「おまん、真樹緒ゆうたか。」
「ぬ?」
「なんして薩摩に武器なんど作りにくっとね。」
「ぬん?」


島津のじっちゃんがおひげを撫でながら首を傾げて俺を見下ろした。
それからもう武器ば持っとらんねって言って明智の光秀さんの刀と、ただいまむさし君と勝負まっただなかのこーちゃんを見る。


武器。
明智の光秀さんとこーちゃんの武器。
ぬんぬんあのね!
じっちゃん聞いてくれる?


「俺らこれから皆でザビー教ってゆうとこに行くねんで!」


あのね。
元就様を迎えに行くん。
元就様はね、ザビー教ってゆうとこに連れていかれたらしくって心配したお国の人があにきのところへお願いにきたん。
あ、あにきってゆうんは四国におるあにきの事でね。
えーっと、名前は長くって。
とっても長くって覚えるんが大変やねんけど。
ぬん、何やっけ。


長曾我部元親。
「そう!ちょうそかべもとちか!」
「おや言えましたね。」
「がんばった!」


ほんでそのあにきが元就様を迎えに行ってくれるってゆうから俺も一緒に行くん。
俺だけやないねんで。
こーちゃんも明智の光秀さんもついて行ってくれるん。
でもね、明智の光秀さん今ちょっとじじょうがあって武器なくって。
あ、もともと明智の光秀さんの武器はカマで他の武将さんとは違って特殊なん。
今はあにきから借りた刀持ってるけど実はいっつも持ってるんはカマなん。
でっかいカマ二本持ってるん。
武器ってこれからずっとお世話になるもんやし、やっぱり今まで使ってたのと同じ方がええやん?
やからあにきが薩摩のお国にはとっても腕のいい鍛冶師がいるぞって教えてくれてね、やってきたんやで。
新しいカマ作ってもらうん!


「ザビー教?」
「じっちゃん知らん?」


明智の光秀さんのお膝から起き上がって、もう一回じっちゃんの前で正座。
やっぱりずり落ちて来るてぬぐいを上にあげてお話する。
やあ俺もよう分かれへんの、ザビー教。
教ってゆうぐらいやから教会でお祈りしてるイメージなんやけどねー。
どうなんやろうね。
でも元就様を連れ去るぐらいやからとっても強い人等の集まりかもしれへんよ!


「元就様って強い武将さんなんやろう?」
「そうですね、中国を治めているぐらいですから。」


私はお会いした事はありませんがね。


「ぬん、心配よねー。」


無事でおってくれたらええねんけど!


「真樹緒ばその毛利とは知り合いね?」
「ぬ?ううん。」


あった事はないよ?
お話に聞いただけ。
でもほら心配やん?
連れ去られたってゆうし。
他の兵士さんもおらんようになったってゆうし。
やから俺も一緒に迎えに行こうと思って。
それに明智の光秀さんもこーちゃんも着いて来てくれるってゆうしね。
こころづよいやろ?



……
………



こっげな事いっとるど。
ええ事実ですから。
「よー、おまはんがそげな気ィおこしたね。」
「これが行かなければ誰がそのような得体の知れない所に行きますか。」


私は毛利にも長曾我部にも興味はありません。
ましてや関係もありません。
行った所で私への利など何もない。
けれど。


「言っても聞かないのですから仕方が無いんですよ。」
「ぬ?」
「がっはっは真理ねー!」


明智の光秀さんが俺のずれたてぬぐいを巻き直しながらため息を吐いた。
動くんじゃありませんよって言いながら頭を支えてくれる。
その手はとっても優しいんやけど。
あれえ?
今日二回目?
ため息二回目?
そんなため息吐いてたら幸せが逃げてしまうよ?
どうしたん?って見上げたら何もありませんっててぬぐいをきゅって縛ってくれた。
痛くありませんか。
具合の悪い所は。
そんな事を聞いてくれながらも素敵なてさばきでずれてたてぬぐいは元通り。
しかいりょうこう!
ありがと!って明智の光秀さんにお礼を言ってたらじっちゃんと目があった。


「おまんは面白かーわっぱよ!」
「ぬ?」


ほんでやっぱりがっはっは!って笑われる。
俺は何でか分からんくって首をきょとん。
でもじっちゃんは笑ってばっかり。
明智の光秀さんの方を見ても美人おかみなみつあみを揺らすだけで目を合わせてくれへんし。


ええー。
何なん二人とも。
俺なんか一人だけちょっとおいてけぼりやんか!
ぬん!


「おいおめー!」
「ぬ?」
「おめーだおめー!」
「やあむさし君!!」


俺が島津のじっちゃんと明智の光秀さんの顔をきょろきょろ見渡してたら縁側の屋根からひょっこりむさし君が顔を出した。
やあやあやあそんなとこから一体どうやってー。
頭に血のぼったりせえへんねんやろうか。


「もうこーちゃんとはええのん?」


気すんだ?
こーちゃん怪我してへん?
あんまりなことしてたら俺おこるよ!


「おめー今つえーやつっていっただろ!」
「ぬ?」


ゆうたっけ?
つえー奴?
あれ?
てゆうかむさし君俺のお話はスルー?
こーちゃんのお話スルー?

ちょっとせちがらいんやけど…!


「あ、ザビー教のこと?」
「ざ?」
「ザビー教。」


ぬんぬん。
そうそう。
ザビー教ってゆうとこにおる人らが強いんちがうかなって俺思ってるん。
やって元就様が連れ去られたんやもん。


「おめーらそこいくのか?」
「うい!」


やって俺らそのために薩摩のお国にも来たんやで。
ほら武器作らなあかんから。
強い人がおったら大変やから。
もちろんそのままでも明智の光秀さんとこーちゃんは強いけど、武器あった方がひゃくにんりきやん?
いい鍛冶師さんが薩摩のお国におるって聞いたんやで。


「………、」
「むさし君?」


俺がお話してるのに急にむさし君が黙りこんでしまった。
腕を組んで(やあほんまさかさまやのにどうやってるんやろう)目をつむって、うんうん頷きながら黙ってしまった。

あれ?
またスルー?
俺のお話スルー?
ぬーん。
どうしたんむさし君。
だいじょうぶむさし君。
お話してる時はちょっとでもいいから俺の方見てくれると嬉しいんやけどむさし君。
俺いまとっても寂しいでむさし君…!


「よっし!」
「ぬ?」
「おめー!」
「?俺?」


おれ真樹緒。
ちゃんと名前でよんでくれると嬉しいわ!


「おう真樹緒!」
「うい!」
「そのざびーなんたらってやつんとこおれさまもいってやらー!」
「!!」


ええええ!
まじで!
むさし君も一緒にきてくれるんまじで!


「おれさまについてこい!どんなやつでもおれさまがかつ!」
「むさし君たのもしい!!」
「あったりめーよー!」


屋根からくるくる!って回転しておりてきたむさし君は胸をはって自信満々に船のオールを振りまわした。
びしぃぃぃ!ってオールで海の向こうを差すすがたが決まってるー!
まかせとけ!って笑うむさし君は俺と同い年ぐらいやのにとってもたのもしい!
ちょうたのもしい!
やあやあ背も結構おんなじぐらいやのにね。
サイズとかも結構似た感じやのにね。
ちょびっとむさし君の方がおっきいけど!


「あ、でもおめー真樹緒。」
「なに?」
「おめーはよえーんだからおれさまからはなれんなよ。」


つえーやつはおれさまがぶっとばしてやっから。
真樹緒はおれさまのうしろをはぐれねーようについてこい!
かってにいなくなるんじゃねーぞ!



……
………



むさし君たのもしい…!!


ちょうたのもしい!
てゆうかちょうかっこいいおとこって感じ!!
俺には持ってない何かにあふれてるかんじ!
男前!
俺と同い年ぐらいやのに男前!


ぬんぬんありがと!
ありがとうむさし君!


「明智の光秀さん!むさし君一緒にザビー教へ行ってくれるんやって!」
結構です。
ぬーん!!
「なにー!!」
「ええええな、なんで…!」


明智の光秀さん何で。
むさし君ちょうたよりがいあったで今。
とっても男前やったで今。
ちゃんと見てたん聞いてたん!!


「おめー!このみやもとむさしさまがいってやるってのになにがふまんだー!」
私の負担が増えるのが目に見えていますので。


ただでさえ後先考えずのこの子がいるというのにあなたの面倒まで見ていられますか。
着いて来て頂かなくて結構。
真樹緒は私と忍が守ります。


ぬーん…


明智の光秀さんが美人おかみらしくクールにむさし君をあしらって。
むさし君が明智の光秀さんにオールをつきつけて。
島津のじっちゃんががっはっはっは!って今日いちばんの大きな声で笑って。
こーちゃんが、


「(しゅしゅしゅしゅしゅ!!)」
「あにすんだおしのび!」
「あ、こーちゃんおかえりー。」


こーちゃんが大量のクナイを投げて。
島津のじっちゃんのお庭とこのあたりのふんいきは何ともいいがたいふんいきです真樹緒ですあれでもどうしようこの空気感おれ一人やったらなんともできやんのやけど…!
てゆうか俺むさし君も一緒にザビー教に行ったらええと思うんやけどちょうこころづよいと思うんやけど…!
このあたりのふんいきがそうさせてくれない感じですどうしよう!
ぬーん!


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武蔵くんがついてきてくれる事になりました。
大丈夫近江のお母さんがあんな事言ってるけどちゃんとついてきてくれるよ!

初めの方の小太郎さんのバシッ!は何じぶんの主をしょんぼりさせてくれてるんだこのやろうのバシッ!です。
イラっとしました小太郎さん。
じぶんの目の前で主をしょんぼりさせるなんて事は許されないのです。
でも武蔵君は悪気なんていっこも無いのですよ。
思った事を言っているだけで。
考えずに口に出すから悪態に聞こえるけれど本人は自分の言葉には自信をもって信念を込めて言っています。
はからずもニルの武蔵君はちょっとお兄さんタイプ。
頼りがいはあるけれど結果がともなうかはその場次第なのです。

でもきっとザビーさんところなら大丈夫と思います。
キネマ主を引き連れてザビー城を走り回って美人おかみに怒られます。
多分アニキにも怒られます。

次回はキネマ主と二人で普通に町へ繰り出します。
武器作るのと、親睦を深めるのと、お土産買うのと。
はやくザビー教へ行きたい武蔵君の手をひっぱってお買いもの。
四国に帰るのはその後ですが、帰ったらアニキに「増えてねえか」ってつっこまれまする。

  

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