「……Ah?」
「何事だ!」
「ちょ、攻撃!?」


森が飛んで行った。
火を吹きながら飛んで行った。
降り注ぐ瓦礫と水飛沫が空を雨の様に覆う。


何だ。
一体何だってんだ。


揺れる地面、爆発を起こす森。
手を止めたのは小十郎や成実も同じで。
こんな時に豊臣以外の新手かと爆発音がした方を振りかぶった。
そこにはやけに見晴らしの良くなった海と、原型を留めてすらいない森、そして。




「(…)」
「風魔…?」




一頃に見送った赤い忍が。




「(…)」
「…風魔。」
「(…)」



「…お前、風魔か。」



真樹緒が戻って来たのか。



「(…、)」


久方ぶりに見る忍が海へ首をやる。
ゆっくりとそれを追った。
そうしたらば見慣れぬ旗を掲げた船と、山の様に大きな船がそこに。


「あそこにいるのか。」
「(こくり)」
「…Ha……」


体の力が抜けた。
思わず刀を落としそうになった。
腹の奥に長い間澱んでいたものがその刹那晴れる。
そして言い様の無い温かいものに満たされる。
涙が、出そうだった。


「あれは…伝説の忍…?」
「風魔!?」
「何でここに…!」


成実と小十郎が目を見開いている。
竹中半兵衛の声が上ずった。
返事をする様に風がぶわりと俺達の周りを通り抜ける。




「は…はは…」




生きていた。
やはり生きていた。
そして戻って来た。
俺のもとへ。
俺のもとへ!

俺の大事、俺の唯一、俺の全て。
真樹緒が戻って来た。





「………ねぇぜ、」





僅か前まで終ぞ入らなかった力が何故か今、掌の中に溢れて来る。
動かなかった足が意思を持って。
ばちりと雷が跳ねた。


「…俺は、負ける気がしねぇぜ豊臣秀吉。」
「…未だ足掻くか。」
「Ah?足掻く?喰らうの間違いだろうRest in peace!」


ああ、負ける気がしねぇ!


それどころか歓喜に手が震えてきやがる。
豊臣秀吉の懐に飛び込んだ。
青い閃光を帯びた刀をそのまま腕にブッ刺して。
でかい手が俺を追ってきたがまるでslow motionでそれを避ける。


「(…、)」
「手を出すんじゃねェ風魔!」


水飛沫が上がった。
爆音は未だ続いている。
狙い定めたかのように豊臣の旗を狙う矢は止む事が無い。


真樹緒、なァ真樹緒。
お前一体何をしやがった。
あれは毛利の水軍じゃねぇのか。
あれは長曾我部の要塞じゃねぇのか。
俺の懐をするりと抜け出して、お前一体今まで何をしてやがった。
ふつふつと湧きあがるのははやりどうしようもない喜びで。


「これで終いだ豊臣秀吉!」
「…雑兵がいくら囲んでも同じ事よ!」
「その科白、そっくりそのままてめェに返してやるぜ!」




HELL DRAGON!




豊臣秀吉の背に一撃を。
稲光と共に負けず劣らずの轟音を鳴らしたそれは奴の体を吹き飛ばした。
仕方ねぇから爪は一本くれてやる。
今、俺は機嫌がいいからなァ。


「…Ha…」


姿の見えない豊臣秀吉を一瞥し刀を収めた。
辺りが静まりかえる。
いつの間にか爆音が止み、矢の雨も止んだ。
焦土となった森には豊臣の旗が散り乱れている。
黒い煙がどこか清々しかった。


「…梵、」
「竹中半兵衛はどうした。」
「この状況を不利と見、兵を撤退させ豊臣秀吉のもとへ走ったかと、」
「俺等の勝ちだよ。」


大丈夫、無傷で帰してないから安心して。

暫くは大人しくしてるんじゃないの。
頼もしい事を言う成実はけれど憮然とした顔でため息を吐く。
お前はどうなんだと小十郎を見れば「挨拶は重々に。」と鈍色に光る刀を収めて見せた。


「よくやった。」


兜を脱ぎ、手元に一本だけ残った爪を小十郎に差し出す。
持っていろと髪をかきあげて。


「政宗様…?」
「真樹緒が戻って来た。」
「え、」
「誠ですか…!」
「迎えに行く。」


爆撃によって拓かれた森から、でかい船が見えた。
こちらに砲台を向けて威風堂々と。


あそこか。
お前はあそこにいるのか。


海面に散らばる木々の残骸を足場に海を渡る。
足場が無くなれば待ちかまえていた水軍が道を作った。
指示を出した男が俺を見据え、ふんと笑った様に見えた。




手が震える。
体が震える。

真樹緒、真樹緒。
俺はお前をちゃんと抱いてやれるだろうか。
溢れて来るものに耐えれきれず、しくじりはしないだろうか。
お前の無事な姿をはっきり見る事が出来るだろうか。
一つしかないこの目は、その奥の奥が熱くて今にもぼやけてしまいそうだ。
声は出るだろうか。
もうすでに、呼吸すら辛いというのに。
大きな声でお前の名を呼んでやれるだろうか。


俺は、俺は。
お前が全てで、お前は俺を形作るもので、たった一つで。


最後の船の上に立った。
首が痛くなるほど見上げなければならないでかい船を仰ぎ息を呑む。
出ろ、出ろ、出ろ。
出やがれ。
俺の声よ、さっさと出やがれ。
喉を押さえて歯を食いしばった。





「政宗様!」
「っ!?」
「政宗様!」


政宗様!
本物の政宗様や!
ぬーん政宗様!


「っ真樹緒…!」
「政宗様!」


こんな弱々しい声を俺は生まれてこのかた出した事が無い。
ただそれでもその時俺はこれが精一杯で。
久方ぶりに見る真樹緒が、真樹緒なものだから俺はもうそれ以上何も言えずに。


「政宗様!」


ちゃんとうけとめてね!
俺、とぶから!


真樹緒が船に足をかけた。
そしてそのまま俺をめがけて落ちて来る。
騒然と叫ぶのは長曾我部元親と死神で。
ああもう何だっていい。
長曾我部だろうが死神だろうがもう何だって構いはしない。


真樹緒を受け止める為に両手を広げた。
さあ早くこの腕の中に戻って来い。
飛び込んで来い。
もう二度と離してやるものか。



「政宗様!」



どぼん、と海に落ちた。
小さな体は確かに腕の中にある。
最後に抱いた時と同じ匂いがした。
泡の中で見つけた顔に躊躇わず口付けた。
真樹緒が泣きそうな顔で笑うものだから止まらなかった。
何度も何度も、分け合う様に口付けた。
冷たい海の中にいるはずなのに温かかった。




「真樹緒…」
「はい」
「真樹緒。」
「はい…」
「っ真樹緒…!」
「うわーん…!」




堰を切った様に泣き出した真樹緒の体を軋む程に抱きしめた。
同じ様に抱き返される細い腕の苦しさに涙が出そうになった。


「よく戻った。」


よく戻った俺のsweet。
よく戻った俺の小さなhero。
お前がいなけりゃ足を、膝を、折ったのは俺だったかもしれない。


泣きじゃくる真樹緒の顔を覗き込む。
涙と鼻水で酷く崩れた顔は懐かしく俺の胸の奥を締め付けた。




「まさむねさま…」




あいたかった。
おれ、まさむねさまにあいたかった。

耳元で囁かれた声に愛しさが募る。
塩辛い小さな唇にもう一度口付けて抱く腕に力を込めた。





やっと取り戻した。
やっと戻って来た。
俺の全てが戻って来た。
人目も憚らずに泣いたのはこれが最初で最後だった様に思う。


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という事で再会しました四章終わり…!
うわーんわたしが泣きたいよ!
ようやく政宗様とキネマ主が再会する事が出来て私は本当に胸をなでおろす勢いです。

豊臣さん達は撤退しました。
秀吉さんはふっとばされましたが別に重症な訳ではありません。
どちらかというと政宗様の方が怪我しているのですが、自分たちに分が無いと思ったので撤退しています。
それはまた間章やらで補完できるようにしたいと思っています。

次回は再会した政宗様とじっくりお話したり、おシゲちゃんが近江のお母さんに襲いかかったり、奥州へ戻ったり。
皆で富嶽に乗せてもらったらいいかと思います。

間章は政宗様とキネマ主のらぶらぶまったりな日常と、東西兄貴さん達のひと悶着と、甲斐や越後の皆さんへキネマ主無事のご報告と、たくさんやりたい事があります。

それが終わったら五章へ。
五章は越後で慶次君秀吉編。
でも実はしっかり甲斐編もやりたいなと思ったり。
まだまだ未定ですが、お付き合い下さると幸いです。

この度は最後までご覧下さってありがとうございました。
うわーん!
本当にお疲れさまでした!

  

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