おみやげのおにぎりが入ったお重も持って着替えの入った荷物も持って準備万端、皆で乗り込んだ安芸からのお船。
朝の早くから四国を出て今は多分お昼ぐらい。
お日様がね、頭のてっぺんに来てるから多分お昼ぐらい。
潮風を顔に受けてお船の手すりで休憩してる海鳥にご挨拶して、俺はお船の上をうろうろ。
まだかなまだかなってうろうろうろうろ。


明智の光秀さんに「本当にじっとしていませんねえ」なんて笑われて。
ちかちゃんに「待ち遠しいかい」なんて笑われて。
それを数えきれやんくらいくりかえしてやっと俺のうろうろする足も止まったころ。


「アニキー!安芸が見えたぜー!」
「ぬん!」


海賊の兄やんらの声がお船に響いた。
でっかい声が響いてカンカンカンって鐘が鳴って。
俺の背すじもぴんっと伸びる。
首もぐんと伸びてお船から海に乗り出した。

ぬーん!
真樹緒ですこんにちは!
無事に乗り込んだ元就様からのお迎えのお船の上からこんにちは!


やあやあ安芸が見えたんやって。
安芸。
元就様のお国!
ぬん!
どこ。
安芸どこ!


「落ちますよ真樹緒。」
「だいじょうぶ!」


気をつけてるからだいじょうぶ!
ちゃんとお船の手すり持ってるし!
それにもし落ちてもこーちゃんも明智の光秀さんもちかちゃんもむさし君もおるから平気!
なんとかなると思うん。

明智の光秀さんのお話も右から左、平気って言いながらお船からぐぐんと背伸びする。
「自分で注意するんですよ」なんてあきれたような明智の光秀さんを見やんふりしてぐぐんと背のびする。
そしたら目の前に鳥居が。
でっかいでっかい赤い鳥居が。


「ふおおおおおお!」


海の中にでっかい鳥居!
あれが有名な厳島神社!
すごい!
綺麗!
でっかい!


「厳島神社すごいー!」


見て!
明智の光秀さんちかちゃん見て!
あそこ!
海に鳥居が立ってるよ!
こーちゃんもむさし君も来て!


「あー?とりーなんてみてもべつにおもしろくねー。」
「もー。またそんな事いうー。」


せっかく皆で楽しい旅行やのに。
綺麗な鳥居が見えたのに。
その奥にでっかい神社も見えるのに。
そんなあくびとかしないでー。
暇そうにしないでー。
もっと一緒にテンション上げて欲しいん。


ほらほら見てむさし君!
早くあそこ行きたいね!
きっと元就様も待っててくれてると思うよ。


「つまんねー。」


俺の隣でお船の手すりにあぐらかいて座ってるむさし君がぶーぶー言いながら俺を睨む。
まーだつかねえのか!なんてはやくもお船の旅が飽きて来た感じ。
ぐん、って両手を伸ばした後頭の後ろでその手を組んで。
ふあーあ!なんてまた大きなあくび。


「明智の光秀さんもちかちゃんも、鳥居が見えたらすぐ安芸につくってゆうてたよ?」


俺かって早く元就様に会いたいん。
さっきからお船をうろうろしたりしてたけど、これでも我慢してるんやで!
ほら鳥居も段々大きく見えて来たし。
あともうちょっとでお船の旅も終わると思うよ!
ねー、こーちゃん!


「(こくり)」
「ほら、こーちゃんのおすみつき!」


やっぱり俺の隣におったこーちゃんを見上げたら腕組んだまましっかり頷いてくれた。
ずっと同じ景色ばっかり続いてたけど、鳥居が見えてからは海の上に浮かぶ厳島神社がとっても綺麗。
近づいてきてからはその奥の神殿も見えてまるで竜宮城へ来たみたい。
本当に神様とかいてそうよねー。
不思議なふんいきよねー。


「…なあ真樹緒。」
「ぬ?なあに。」
「おれさまかんがえたんだけどよー。」
「うん?うん。」
「ここからあそこまでだったらおしのびのちからでどうにかなるんじゃねーか?」



……
………



ぬ?
「ほらおしのびたまにきえたりするだろ。」


ここからあのとりいならおしのびのちからでいけるんじゃねえか?


ちら、ってこーちゃんを見たむさし君がまた目を海に戻してあくびする。
とっても不安定なところに座ってるのにちょうくつろいで今にも横に寝そべってしまいそう。
俺がそんな事したらもれなく近江のお母さんとかこーちゃんとかに怒られるからできやんのやけどー。


「こーちゃん?」
「(?)」
「こーちゃんこーちゃん。」


ちょっと聞きたい事があるん。
いいかしらー。


「(??)」
「こーちゃんな、このお船からあの鳥居の向こうの神殿までしゅばっとお忍びさんの力で移動出来たりする?」


むさし君がなにげなく言った事がちょっぴり気になってこーちゃんに聞いてみた。
やあほらそういえばこーちゃんお忍びさんやから急に消えたり現れたりしたことあるし。
こーちゃんがたまにふよふよ散らせる黒い羽とか、お忍びさんの力が関係してそうよね。
やからむさし君が言うように瞬間移動とかもできそうかなっておもって。
伝説のお忍びさんやし!


「(……)」
「できる?」
「(こくん)」
「まじで!」


うそやんこーちゃんまじで!
ぬーんまじで!
そりゃあこーちゃんは伝説のお忍びさんで伝説のお嫁さんやけどここから神殿までけっこう距離あるのにまだ!
だんだん鳥居が近づいて来てるってゆうたって広い広い海が広がってるよ!
えええそんな可愛らしく頷いちゃっていいのこーちゃん。
いくらお忍びさんやからって!
そりゃあ俺ちょびっと期待とかしてたけど。
わくわくどきどきしてたけど!


「ほらなー。」


だからおれさまかんがえたんだけどよー。
おしのびがあそこまでとんだほうがはやくねーか?
おれさまと真樹緒かかえて。



……
………



ぬ?
おれさまと真樹緒かかえて。


おれさまがいくらおれさまでもよー、さすがにうみのうえはしれねーよ。
真樹緒もつれてかなきゃなんねーからな。
ひとりならおよげねーこともねーけどおしのびがいるならそっちのがらくだろー。



……
………



「(しゅた!)」
ぬん?


あれ?
こーちゃんだっこ?
急にだっこ?
どうしたんだっこ。


「あー!おしのびまて!おめー真樹緒とふたりだけでいくきだな!」


おれさまをおいてくんじゃねー!


こーちゃんがおれを抱っこしてお船の真ん中の柱へ飛んだ。
そのまましゅたっとてっぺんまでやってきて俺を見る。
下ではむさし君が武器(あのオール!)を持ち出して振りまわしてるのが見えて。
あれ?


「こーちゃん、もしかしてこのまま安芸まで連れてってくれるん?」
「(こくり)」
「むさし君は?」
「(ふるふる)」


ぬ?
一緒やないん?


「おるすばん?」
「(こくり)」


まじで…!
むさし君おるすばん!


「おめーおしのび!めんどくせーだけだろ!」


おれさまをだませるとおもうなよおしのび!
ほんとはにんずーなんてかんけーねーんだろ!
真樹緒と二人でいきてーだけだずりーぞ!


「真樹緒!おしのびがおれさまをつれていかねーんならおまえもいくな!」
「えー、でもこーちゃんがー。」


連れてってくれるってゆうしー。
俺早く元就様に会いたいしー。
お久しぶりの再会やしー。
ぬーう。


二人もだっこしてあそこまで行くんは無理なんやって、こーちゃん。
いくらこーちゃんが伝説のお忍びさんやってゆうてもちょっと難しいんやって。
やあやあそれもそうよね。
こーちゃんは力持ちやけどやっぱりしんどいよね。
きっと瞬間移動ってものすごいお忍びさんの力がいるんよね!
そう考えたらいっつも俺をだっこして色んなところに行ってくれたりお助けしてくれたりするこーちゃんが本当に俺の事考えてくれてるんやなあってこう胸の奥がきゅん!ってしてこーちゃんの頭をなでなで。
ありがとうね、ってなでなで。


「いっつもありがとうねこーちゃん。」
「(ふるふる)」


こーちゃんが首を振ってぴょん、って飛び上がる。
まだ下から叫んでるむさし君を飛び越えてお船の後ろ、明智の光秀さんとちかちゃんがお話してるところへしゅたっと着地。
むさし君ごめんね。
ちょっとね、せっかくやから俺お先にこーちゃんと行ってるね。
向こうでむさし君らを待ってるね!
武蔵君に手を振ってから、びっくりしてる明智の光秀さんとちかちゃんの前でこーちゃんと顔を見合わせる。
それから二人で頷いて。


「明智の光秀さん!ちかちゃん!」
「おや真樹緒。」
「どうした。」


もううろうろするのは飽きたかい。
そろそろ厳島が全部見えるぜ。


「あのね!」


ちょっとくつろいだ感じの明智の光秀さんと、お船の手すりにもたれかかってたちかちゃんが首を傾げた。
そんな二人の前で俺らはによによ。
ぬん、によによしてるのは俺だけなんやけど!
気分的にはこーちゃんもきっとによによ!


「俺とこーちゃんね、ひと足お先に厳島神社へ入って来るね!」


「…は、?
あ?
「ぬふふ!」


こーちゃん、お船からあそこの神殿までやったらお忍びさんの力で飛んでいけるんやって。
しゅばっと消えて向こうまで行けるんやって。
やっぱり元就様に早く会いたいしー。
おにぎりも食べてもらいたいしー。
あ、そうやちゃんとおにぎりは持っていこうね、こーちゃん。
元就様に食べてもらうやつ。


「(しゅば)」
「ぬん!おにぎりのお重!」


まじでこーちゃん持ってきてくれてたんおしごとがはやい!
さすが俺のおよめさんー。
だんなさんのやる事がなくってこまっちゃうわー。

やあやあでもこれでもう完璧やないやろうか。
元就様のところへ行く準備万端やないやろうか。
こーちゃんからおにぎりのお重を受け取って大事にかかえてもう一回明智の光秀さんとちかちゃんを見る。


「準備ばっちり!」
「(こくこく)」


相変わらず二人はびっくりしたまんまやったけど俺らはもう行く気まんまんなん。
大丈夫こーちゃんと一緒やから心配無いん。


「明智の光秀さん!ちかちゃん!」
……呼んでるぜ明智。
…あなたも呼ばれてますよ鬼。
ぬ?聞いてね?ふたりとも。


あのね。
俺とこーちゃんちょっとお先に安芸に行ってきます。
元就様のところに行ってきます。
あ、でもおにぎりは食べやんと待ってるから早くきてね。


「ぬんぬんではでは行ってきますー!」
「こら真樹緒!」


待ちなさい!
あなた何を勝手な事を…!


ちょっぴりあせった顔の明智の光秀さんに手を振って、俺らを見上げる手を振って。
お船の後ろに走って来たむさし君にもちゃんと手を振って。
大丈夫やから!ってもう一回叫んだ。


それからお願いこーちゃんってこーちゃんを見上げたら周りにふよふよ黒い羽が舞いだした。
だんだんその羽が増えて辺り一面真っ黒。
俺とこーちゃんを包み込む。
たまにほっぺたに羽が触れてくすぐったい。
やあ本当にこの羽どうなってるんやろうね。
たまにこーちゃんの周りをふよっと飛んでるけどじっくり見るのは初めてなん。
手を伸ばして黒い羽に触れてみる。
柔らかいけどしっかりしてて、でも手に取ってみると普通の黒い羽。
カラスのカー君の羽みたい。



「…ふしぎー。」



そんな事をしてたら一瞬のうちに明智の光秀さんとちかちゃん、むさし君の声が聞こえやんようになって。
俺らを包んでた黒い羽が離れていく。
頭の方からふわふわふわふわ。
風にふかれるまま飛んでいって。
それまで目の前が真っ黒やったから羽が無くなってちょっぴり眩しくって目を細めた。
おでこに手をかざしてやっと見えたそこは砂浜。



「…そなた真樹緒か。」
「!元就様!」



それから俺を待っててくれた元就様。
びっくりした顔してる元就様。
俺が会いたかった元就様でした!
ぬーん元就様おひさしぶり!


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あれ、もっと短くなるはずだったんですけれど…!
いつも通りくらいの長さになりました相変わらずですすみませ(汗)
最後までお付き合い下さりありがとうございます。

本当は元就様に抱きつくところまでいきたかったのですが、それはまた次回に。
次回はさっくり巻いて行きたいと思いますちゅー魔が!
ちゅー魔が本当に遠い…!
ちゅー魔のバリエは一応決めているので、進めばさくっと通りたいです。
うわーんもう少しお時間いただきますすみませんぐすん。

  

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