」




政宗様の腕がもっともっと強くなって、ちょっと息が出来やんようになる。
もぞもぞ動いてみても政宗様の髪の毛をちょいっと引っ張ってみてもどうにもこうにも身動きが取れやんくってくるしい。
政宗様、って呼んでみるんやけどお返事がなくって腕の力はそのまんま。
ここ海の中やし、やあ、おぼれたりは政宗様のお陰でせえへんけど、やっぱりちょっと動けやんのは何だかそわそわするってゆうか。


「政宗様、」
「離さねぇぞ。」
「違うん、お顔みたい。」


なあなあ政宗様、そろそろお顔みせて。
俺さっきから政宗様にぎゅってしてもらってとっても幸せやから今度はお顔が見たい。
やからちょっとこの腕ゆるめてみない。
ほんのちょびっとだけゆるめてくれたら俺、政宗様を正面から見れるんやけどな。
ちゃんとお顔見てお話出来るんやけどな。

ほっぺたを政宗様の胸にすりつけてお願いしてみる。
政宗様のえりあしを引っ張ってお願いしてみる。
ぎゅうはもういっぱい貰ったから今度は政宗様のお顔が見たいな、俺。
お顔見せて。


「……」
「なきべそ政宗様や。」
「泣いてねぇよ。」


泣いてんのはお前だろう。


「ぬん。」


うん、そお。
海水でずぶぬれやけど俺とっても泣いたよ。
海の中では苦しかったけどおっきな声で泣いたよ。
政宗様に会えてうれしくっていっぱい泣いた。
嬉しい涙なんやで。
政宗様も、俺とおんなじやろう?
やっと近くで見れた政宗様のお顔は俺とおそろいでずぶぬれやった。


「政宗様。」
「…真樹緒、」
「心配かけてごめんなさい。」


政宗様の左目にちゅう。
きっと俺のために涙を流してくれた左目にちゅう。
ごめんねと、それからありがとう、大好きよの気持ちをいっぱいこめて。
左目にしたらやっぱり右目にもしたくなって濡れた眼帯の上からちゅう。
ここにも沢山、沢山心配かけたから。


「真樹緒、お前暫く城から出れねぇと思えよ。」
「ぬ?お城?」
「離さねぇぞ。」
「離れへんよ?」
「…何言ってやがる。」


捕まえてねぇとあっという間にどこかへ行てしまうくせに。


「ぬん…それは、やあ、今回のは、俺が悪いけど。」


全体的に、俺が一番悪いけど。
これからはほら。
心配とかかけへんようにするし。
ちゃんと政宗様達にも相談するようにするし。
黙って危ない事はせえへんってお約束するし。
政宗様のおでこにこつん、って自分のんをくっつけてほっぺたを膨らましてみる。


「俺ちゃんと皆に心配かけたって分かってるよ。」


たくさんの人に心配かけて、ごめんなさいしやなあかんって思ってる。
それから俺を探しに来てくれてありがとうってゆうんも伝えやなあかんって分かってる。


「やからそんな意地悪言うたらいや。」


せっかく会えたのに。
せっかくまた会えたのに。
そんなんゆうたらいやや。


「…sorry、sweet。」


政宗様の首にぎゅって巻きついたら政宗様が笑って俺の頭を撫でてくれた。
さっきよりもふんわり抱きしめてくれて、おでことか首に張り付いてる髪の毛を避けてくれた。
悪かったっておでこにちゅうしてくれて。


そろそろここから上がらねえとなあ。
ふやけちまうぜ。
そう言って政宗様が笑う。
俺もそうやねえって。
元就様のお船に拾ってもらおうかって笑う。
もういっぱいぎゅうってしてもらったし、そろそろ海から出やな風邪ひいてしまうかもしれやんしね。


「聞きたい事が山ほどあるぜ、真樹緒。」
「俺もお話したい事いっぱいあるよ、政宗様。」


やっぱり二人で笑ってもう一回ちゅうをして。
じゃぶん、って音を立てながら近くのお船を探そうと泳いでみる。
ぬん、俺泳げやんけど政宗様が支えてくれてるから平気。
沈みそうになると政宗様が持ち上げてくれるから大丈夫なん。
あれよね、泳いでるつもりやけど中々進まんのが大変やけどお船は沢山近くに見えるし、すぐに拾ってもらえるよね。
もう、全然危ない事無いみたいやし。
豊臣さんはここにはおらんみたいやし。


政宗様の腕につかまりながらきょろきょろ辺りを見渡して、一番近くにあるお船に手を振って、ぬんぬんこっちに来てほしいん!って手を振って、そのお船におる兵士のお兄さんらが俺らに気付いてくれた時、まさにその時そのお船に黒い影が。




……
………




ぬ?




ぬん、黒い影。
人影。

その人影がしゅたってお船を足場にしてぴょーんって飛んで。
目にもとまらぬ速さで飛んで、…




「飛んで、ってあれおシゲちゃんやん政宗様おシゲちゃんが富嶽にむかって飛んでった…




えええええ何で。
おシゲちゃんムササビみたいに飛んで行った何で…!
何でおシゲちゃんが飛んで行くん陸からここまで結構あるよ。
もしかして陸からここまでお船つたってきたんやろうかおシゲちゃんすごい…!

でもおシゲちゃん何で富嶽に、



あんたがうちの子達を鎌で斬ってくれた明智の光秀さん?初めまして。



そしてさよなら。
俺の刀の錆にでもなって、海の藻屑にでもなればいいよ。




……
………




ぬーん…!



明智の光秀さん狙い…!
おシゲちゃん明智の光秀さん狙い…!
政宗様見ておシゲちゃんが富嶽で明智の光秀さん狙いで、ぬん、刀持ってて、ムササビみたいに飛んで行って、ぬーん、政宗様!どうしよう明智の光秀さんが!
明智の光秀さんとおシゲちゃんが!



Ah―…察してやれ。



あいつは明智光秀に並々ならねぇ思いがあるからな。
好きにさせてやれ。
ああなった成実は誰にも止められねぇよ。


「ぬーん!」


政宗様!
政宗様そんな遠い目しやんで!
俺がおらん間に何があったんそんな恐ろしいもんを思いした様な顔しやんで…!
そんでもってすでに富嶽まで辿り着いてしまったおシゲちゃんを一緒に止めて欲しいんやけど政宗様ちゃんと俺の目を見て…!




「真樹緒が世話になったね。」
「おやおや初めまして奥州の母上、お噂はかねがね。」
「手加減はしない。」


真樹緒と同じ様に、その腹かっ捌いてあげる。
俺の気が済むまで。


「ふふ…ぞくぞくします。どうぞお手柔らかに。」




……
………




ぬーん!


待って!
待って!
ちょう待っておシゲちゃん明智の光秀さんは近江のお母さんでびじんおかみで、ほんまに俺とってもお世話になったんやでやから待って俺のお話聞いて…!


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という事で!
初めから終わりまでギャグな間章がスタートします。
初めはちょっとしんみりしてしまいましたが、これからギャグまっしぐらですよ!

長くなってしまったので富嶽でのお母さん対決は次回に持ち越しですが、次回はキネマ主や政宗様も富嶽に乗り込んでそのお母さん対決を見守りたいと思います。
瀬戸内メンバの紹介も出来たらいいな。

間章は奥州へ帰って心配をかけた皆様にごめんなさい行脚して、近江のお母さんの身の振り方を決めて、と色々やりつつまったりしたいと思っています。
どうぞ五章までまったりですが、こちらもお付き合い下さると幸いです。
最後までご覧下さってありがとうござました!

  

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