やってあの政宗様怖いんやもん。
目つきから行動から全部怖いんやもん。
さっきかって何か睨まれたし。
じろりって睨まれたし。
今はちょっとご機嫌みたいやけど、初対面で俺めっさ追いかけられたんやで。
刀いっぱいもって追いかけられたんやで。
俺ちょう怖かったんやから!
そんな俺の切ない気持を片倉さんに訴えつつ、その片倉さんの背中にかくれて政宗様をちょっぴり睨んでる真樹緒です。
こんにちは!


「真樹緒、大丈夫だ。」
「ぬー、でもー。」


出て来いって片倉さんは俺の首根っこをつかんだ。
大きな手は簡単に俺の体を動かしてしまって。

やぁ、かんにん。
引っ張らんとって。
ここからじっと見つめてるから許して欲しいん。
俺、片倉さんに慰めてもらうからええん。

首根っこつかまれたままじたばた。
俺ここにおるってばたばた。
でも片倉さんは許してくれやんくって俺をお膝のところへ持って来てしまう。
そしたらばちっと政宗様と目があって。


「Hey、真樹緒。」
「ぬ?」


なあ、真樹緒。


「俺が怖いか。」


じぃ、って見てくる政宗様はあの変な三日月兜を脱いでとっても真剣な顔なん。
真剣な顔で俺をずっと見てくるん。
真っ直ぐ過ぎて思わず俺の目がきょろきょろ動いてしまう。


怖いって、やってほんまに怖かったもん。
めっさ恐ろしい形相で追いかけてきたんは政宗様やんか。
待てーって刀振りかぶってたん政宗様やんか。
俺の心はトムソンガゼルやったんやからね。
あの時、お馬で揺れるわ政宗様が怖いわ俺たいへんやったんやからね。
トムソンガゼルがチーターに勝てる訳無いんやで!


「やって…」
「Ah?」
「政宗様何か怒ってるやんか。」


俺なんにもしてへんのに。
森歩いてて、片倉さんのお馬見つけて仲良ぅしとっただけやのに。
それやのに突然政宗様がひょっこり出てきて恐ろしい顔で追いかけてきてやぁ。
俺のお話も聞いてくれやんかんじで。
ぬん、顔見た瞬間逃げた俺も悪かったけどやあ。


「片倉さんの事心配してたってゆうんは分かってるけど。」
「真樹緒…」
「…政宗様怒ってるやんか。」



怖いってゆうか。
人が怒ってたら、全体的にそういうふんいきに見えるやん。
政宗様の顔はね、イケメンやと思うん。
ちょうカッコイイと思うん。
片倉さんとはまた違ったタイプの男前かげんやと思うん。
羨ましいなーなんて思ったりもするん。
でも怒った人ってちょっと近寄りがたいやん。
怖いやん。

小さくぼそぼそ呟いたら片倉さんが俺の首から手を離してくれた。
ぼふ、って体をついたのは片倉さんの膝。
あぐらをかいた片倉さんの膝の上で「俺やっぱり間違ってない」って、むむむって政宗様を見上げたんやけど、政宗様な、さっきまできりっとしてた目を思いっきり見開いてて。


ぬん?
あれ?
俺何か変なこと言うた感じ?
口滑らしてもうた感じ?
もしかしてトムソンガゼルのくだり?
やってトムソンガゼルは絶対にチーターに勝たれへんねんよ?
細いし。
でもたまに急ブレーキかけて曲がったりするし、やるときはやるんやでトムソンガゼル!


「真樹緒。」
「ぬん?」


政宗様が俺の顔を覗き込んだ。
見開いてた目はもうさっきよりも大きくなかったけど、でも政宗様の顔はこわくなかったん。
怒って無かったん。
眉間に皺とか寄ってへんし、さっきみたいに恐ろしい笑い方でもなかったん。
何かね、ものすごい優しい顔で。
俺の方がびっくりして目ぇぱちぱちしてしまうぐらいに優しい顔で思わず声が漏れてしまう。



「わー…」



やあやあ政宗様。
なあなあ政宗様。
そっちの顔のが絶対いいよ。
絶対かっこういいよ。
可愛いよ。
笑ってる方の政宗様の方が俺すき!

男前やしね、何かちょっと可愛らしいん。
やっぱりコワモテさんが笑うとかわいいんやねえ。
癒されたよ俺!


「真樹緒。」
「なん?」


政宗様の手がぽんって俺の頭に乗せられてぐりぐりまぜられる。
ぐりぐりまぜてわっさわっさまぜられる。
凄い力!
なにこの力!
ちょっと痛い!


「悪かった。」
「ぬん…?」
「政宗様…」


片倉さんが息を吐いた。
それも何か柔らかい感じのあったかいため息で。
ほっ、て片倉さんの胸が揺れる。
なに?って見上げてみたら片倉さんに笑われてしまった。


えー何?
何やのその笑顔どうしたん。
何で笑ってるん。
やあ、その顔好きやけど。
片倉さんのその笑顔俺のお気に入りやけど。
やあほら、片倉さんが可愛いく見えるから。


「真樹緒。」
「はい?」
「小十郎は俺の大事な右目だ。」
「うい、」


政宗様の大事な大事な家臣なんやって。
政宗様の背中を守る無くてはならん人なんやって。

ぬんぬん知ってるん。
分かってるん。
片倉さんからも聞いてたけど、俺見ててもちゃんと分かったよ!
やって政宗様は片倉さんのために怒って、片倉さんのために必死になって。
俺、政宗様は片倉さんの事家臣とかそんなん別に関係ないとこで大事なんやなぁって思ったん。
やから政宗様と片倉さんがまた会えてとってもよかったなって思ってるん。


「よく助けてくれた。」
「へへー…」


やんわり笑った政宗様の手ぇが離れて俺のほっぺたを撫ぜた。
うりうりうりってなでられてちょっぴりくすぐったい。
ちょっぴり照れ臭くって、けらけら笑いながら顔だけ逃げたら今度は片倉さんに捕まってしまう。
暴れるなって頭をぽんっておさえられてしまう。
やあ、片倉さんのお膝におったから全体的に逃げれやんかんじなんやけど!

それからゆっくり離れて政宗様の目が俺を見る。
ちょっとさっきみたいな真面目な顔になって両手をあぐらの上に乗せた。


「奥州筆頭として丁重に礼を申し上げる。」
「まさむねさま?」
「真樹緒。」
「ぬ?」
「Thanks.」


そして座ったままぺこりと俺におじぎをした。
政宗様の可愛いつむじが見える。


俺は目をぱちぱち。
首をきょろきょろ。
見上げた片倉さんはまだ笑ってて。
俺はもう一回政宗様を見た。



「え、と…」


それから
そうっと足と手を出して。


よじよじ。
よじよじ。


片倉さんの膝からはなれて政宗様のとこへ。
静かにそおっと政宗様のとこへ。
四つんばいでこっそり近づく。
四つんばいになったまま政宗様のとこ着いて、まだ頭をぺこっと下げてる政宗様を覗き込んだ。
目ぇ瞑ってたからちょんちょんそのほっぺたつっついて。


「真樹緒?」
「へへ、」


ぱっちり目を開いた政宗様にへらり。
なぁ、なぁ、政宗様こっち見てってへらり。

仲直りやで。
仲直りしよう。
俺もう政宗様の事怖くないん。
全然怖くないん。
政宗様が何で怒ってたんか分かったから。
大事な人の事で頭いっぱいやったんやろう?


「俺も、逃げてごめんなさい。」


ほら政宗様仲直り。
握手するよ、って右手を出して。
そうしたらまた目を見開いてしまった政宗様にきょとんてしたら、後ろから片倉さんの噛み殺したような笑い声が聞こえて振り返った。


うん?
なに?
政宗様?
片倉さん?

あれ?
握手は?


「くく…」
「かたくらさん?」
「真樹緒、」
「なん?」
「てめぇはでっけぇ男だな。」
「う?」


政宗様は固まったまんまやし。
片倉さんは笑ったまんまやし。
ゆうてる意味もよう分からんし。

俺でっかい?
背の順いつも一番前やで俺。



「ぬん…」



なんだかとっても居心地が悪いです真樹緒です。
俺一人おいてけぼりなんやけど真樹緒です。
仲直りしようってゆうてるのに俺が空気読めてない感じです真樹緒ですまじで誰かたすけて…!

  

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