お城の門を歩いていくとね、また門があってそこに人が立ってたん。
政宗様の知り合いやろうか。
こっちむいて手ぇふってたから振り返してみたらその人が首をかしげて手を止めてしまう。
やあそりゃあね!
知らん人やしね!
でもずっとふってたら控えめにふりかえしてくれました。
真樹緒ですこんにちは!
ふってたら片倉さんに何やってんだって呆れられてしまったんやけど!
ぬん。
良い人やねー。
のりの良い人やねー。
全然全く知らん人なんやけど!
ぬーん!
「遊ぶな真樹緒。」
「あう、」
「成実か。」
「しげざね?」
「俺の従兄弟だ。」
ほーほー。
おシゲちゃんかー。
何か可愛い感じ。
「そんな可愛いもんじゃねぇぞ。」
「そうなん?」
「伊達三傑の一人だからな。」
「へーさんけつ…」
分かってねぇなって片倉さんが笑う。
知らねえかって政宗様も笑う。
やー…もう何か意味とかよりも漢字が分からへん。
さんけつって字から分からへん。
さんけつさんけつ呟きながら首を傾げたら別に大層なもんじゃねぇよ、ってぽんぽん頭を撫でられてもうた。
ぬー…そうなん?
何かすごそうなんやけどさんけつ。
「梵、お帰り!」
俺がまだ首を傾げたまんまでおったら、さっき手を振ってた成実さんがこっちまで走って来るのが見えた。
息をきらせて政宗様と片倉さんを見つけてぱって笑う。
「梵言うんじゃねぇよ。」
門の前で、ちょっとそっけなく言う政宗様はでも何や嬉しそう。
政宗様の背中を叩く成実さんはめっちゃ笑顔で。
「硬い事言いっこ無しだよ。」
本当に無事でよかった。
「ああ。留守中変わりは?」
「何も滞りなく。」
皆、梵達の帰りを待ってるよ。
成実さんと政宗様が右手と右手をごつんて合わせて笑う。
それがとってもかっこうよくってね、いいなーって思ったん。
大人な感じ。
大事な繋がりが見えた感じ。
いいよね、そういうん。
ちょっぴり羨ましくなっちゃうよね。
「……、」
「真樹緒?」
でも呼び方はおシゲちゃんのが可愛いと思うんよな。
やっぱり。
ほらおなまえ。
しげざねさんのおシゲちゃん。
おシゲちゃん。
……
………
うん。
おシゲちゃんでいこう。
「また何か妙な事考えてるだろう。」
「あぅ、」
やあやあ片倉さんはエスパーとちがうやろうか。
隣にいるだけで俺が企んでる事が分かってしまうなんてー。
ぬん。
何で考えてる事ばれてもたんやろう。
顔になんて出してへんかったはずやのに。
何でばれてしまったんやろう…!
うりうり頬っぺたを攻撃されながらかんにんかんにんって笑う。
「でも可愛ない?おシゲちゃん。」
「そんな面してねぇだろう。」
「ちょっと政宗様に似てるよねー。」
「今度言ってやれ。」
喜ぶぞ。
そう?って笑ってたら「真樹緒!」って呼ばれた。
ぬん?
政宗様?
おシゲちゃんとお話してたんちがうん?
「なーにー?」
「来い、紹介する。」
「梵?」
「こいつの名は真樹緒。」
小十郎の恩人だ。
「恩人?」
「意識を失っていた所を助けられた。」
「小十郎怪我してるの!?」
「もう血は止まっているがな。」
「あぁ、そうなんだ。」
よかった、っておシゲちゃんは息をついて今度は俺を見た。
やっぱり政宗様に似てるなぁ。
目元とか、笑ったとこの口元とか。
でもおシゲちゃんの方が目元がやさしげ?
ちょっぴり垂れてる感じ?
やあ政宗様に負けず劣らずのイケメンなんやけど!
「お前が真樹緒?」
「ぬん。」
「へーんな格好してるねえ。」
「わ、ぁ!」
突然だっこするとこも政宗様に似てると思うん。
おシゲちゃん力持ち!
そんな急に抱き上げられると俺びっくりするんやけど…!
てゆうか軽々持ち上げられすぎる俺にもびっくりするんやけど…!
俺どうなん。
16歳のぴちぴちなわかものがこんな簡単に持ち上げられて大丈夫なん。
「小十郎を助けてくれたんだって。」
「洞窟に運んであったかくしてただけやけど…」
「でも小十郎はちゃんと生きてるよ。」
「ぬん、それは俺もうれしい。」
「真樹緒…」
目の前のおシゲちゃんに笑って、後ろの方で声を漏らした片倉さんにも笑う。
隣で楽しそうにしてる政宗様にも笑って。
やあやあ皆、戦やったんやろう?
とっても大変やったんやろう?
俺、戦の事はよく分からんけど片倉さんの怪我は心配なん。
早く治ったらええのになって思うん。
また皆で会えて、皆が無事でよかったねぇっておシゲちゃんの顔見ながら言ったら泣きそうな顔でおシゲちゃんも笑った。
やあやあそんな顔しやんといてぇや。
さっきみたいな顔で笑った方が可愛いよおシゲちゃん。
俺、そんな泣きそうな笑顔よりこうお腹から笑ってくれた方がとっても嬉しいよおシゲちゃん。
「真樹緒。」
「うん?」
「さんくす、?だっけ?異国語のお礼。」
ありがとう。
うちの右目を助けてくれて。
ありがとう。
梵の元に返してくれて。
ありがとう。
二人を俺に会わせてくれて。
おシゲちゃんがぎゅうって腕に力を入れた。
本当にありがとって耳元で呟いた。
腕はちょっと苦しくって、お耳はちょっとくすぐったかったけどおシゲちゃんが喜んでるのが分かったから俺はよかったねっておシゲちゃんの首にぎゅう。
俺は何にもしてへんよってぎゅう。
ぎゅうってしながらちょびっとあれ、って。
「おシゲちゃんもしゃべれるん?」
「おシゲちゃん?」
俺の事?
って首をかしげたから「可愛いやろう?」って俺も首をかしげる。
おシゲちゃん。
しげざねやからおシゲちゃん。
どお?
俺、結構お気に入りなんやけど!
「真樹緒が呼びたいなら呼んでいいよ。」
「じゃあおシゲちゃんね。」
「真樹緒は面白い子だねえ。」
「?そう?」
俺おもしろい?
そう?
やあお顔が緩んだおシゲちゃんは可愛いと思うけど俺!
「成実、」
「あ、梵。」
「返せ。」
「政宗様?」
どないしたん、て言う間も無く今度は政宗様にだっこされる。
ぐるりと首を回してみたらちょっと拗ねた感じの政宗様と目があった。
あれ?
俺がおシゲちゃん取ってもうたから拗ねてもうた?
政宗様もおシゲちゃんとぎゅうやりたかった?
やあごめんなさいー。
そうよね。
お久しぶりに会ったんやから政宗様とおシゲちゃんは感動の再会やもんね。
俺が一人占めしてたらあかんよね!
ぬん!
でもおシゲちゃんとっても可愛いかったから…!
「逆だよ、真樹緒。」
「う?」
けらけら笑いながらおシゲちゃんが俺の頭をぽふぽふ叩いて「ねえ梵、」なんて肩をすくめてる。
逆?
何が逆?
「お前は分からなくていいんだよ。」
「政宗様?」
「行くぞ、真樹緒。」
「ぬん…!俺一人で歩けるよ!」
てゆうか歩く!
歩かせて!
俺さっきからだっこばっかりされて、いたたまれやんのやけど!
恥ずかしいんやけど!
16歳にもなってだっことかちょっと俺せちがらいんだけど!
「強引な男は嫌われるよ梵。」
「梵言うんじゃねぇよ!」
「俺のお話聞いて…!」
しかも政宗様、これ子供だっこ…!!
お尻の下に肘があって子供だっこやでちょっと待って…!
俺がお願いしても聞く耳もたない政宗様は俺をだっこしたまますたすた歩き初めてしまう。
ぬーん!
政宗様俺のお話きいてんか…!
なあなあちょっと見て片倉さん!
助けて片倉さん!!
こっちに来て片倉さん!
手ぇふって助けを求めてみたけど、何ものも言わせやんような素敵笑顔で思いっきり笑われました!
何それ俺このままだっこされてろってこと笑顔が眩しい!
「真樹緒。」
「なーんー。」
下に下ろしてくれる様子の全く無い政宗様をじっとり睨んだ。
俺のお話全然聞いてくれそうにない政宗様をじっとり睨んだ。
ねえねえ政宗様。
そろそろ俺地面が恋しいんやけど。
子供だっこは普通のだっこより二倍ぐらい恥ずかしいんやけど。
片倉さんが空気読んでくれへんのやけど…!
「Ah?中々hotな目線を送ってくれるじゃねぇか。」
「俺したに下りたい。」
「少し我慢しろ。」
「う?」
素足だと危ねぇだろって政宗様が言う。
……
………
は!
そうや俺!
洞窟で靴下どろどろになったからぬいでたんやった!
はだしなんやった!
履いてたローファーは森をさまよってた時になくなってもうたし。
忘れてた俺今はだし…!
「…政宗様、やさしい…」
「真樹緒のちっせぇ足に傷でもついたら大変だからな。」
「そんな言うほどちっさく無いもん。」
せっかく俺嬉しかったのに政宗様に笑われてしまったん。
ちょっと意地悪な笑い方やで。
もー。
ちゃんと見て政宗様。
俺の足これから大きくなるんやで。
知らん間に政宗様の背かって越してしまうんやから。
片倉さんやおシゲちゃんかって抜かしてしまうんやから!
「それは無理だと思うなー。」
「おシゲちゃん…!」
「お前はそのままで丁度いいだろう。」
「片倉さん!!」
ひどい!
そんな言い方ひどい!
俺もおっきくなりたいのにもう。
これからずんずん背も伸びる予定やのに。
周りは敵ばっかりで嫌になっちゃうわ…!
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おシゲちゃん編でございました。
次回は宴会。
皆に紹介されまして一章が一段落です。
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