「もっしゃもっしゃ。」
「…」
「もっしゃもっしゃ。」
「……」
「かき、おいしいねもとなりさま!」


もっしゃもっしゃ。
もっしゃもっしゃ。



………、
もっしゃもっしゃもっしゃ。


ぬん、ちょっとこのかきかたいけど!
どうにもこうにもかめやんかんじやけど!



……
………



それは柿では無く柿の種ゆえな。


噛むな。
歯を痛める。
吐きだせ。


「ぬ?たね?」
「種ぞ。」


何度そなたが咀嚼しようと柿の味などせぬわ。


「ぺっってするん?」


もとなりさまのてに?
ぬん?
ええの?


「よい、出せ。」
「ぺー。」


ぬーん。
ぺー。


真樹緒の小さな口から柿の種がころりと落ちる。
その代わりに新しい柿を差し出してやるとすぐに食いつきもぐもぐと口を動かした。
まるで栗鼠の様よな、と頬を緩めながら盃を傾けて。
もぞもぞと動く温かい体に手を添える。


「居心地が悪いか。」
「ぬ?やあ、もとなりさまおもたくないかなって。」
「そなたなど羽の様な軽さよ。」


気にするな。
ぬん!


未だもっしゃもっしゃと柿を食む真樹緒の髪をくしゃりとまぜる。
落ち着いたのかそのまま小さな背中を我の胸に預けて真樹緒が体の力を抜いた。
周りをぐるりと見渡せば、がつがつと品の欠片も無く食事を取る小僧が見える。
ちらりと我の方を見たが、そのまま逸らし酒を煽りまた近くの皿から魚を取ってかぶりついた。
よくもまあその小さな体にあれだけの量が入る事よ。
感心しながら今度は庭に目をやれば先程出て行った長曾我部が真樹緒の忍と刃を合わせていた。
立ち上る土煙りは無粋にも庭中を覆う。
貴様等、よもや我の屋敷を破損などする事があればどうなるか分かっておろうな。
酒の席の戯れとは言え、きちりと責任を取らせてくれる。
鼻を鳴らし息を吐けば真樹緒が袖を引っ張り見上げて来るところで。


「もとなりさま、あー。」
「…まだ足りぬか。」
「かきおいしいん。」


いくらでもたべられちゃうってゆうかー。
くちあたりもいいしー。
あとあじさっぱりで、くちのなかがとってもあまいん。
もももおいしかったけど、かきはまたべつばら。


「…、」
べつばら。
可愛らしい顔をしおって。


そなたその顔で独眼竜をも落としたか。
甘ったるい声と人懐こいその顔で。
さしもの我も思わず盃を落す始末よ。


「明智や長曾我部はもはや話にならぬからな。」
「ぬ?」


へらりと笑う真樹緒に口元を上げて返して、赤く染まる頬を撫ぜた。
明智に言わせると餅だというそこはなるほど大層柔らかく我を楽しませる。
何度もつついてやるとこそばゆいのか逃げる様に顔を逸らすものだから、やはりそれが可愛らしく頬が緩んだ。


「もとなりさま、かき。」
「そなたが全て食べたであろう。」
「もうないん?」
「ひとかけらも無くなってしまったわ。」


空の皿を指差せば真樹緒の眉が面白い位に下がる。


おいしかったのになー。
ぬーん。
そんな事を言いながら柿を探しているのか皿を取って裏返したり覗きこんだり。



……
………



無いというておろうが。


「ぬん、せっかくもとなりさまにもたべてもらいたかったのに。」
「…我にか。」
「かきね、ちょうおいしかったん。」


あまいのはもちろんやけどとってもとろとろでね。
まるですいーつ。
すいーつってあれ。
あまいおかしのことね。
とってもおいしいんやけど、このかきもまけへんくらいのあまさやってんで。
おれあんなかきたべたことない。
もとなりさまのところのかきはすごいねえ。


「やからね、もとなりさまにおすそわけしようかなって。」


おもってたんやけどもうなくなってもたんかー。
ぬーん。
しょんぼりー。


「その様な顔をするでない。」


柿などいつでも食えよう。
そなたが満足すればそれでよい。


「まんぞくしてへんもん。」
「…、」
「おれもとなりさまにかきたべてほしかったん。」


いっしょにかきのおいしさをわかちあいたかったん。
もー。
もとなりさま、もー。
わかってくれないなんてー。
あいがたりないわー。


「…心外ぞ。」
「ぬ?」
「これでもかという程可愛がっておろうが。」
「?ぬん?」
「報われぬものよな。」


首を傾げる真樹緒を笑いながら撫でて己の体からも力を抜く。
そのまま背を柱に預けて窓を開けた。

赤々と闇に浮かぶ厳島が美しい。
明日は真樹緒を案内しよう。
結局今宵は宴のあれやこれのおかげで叶わなかった故。
どうだ、真樹緒。
そう言って真樹緒を見れば何やら神妙な顔でぬんぬんと唸っている。


「…真樹緒?」
「ぬん。」
「、真樹緒。」
「ぬんぬん。」
…………真樹緒、
「ぬん!あのねもとなりさま!」


おれちょっとかんがえたんやけど!


先程のしかめっ面をどこにやったのか彼方へ吹き飛ばし、目の前の真樹緒が笑う。
ぱあと花でも咲かせそうなほどの上機嫌で。


「…どうした。」
「あのねえ。」


おれかんがえたん。
おれは、どうしてももとなりさまにおいしいかきたべてもらいたいん。
でもかきないやん?
のこってないやん?
やからね、おれとってもいいことおもいついた。


「…、」
「いいこと。」


おれね、いまおくちのなかとってもかきなん。
あまくってね、ちょうかきなん。
ほんならこう、おれがもとなりさまにちゅーってしたら、もとなりさまにもかきのおあじがつたわるとおもうん。
やからおれとちゅうしようもとなりさま。
あ、そういえばおれもとなりさまとはまだちゅうしてへんし。
ちょうどいいね!

かきのおあじのちゅうやで。
おいしそー。
ぬーん。


「もとなりさま、ちゅう。」
「………、」


にこりと。
いや、にっこりと。
恐らくここに居る誰もが敵いはしないだろうという顔で。
そう、独眼竜さえも落としだろう顔で。
まんまと我を絆したその顔でこれでもかと真樹緒が笑う。
もとなりさまもとなりさまと笑う。


頭がくらりとした。
まるで眩暈よ。
ああ何と。
これでは我がお話にならぬわ。


手で目を覆って天井を仰ぐ。
ここに長曾我部がおらぬのがまだひとかどの救いよ。
ああ、と漏れそうになった息を飲み込んで真樹緒を抱え直した。


「そなたには敵わん。」
「ぬ?」
「我の面目も丸潰れよ。」
「?なに?」


やあ、なんのおはなし?
もとなりさま。
ちゅうは?
かきの。
もとなりさまおれとちゅうするんいや?


「…ふ、」


嫌なものか。
何という誘いだろう。
柿とはまた違う甘ったる匂いをさせて。


「真樹緒。」
「はあい?」


真樹緒が振り向き我を見上げる。
ゆっくりと甘える様に。
ならばとこちらも殊更ゆっくりと真樹緒の顎を持ちあげた。
ぱちぱちと大きな目が瞬く。
暫くじっと我を見ていたが何に納得したのか、あ、と頷き目を閉じた。
そしてもぞもぞと体を動かし我との隙間を埋める。
首の後ろに回された小さな腕が襟足をなぞりこそばゆい。
更には準備は出来たと言わんばかりに「ん」と唇を突きだされて。
それを初めから終いまで見せられた我はたまったものではない。


「もとなりさま、はやく。」
「…はしたないぞ真樹緒。」
「ぬん、あかん?」
「そうは言うておらぬわ。」
「やあ、ほんならちゅう。」


再び「ん」と唇を差し出した真樹緒の細い腰に手を添え顎を掬う。
降参よ、と淡い桃色のそこをすぐにでも塞いでやろうと思った刹那、閉じた真樹緒の目がぱちりと開いた。
ふと動くのを止めて大きな目を覗きこむ。


「…、嫌か。」
「んーん!」


ちがうんちがうん。
あのね、ちょっとわすれてたことあって。
いいわすれてたことがあって。


「ぬん、もとなりさま。」
「何ぞ。」
「やさしくしてね。」


おれ、ちゅうとってもすきなんやけど。
ちゅってくっつけるちゅうも、とろとろになるちゅうもだいすきなんやけど。
たまーにね、とろとろになるやつはくるしくなるん。
やあちかちゃんとはちょっとくるしかったんじつは。
あけちのみつひでさんもやけど。
やからね、もとなりさまやさしくしてね。
おてやわらかにね。
ぬん!


そう言って真樹緒が目を閉じた。
すぐに唇が触れるという距離でさあもう何も言う事は無いと目を閉じて顔を寄せた。



「………」



目が閉じていてよかったと、胸を撫で下ろしたのは真樹緒に気付かれてはいない。
恐らく我は今、甚だだらしの無い顔をしているであろう。
口元が緩み、眉も下がり、顔は赤く染まっているかもしれぬ。
これでは長曾我部に大きな顔も出来ん。
からかってやる事も出来ん。
何と厄介な事よと思えどやはり顔はそのまま直らず。
目の前の可愛らしい頬をひと撫で、強請られた通りひとしおに優しく口づけた。
柿の味と酒の味の入り混じった、甘いけれどもどこかほろ苦い唇は口づけたと同時に吸いついてくる。
ぎゅうと腕に力を込めてこちらの息を奪われる程に。


「ん、ん、ん、」


もとなりさまもとなりさま。
おくちあけて。


「おくち。」
「…真樹緒。」
「もとなりさま、おくち。」


言われるまま口を開く。
小さいのに熱い舌がそろりと忍びこんできた。
忍びこみゆるゆるとそこらじゅう悪戯に遊んで己のそれを捕まえる。
逃げれば更に腕の力が強まって。
観念して舌を差し出した。


「、は」
「ん、う。」


己も大分酔っていたのだろう。
くらくらくらくらと頭が回る。
気をどこかにやってしまいそうな程に熱い。
口の中が、喉が、頭の芯が。
優しくしてと強請ったのはそなたではなかったのか。


これではこちらが。
己の方が。


「もとなりさま。」
「っは、」
「かきの、おあじ、した?」


あまかったやろう?


漸く解放されて大きく息を吸い込んだ。
口の端から垂れたものを真樹緒が笑いながらぺろりと舐める。
甘い甘いと何度も何度も小さな舌で。



参った。
ああ、もう、勝てる気もせぬわ。



そのままずるずると真樹緒を腹に乗せたまま長曾我部の二の舞よ。
くらくらとしていた頭は未だくらくらとしている。
それどころか酔いが回って目の前はまるで夢うつつの様だ。


「もとなりさま?」


もとなりさまどうしたん。



真樹緒の声も既に遠く。
はるか彼方に遠く。
ぺたぺたと頬に触れて来る小さな手をそのままに、己の意識はそこでぷつりと途切れた。
やたらと温かく、甘い匂いに包まれながら。



「もとなりさま?」
「(しゅた)」
「あ、こーちゃんもとなりさまが。」


きゅうにね、うごかんくって。
ねころんだままうごかんくって。
どうしたんやろう。
ねてしまったんやろうか。
いっぱいおさけのんでたみたいやし。
おれ、おれ、ちゅーしてたんやけど。
もっとしたかったんやけど、もとなりさまうごかんの。


「(………、)」
「ぬ?だっこ?」
「(…)」
「あ、もとなりさまねたからおれもそろそろねやなあかんって?」
「(こくり)」
「ぬー。」
「(………、)」
「やあそうね、」


あけちのみつひでさんにあしたおこられてもうたらあかんもんね。
おかあさんやしね。
ぬんぬんしょうがないなー。
おふとんはいろうかー。
やあ、そうおもったらちょっとねむたくなってきたかもー。
ぬーん。


「こーちゃんおふとんまでつれてってー。」
「(しゅた!)」


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ちゅー魔元就様編は、うばっちゃった!編でございました少しは元就様デレたかしら…!どきどき。
でも主役は絶えず柿でしたすみません。

本当は元就様はびっくりするぐらい酔っている設定で、キネマ主との話も噛み合わない感じだったのですが、噛み合わない感じにしたらお話全然進まなかったのでちょっと方向転換したのです。
でも実際は結構酔っているのですよ。
気を失ったのは酔いと酸欠のせいです(笑)

最後の最後は小太郎さんとちゅー魔。
一体どんな風になるのか私もまだまだ未定なのですが、次回でやっとこちゅー魔が終わります。
どうぞもう少しお付き合い下さいませ。

ではでは。
ご覧下さってありがとうございました!
  

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