俺らが奥州へ出発する日、ちょっぴりお空は曇り空で風は肌寒かった。
それでも俺のテンションは上がったりで、ちかちゃんが乗せてくれた富嶽ってゆうでっかいお船の上を行ったり来たり。
明智の光秀さんがじっとしてなさいってゆうんも聞かずに行ったり来たり。
普通のお船の何倍もある富嶽は正面に鬼のお顔がどどんとあったりしてそれはもうびっくりするんやけど、お船の旅は快適でね、順調に海の上を進んでるん。
真樹緒です。
こんにちは!
「やあやあほんまにでっかいお船ねー。」
「船というより要塞ですねえ…」
「ねー。」
なんていうかお船に乗ってる感じせえへんよね。
全然揺れやんし。
とっても広いし。
明智の光秀さんと二人、想像以上に凄かったちかちゃんのお船の甲板で海を眺めながらまったり。
今日も雨降りそうやねー。
そうですねえ。
そんなお話しながらまったり。
明智の光秀さんもねえ、ちかちゃんのお船こんなに大きいとは思ってへんかったんやって。
最初見た時びっくりして飛び上がる俺の横でほっぺた引きつってたん。
「鬼、四国の支出が赤い赤いと嘆くのはこれが原因なんじゃありませんか。」
傾国の美女もかくやという佇まいで。
「耳の痛ェ事言うなよ。」
うちに金がねェのはいつものこった。
明智の光秀さんがため息吐いて、ちかちゃんが笑ったのはもう二日程前の事。
俺は早くお船に乗りたくて乗りたくて二人を急かして富嶽に乗り込んだん。
あ、もちろん出発前に島津のじっちゃんにお別れのご挨拶もしてきたよ。
「気をつけて行きんしゃい!」ってお船で食べるおやつも貰ってね。
ほんならむさし君ともここでお別れかなあ、ってしょんぼりしてたんやけど。
「あにいってやがる真樹緒!おれさまもいくにきまってんだろ!」
おれさまがいなかったらだれがてめーをまもるんだ。
おしのびになんてまかせてられっか!
なんてむさし君がオールを振りかぶって富嶽に飛び乗ってきちゃってー。
しんみりしたお別れも何のその、ついて来てくれるってゆうてくれてー。
ほんならそれを聞いたこーちゃんが何だか怒ってクナイをむさし君に投げてしまうやろう?
お船の上で危ないで!って俺ゆうたんやけど全然聞いてもらえやんのはもう最近慣れてしまったから二人がそうなったら俺は明智の光秀さんのお傍に避難なん。
元就様はね、沢山のお船と一緒に富嶽の周りを守ってくれてるん。
安芸を通り過ぎるところから合流してやあ。
そこからずっと奥州までついて来てくれるんやって頼もしい!
でも元就様は水軍の一番偉い人やから、富嶽には乗ってへんのやけど。
ぬーん。
ちょっぴり寂しいよねー。
「元就様もこっちに来てくれたらいいのにね。」
「毛利の大将が長曾我部の船へ乗ってどうします。」
「そうやけどー。」
でも俺、元就様ともお話したかったな!
ぶーってほっぺた膨らませて明智の光秀さんを見上げた。
今日はね、むさし君はお昼寝中でこーちゃんは見張り中やからとってもお船は静か。
そんな時も俺は明智の光秀さんと一緒。
ちかちゃんはほら、船長さんやから。
やっぱり忙しいやん?
時間がある時は俺等のところに来てくれるけど、もっぱらお仕事一番やから!
これからまだまだ広い海が続くんやって。
富嶽は普通のお船とは違って大きくて馬力もあるから、予定よりは早く奥州へ到着するみたいやけど。
「明智の光秀さん、今どこぐらい?」
「さあ、今川の辺りでしょうか。」
「今川!」
ぬん!
知ってる俺!
政宗様と明智の光秀さん、浅井さんが戦ったところ!
「おや、覚えていましたか。」
「やあやあもちろんー。」
なんていうか懐かしいねえ。
今川さん。
政宗様が明智さんと戦ったところ。
結局あの時は雪崩作戦がちょっとうまくいきすぎちゃって戦どころやなくなってしまったんやけど。
「ほんなら近江もこの近く?」
「近江は通り過ぎましたよ。」
「えー。」
ちょっと事情が合って、大きく海を渡ってるんやって。
織田さんっていう人にばれたらあかんから、あんまり近江の近くを通る時は陸に近づけやんかったんやって。
織田さん。
明智の光秀さんが元々おったところ。
ほら、蘭丸君のお父さんがおるところ。
明智の光秀さん、蘭丸君のお父さんをこう、裏切ったりしちゃったからばれたらまずいんやって。
ほんでもってちかちゃんのお船とっても派手やからいろいろ危ないんやって。
「このまま進むと甲斐、そして北条、その先が奥州です。」
「甲斐!」
ゆっきーやおやかた様、さっちゃんがおるところ!
ぬーん。
元気やろうか。
あれっきり会えてへんけど。
近江の、明智の光秀さんのお屋敷で出会ったっきりさっちゃんとは会えてへんけど。
無事に甲斐に戻ってくれてるかなあ。
海を見ながら思いだすんは最後に会ったあの日の事。
ゆっきーや政宗様はまだあの時甲斐におったみたいやったけど、さっちゃんはこーちゃんやかすがちゃんと俺を探しに来てくれたんよね。
それから蘭丸君や、蘭丸君のお母さんにお屋敷襲われてしまったからそのままお別れやったんやけど。
さっちゃんもかすがちゃんも無事に甲斐に戻れてたらいいなあ。
あ、かすがちゃんは越後やっけ。
ぬん。
元気かなあ。
「…気弱なあなたはらしくありませんよ。」
「やって。」
明智の光秀さんが海を眺めながら俺の頭を撫でてくれた。
ため息吐きながらゆっくり頭を撫でてくれた。
俺、心配なん。
そうゆって唇とがらせたらちっちゃく笑ってまた頭を撫でられる。
「あ、後おシゲちゃんも。」
「おしげちゃん。」
「ぬん、おシゲちゃん。」
おシゲちゃんは奥州のお母さんなん。
俺には三人のお母さんがおってね。
一人はもちろん近江のお母さんな明智の光秀さんなんやけど。
「…、」
「俺は美人おかみよりも近江のお母さん派。」
「どちらでも構いませんよ、もう。」
「ぬん!」
でね、二人目は甲斐のお母さんのさっちゃん。
猿飛佐助なさっちゃんでね。
お忍びさんやけどとってもお母さんなん。
「…お名前だけは存じております。」
確か真田忍隊の長殿ですね。
そちらの噂もかねがね。
闇と分身を操る常闇の忍だと。
「ぬ?さっちゃんはとっても俺のお母さんよ?」
俺とも仲良しでね。
俺の事いっつも気にかけてくれるん。
「………そうでしょうとも。」
「おシゲちゃんは奥州のお母さんなん。」
お名前は伊達成実ってゆうてね、政宗様の従兄なんやで。
政宗様に似てるけど、ちょっとおシゲちゃんの方がお兄さんな雰囲気するん。
とっても頼れる俺のお母さん!
ていうか皆のお母さん!
「そのおシゲちゃんがきっとちょう怒ってるから俺の気分も何だか下がっちゃうってゆうかー。」
「…あなたのは自業自得でしょう。」
「そうやけど!」
勝手にお城飛び出て政宗様の様子見に行ってもうたしー。
見に行った後ばっちり自分から巻き込まれに行っちゃったしー。
最終的には四国にまでの遠出になっちゃって、そりゃあもう、怒られるどころやないってゆうか!
手すりに頬杖をついてやっぱり唇をとんがらせる。
おシゲちゃんの怒った顔が頭をよぎってちょっぴり泣きそうになる。
ぬーん、どんより曇ったこのお空とおんなじ気分、俺。
今にも雨が降りだしそう。
真っ黒けな雲が覆うお空を見上げて顔をくしゃくしゃにしてため息一回。
「ならば。」
「ぬ?」
「ならば、止めてしまいますか。」
「え…?」
明智の光秀さんが俺を見る。
風になびく髪の毛を耳にかけながら涼しい顔で。
そんなに奥州の母上が恐ろしいのなら、会うのが嫌だと思うのなら、このまま四国に戻ってしまいますか。
そんな風に簡単に言ってとっても優しく笑うん。
腕を組んで、笑いながら。
「鬼の物になるのは癪ですので、私があなたを攫いましょう。」
奥州に帰るのは止めてしまいましょうか。
明智の光秀さんが本気なんか冗談なんか分からんくって俺は目を見開いてぱちぱち。
これでもかって大きくしてぱちぱち。
そんな俺を見て明智の光秀さんが笑う。
今度は肩を少し震わせて笑う。
俺はそれには!ってして思いっきり首を振った。
「ぬん、ぬん、ぬん、!」。
ぬん!俺!奥州に帰るよ!ってぶんぶん首を振った。
おシゲちゃんに会うん、俺、すごく会いたいもん。
こじゅさんにも会いたいもん。
こじゅさんにも俺、いっぱい心配かけたもん。
ごめんねってゆうんとありがとうってゆうんいっぱい伝えたい。
そんでもって政宗様に会って、会って、ぎゅってしてもらうん。
明智の光秀さんの事もちかちゃんの事も、元就様もむさし君も大好きやけど。
もちろん島津のじっちゃんも大好きやけど。
「俺、奥州にかえる!」
「当たり前です。」
そうでなければ何の為に私や鬼に毛利がこんな事をしているのか。
全てはあなたを無事に奥州へ届ける為ですよ。
「ぬーん!」
えええええ…!
何、なんなん明智の光秀さんさっきと言うてる事ちがう…!
何でそんな呆れた様な顔で俺を見るんさっき明智の光秀さん帰るん止めとこうかってゆうてたやんだから俺!俺!真剣に答えたのに!
俺が飛び上がる勢いで驚いてるのに明智の光秀さんはしれっと「ささやかな冗談ですよ」なんて言いながら笑う。
俺が足をじたばたしながら怒っても聞こえませんねえなんてそっぽを向いてしまう。
ぬーん!
「もう!もう!俺本気でびっくりしたのに!」
明智の光秀さんが何だかとっても真剣な、そういう、雰囲気やったから俺心臓がどきどきしたのに。
俺のどきどきかえして!
明智の光秀さんの背中をぽかぽか。
冗談とかひどい!ってぽかぽか。
それでも何て事ないお顔する明智の光秀さんをどうにかぎゃふんと言わせたくて、これはもうあの涼しいお顔してる明智の光秀さんの髪の毛をみつあみにして美人おかみにするしかない!って心に決めた時。
丁度その時。
ドッカァァァァン…!
ドン!
ドン!
ドドン…!
「!?」
「…おや、まあ。」
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