陸が物凄い音を立てて動いた。
土煙りが上がって木がたくさん倒れて行くんが見える。
たまに光の柱が空に伸びて、その度に大きな音がお船まで聞こえて来た。
海が揺れて、船も揺れて、空気も揺れて。
耳がじんじんすぐらいの轟音に思わず耳をふさいだ。


「明智の光秀さん…」


これ、ぬん…これ何の音やろう。
陸が、山が、森が、揺れて動いてるん。
鳥が空中に飛んでておかしいん。
こんなとこで、何で。


「…嫌な予感というものは当たるんですねえ。」
「え?」
「鬼。」
「おう、ありゃァ豊臣の旗だ。」


どこと交戦してるのかは分からねェが、お前の予感が当たったんじゃねえか?

いつの間にか甲板にやってきてたちかちゃんが望遠鏡みたいなんを覗きながら言った。
手に槍を持ってちょっと雰囲気もぴりっとしてる。
俺は背中が急に寒くなって。


やあ、そんな、まさか。
ぬん、政宗様ら皆、奥州目指してるはずで。
きっと、誰にも見つからんようにこっそり移動してるはずで。
豊臣さんの事は聞いてたけど、そんな偶然。


「豊臣には頭の良い軍師がいるんですよ。」


数少ない伊達軍を陽動する事など容易かったでしょう。
豊臣進軍の情報すらあちらが流した懸念も出て来ました。
始めからこうやって手負いの伊達に追い打ちをかける気だったのかもしれません。
背後を突かれたか、囲まれたか。
どちらにせよ伊達が不利なのにはかわりませんが。
明智の光秀さんも土煙りが上がる陸を見ながらちょっと眉間に皺を寄せた。




「政宗様…」




もうちょっとで政宗様に会えるのに。
こじゅさんにも、おシゲちゃんにも会えるのに。
すぐそこにおるのに。
手をぎゅって握ってその手を睨む。
政宗様が大変な事になってるって考えたら手がちょっと震えてもっとぎゅって握った。


「さあ真樹緒。」
「…はい?」
「これからどうしますか。」




……
………




ぬ?


どうするって何がどうするん?
やあ、どうするもこうするも、あそこで豊臣さんと政宗様が戦ってて俺がどうしようっていう感じで今頭の中いっぱいっぱいなんやけど。
政宗様をお助けしたいのは山々やけど、でも、俺そんな事できひんし。


「何言ってやがる真樹緒。」
「え?」
「何の為に富嶽使ってこんなとこまで来たと思ってやがんだ。」
「…え?」
「何の為に我が水軍を率いて来たと思っている。」
「元就様!?」


元就様が自分のお船から素敵なリズムで富嶽まで上がってきた。
とんとんとん、って俺の目の前まできて顎をくいって下の方へ。
それを目で追ってみたら下には弓を持った兵隊さんがお船の上にいっぱい…!


「準備は既に整っておるわ。」
「流石だねェ。」
「元就様…ちかちゃん…」
「なァ、真樹緒よう。」


この富嶽はな、ただのでけェ船じゃねぇぞ。
この船が一つの要塞になってる。
大砲もついてりゃァ、兵士の野郎共だって乗ってるぜ。


「あそこにいるのはお前ンとこの独眼竜だろう。」
「…ぬん。」
「なら、凱旋の合図でも一発ぶちかましてやろうじゃねぇか。」


お前が帰って来たぜって知らせてやろうじゃねぇか。


ちかちゃんがにやっと笑う。
楽しそうににやっと笑う。
明智の光秀さんは肩をすくめて、元就様はもっと船を近づけるってゆうてお船に戻って行った。


「我らの視界を開け長曾我部。」


あの森が邪魔よ。


「おうおう、任せな。」


丸裸にしてやるぜ。
ついでに道も作ってやらぁ。


ちかちゃんと元就様の会話の内容はようわかれへんかったけど、政宗様らのためにやってくれてるんやなってゆうんは分かったん。
元就様も、ちかちゃんも、助けてくれるんやって。


「真樹緒。」
「、はい。」
「我らは伊達についたのではない。」


そなたについたのよ。
何かを望むのならば声を出すがいい。
今、この刹那、毛利の力はそなたの物ぞ。


「元就様…」
「毛利の言う通りだ真樹緒。」


お前には大事なモンを教えてもらった。
それはかけがえのねェもんだ。
礼がしたい。
そして俺ァお前の力になりてェ。


「ちかちゃん。」
「さぁ、真樹緒。」


合図をくれ。
準備はこっちだって出来てんだ。
お前の一言で富嶽は火を噴く。


ちかちゃんが笑ったまんま俺を見る。
心配する事ねえぜ、って俺を見る。
任せとけって自信満々に。




「あ…」




俺はびっくりしたけど嬉しくて。
元就様のゆった事も、ちかちゃんのゆった事も、俺には何だかもったいなくってびっくりして、そんな事無いって首を振りたかったけど、でもやっぱり嬉しくて。


「ぬん、」


俺は握ってた手をもう一回見る。
今度は震えて無くってほっとした。

大丈夫、大丈夫、俺は大丈夫。
ちかちゃんもおるし、元就様もおるし、明智の光秀さんも、こーちゃんもむさし君もおるよ大丈夫。
落ち着いて、落ち着いて、深呼吸。


「こーちゃん。」
「(しゅた)」
「あのね、お願いがあるん。」


大砲の所で見張りをしてくれたこーちゃんを呼んでお願い。
大事な大事なお願い。
あのね、こーちゃん、聞いてね。


「政宗様をお助けに行ってほしいん。」


富嶽がどかーんってなったら。
ほら、豊臣さんも政宗様もびっくりすると思うん。
その隙にね、政宗様がピンチやったら助けてあげて欲しいん。
本当は俺が行ってお助けしたいんやけど、俺、戦えやんしきっとお邪魔になるだけやし。
やからこーちゃんにお願い。


「政宗様をお守りして。」


こじゅさんや、おシゲちゃんもおるけど心配なん。
政宗様が無茶せえへんように、怪我せえへんように。
こーちゃんの手をぎゅって握ってお願い。
こんな危ないお願いしてごめんねって言いながらそれでもこーちゃんしかお願い出来る人がおらんのってお願い。




「こーちゃん。」




じ、ってこーちゃんのお顔見つめてたら握ってたこーちゃんの手が動いた。
ゆっくり持ちあげられてこーちゃんのお顔の目の前。
ちゅ、って小さく手にちゅうされて。


「こーちゃん、」
「(しゅた!)」
「あ!こーちゃん!」


一瞬でこーちゃんの姿が消えた。
黒い羽がふよふよ舞って俺の掌に落ちる。
きょろきょろ辺りを見渡してもどこにもこーちゃんがおらんくって。


「くっくっく、仕事が早いこった。」
「ちかちゃん!」
「さぁ、真樹緒。」


俺達も始めようぜ。
ちかちゃんが俺を大砲の上に乗せてくれる。
「危険な事はやらせないで下さい鬼。」なんていう明智の光秀さんのお話も聞かんと楽しそうに。


「大将はやっぱり正面にいねぇとなあ?」
「ぬん!」


そんな事ゆわれたら俺もがぜんやる気が出ちゃうってゆうか!
何だか、さっきまで不安でしかたなかったのに一気に大丈夫!ってゆう自信が湧いてくるってゆうか!
ちょっとバランスが悪いけどがんばって大砲の上に立ちあがってみる。
それから右手を思いっきり上にあげて。



「ちかちゃん、用意はいーい!」
「おう、いつでもきやがれ。」
「ぬん!」




やあやあでは!
ぬんぬんでは。
めいっぱい息を吸い込んだ。
大きな声が出る様に。




政宗様まっててね。
こじゅさんもおシゲちゃんも待っててね。
いまお助けするからね!





れっつごーー!!




ドッカァァァァァン!!


--------------

という事で大詰め!
次回は政宗様サイドからお送りします再会まで一気にいけたらいいな…!
長い長い前降りにお付き合い下さりありがとうございます。

途中の明智の光秀さんのセリフは実は本音なのですよ。
本当に嫌なら自分がさらってやろうと思っています。
でもキネマ主が本気で嫌がって無いと知っているので絶対に本音は言いませんが(笑)

ああどうしましょう次回のお話を書きたくてうずうずしていて後書きに書くことがあまりありませんなんたる。
全ては次回へのフリなんです。
フリといっても大したフリにもなりませんでしたが…!(なんたる)

ではでは本日はこのあたりで。
次回キネマ主と政宗様が再会できる事をお祈りしつつ失礼します。
ここまでお付き合い下さりありがとうございました。
(あ!武蔵君はまだ寝てます。次回多分起きると思います!)

  

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