人の話を露ほども聞いていない真樹緒の背中が遠ざかって行く。
坊やと手を繋ぎまるでどこぞへと遊びに行く様な浮かれた背中が遠ざかって行く。
声を荒げたところで聞きやせず、伸ばした手は行き場を失い力無くだらりと垂れた。
真樹緒と同時に駆けだした忍がふとこちらを振り返る。
真樹緒を止めなさいと目で叫んだというのに、あれが親指を立てて頷いたのも私を脱力させるのに十分で。
「……」
何ですか。
あなたに任せておけとでも言うのですか。
そりゃああなたは真樹緒をあなたの命をかけて守るのでしょう。
私の心配など不要なのでしょう。
けれどそれ以前にあなた真樹緒に頼まれたら同じように無茶を仕出かすでしょう私が気付いていないとでもお思いですか。
それなのに何を良い笑顔で私に指を立てているのか…!
「あの子達本当に、どうして差し上げましょう…」
鎌を持つ手がゆらりと揺れた。
ひくりと頬が歪む。
既に誰の姿も見えないそこを睨んで腕に力を込める。
「おい、明智よゥ。」
「何ですか鬼。」
今私少し気が立っていましてねぇ。
それはそれは気分が悪くて。
両の鎌が疼くのですよ。
早く早く己を使えと。
どうしましょう。
私今度坊やを見たら襲いかかってしまうかもしれません。
「落ち着け落ち着け。」
真樹緒が泣くぞ。
それは本意じゃねぇだろうよ。
呆れたように私を見る鬼にちらりと一瞥を。
肩をすくめた鬼に溜息を洩らす。
「何か御用で。」
私真樹緒を探さなければならないので、余りあなたのお相手をしている暇は無いのですが。
言えば「その真樹緒だがよゥ、」と鬼の視線が私から奥へと続く階段へと動いた。
それに倣う様に追って目を凝らす。
何を勿体ぶっているのかと眉を寄せれば。
「むさし君がんばー!!」
「まかせろおれさまさいきょう!」
……
………
「は、」
「でっけーからくりに喧嘩売ってんだが。」
いいのか。
ありァ。
……
………
「いいわけ無いでしょうよ…!」
何をしているんですかあの子達は…!
怪しげな物に触るなと言ったはずですよ何故あの子達は人の話をひとつも聞かないのか!
鎌を持ち声が聞こえた方へ走る。
必死に、そして全力で。
私らしくも無いとよぎった思いはどこか遠くへ飛んで行った。
今の私には真樹緒を見つける事しか頭に無く。
否応にも聞こえる鬼の笑い声を構わず右から左へと聞き流し、何か叫びながら向かってくる兵士を薙ぎ倒し、真樹緒は無事なのかと不乱に。
辿り着いた広間にいたのは。
「にっげろー!真樹緒!」
こいつぶっこわれやがった!
「ぬーん!追いかけて来るんー!」
やあやあむさし君どうしよう!
あのロボット壊れてるのに俺らの事ばっかり追いかけてくるよどうしよう!
……
………
暴走したからくりに追いかけまわされる真樹緒と坊やで。
一体あの大きなそれに何をやらかしたのか、からくりはぎこちない動きでそれでも両手の大筒で真樹緒を狙いながら暴れまわっていた。
「真樹緒!おめーあしおせーぞこっちこい!」
「うわーあ!」
坊やが真樹緒を抱き上げて走る。
ちょこまかと攻撃の合間を縫って。
「かんぜんにやっつけたとおもったんだけどなー。」
「むさし君の攻撃は凄かったよ!」
追いかけられているというのにどこか緊張感の無い二人に溜息を噛み殺した。
そしてそう言えばあの私に指を立ててみせた忍の子はどこにいるのかと辺りを見渡せば真樹緒達とは逆の方向でもう一体のからくりの相手をしている始末で。
「ガガガガガガガ!」
「(しゅっしゅっしゅっ!)」
……
………
「…明智、」
「そんな目で見ないで頂けますか同情はいりませんよ。」
いやに優しげに肩を叩く鬼を見る事も煩わしく鎌を持つ手に力を込めた。
鬼の手を振り払い一歩前へ。
「鬼、」
「あン?」
「忍の方のからくりはお任せします。」
あの子一人でもどうという事は無いでしょうが、真樹緒の事に気を取られ過ぎて本領を出せていない様なので。
「てめェはどうすんだ明智。」
「ふふふ、」
愚問ですよ鬼。
そんなものは聞かずとも。
「まずはあのからくりを。」
それから真樹緒と坊やを捕まえましょうか。
うっかりと坊やに鎌が当たらなければいいのですが。
加減が出来ますかねえ。
「…真樹緒には当てんなよ。」
「私を誰だとお思いで。」
「あァーん?近江のかーちゃんだったかァ?」
おかみってのもあったなそういやあよう。
「お黙りなさいよ。」
「くくくっ。」
槍を構えた鬼の脇をゆっくりと通り抜ける。
目の前には未だかしましく逃げ回る真樹緒と坊や、それに大きなからくりが一つ。
小さく息を吐いて。
「むさしくーん!どうしようあのロボット諦めてくれへんよ!」
「しかたねーなー。」
こーなったらほら真樹緒。
ちょっとこれもて。
「ぬ?なに?」
「おれさまじるしのおくのてだ!」
「石のつぶて…!」
色んな思いでのある石のつぶて…!
どっから出してきたんむさし君ひょっこり出したけど石のつぶていっぱい…!
「おれさまがあいつのこーげきよけながらむかってっからよ。」
真樹緒はそのおくのてをあいつにおもいっきりぶつけろ!
だいじょーぶだおれさまがちゃんとだいててやるから。
「当てたらええん?」
「ぼっこぼっこにしてやれ!」
「ぬん…!」
がんばる!
「そんな特攻やらせてたまりますか。」
「「!?」」
ドォォォォンン!!
両の鎌でからくりの腕をもぎ落した。
火花散るそこを見止め次は首。
そして動く事がならぬ様に最後に足を。
悶える様に地に落ちたそれを一瞥し髪をかきあげた。
からくりと言うよりもがらくたでしたかねえ。
呆気ない。
「怪我は。」
石を投げようとしたそのままの格好で私を見上げる真樹緒と、そんな真樹緒を抱く坊やを交互に見て。
「あああああー!明智の光秀さん!」
ぬん!
明智の光秀さん!
追いかけてきてくれたん?
ぬーんうれしい!
ありがとう!
「可愛い顔をして許されるとでも思ったら大間違いですよ。」
怪我は無いかと聞いているんですこれ以上私を怒らせないで頂けますか。
「にょおおおおお痛い痛い痛いほっぺた痛いー!」
うわーん!
ない!
ないから怪我!
俺もむさしくんもどっこも怪我してへんよほっぺた痛い…!
「真樹緒にあにしやがるおかみてめー!」
「お黙りなさい元凶が。」
「いってぇ!いってぇ!おいこらはなせおかみ!」
ぎゃあぎゃあと騒ぐ真樹緒と坊やの頬をこれでもかと引っ張り眉を上げて見せる。
いい加減になさいよあなた方。
人の話を聞かないどころか自ら敵方に殴りこんで行くとは何事ですか。
坊やはどうなっても構いませんが真樹緒ごと当たって砕けられたら困るんですよ。
挑戦と無謀は違うんですよお分かりで。
真樹緒あなたも初めに私が言った事をどうして聞かないのか。
----------------
長くなったのでわけわけ。
明智の光秀さんは今回一番気苦労が絶えません。
いつものことなんだけれど…!
次回はちょっと離れ離れ。
あにきとどうしても二人っきりにさせたかったのでキネマ主とあにきだけ隠し通路に迷い込んでもらいます。
むさし君がなかなかくせものになってきました。
あの子自分に正直な分、色々やっかいかもしれません。
ちょっとおかみと二人だけで話すところもあるのですが、おかみとむさし君の組み合わせもありかなとも思ったり。
続きはもう書いてあるのですぐにあぷします…!
←book top
←キネマ目次
←top