「がっはっはっはー!おまんの負けよー武蔵!」
「じっちゃん!」


……
………


ぬ?


明智の光秀さんがむさし君を柵の中にとじこめてしまって、美人おかみもまっさおなセリフで俺をびっくりさせてくれてた時、すぐ後ろでごうかいに笑う声がした。
何だかちょっぴりなまったしゃべり方がとっても優しい感じがして振り返る。
こーちゃんの肩越しに振り返る。
振り返った先におったんはおやかた様とおんなじぐらいにでっかいおじいちゃんでした真樹緒ですこんにちは!!!


「…鬼島津。」
「うちの小僧がワリかったのー。」


よっく言い聞かっせっど、大目に見てくれんね。


やあ、あのね。
何かね。
お山みたいなおじいちゃんやったん。
でっかくて。
背中に背負ってる刀もでっかくて。
やあ刀っていうかまるでのこぎりやけどあれ。


ぬん。
そのおじいちゃんが実は明智の光秀さんがさっきいうてた島津さんらしいん。
なんとかっていう技?の使い手の島津さんらしいんよ。
俺すごい人やとは思ってたけどまさかお山みたいなおじいちゃんがやってくるとは思わなくって目をぱちぱち。
がっはっはーって笑いながらやってきた島津のおじいちゃんは「大事なかねーわっぱ!」って俺の頭をぐりぐり撫でた後、むさし君を捕まえてる明智の光秀さんに頭を下げた。
「放してやってくれんね」って明智の光秀さんにぺこって頭を下げた。


あたりがしんって静まり返る。
叫んでたむさし君も黙ってしまう。
明智の光秀さんは目をおっきくした後ため息を吐いて。


「…あなたに頭を下げられる日が来るとは思いませんでした。」
「オイもこっげなとこでおまはんに会うとは思いもよらんかったね。」


明智光秀どん。
噂ばかねがね。
大人どうしの短い会話があって。


ぬん。
その後どうしてだか島津のおじいちゃんのお屋敷にお呼ばれしました。
何やおわび?ってゆうてくれたんやけどね、俺は全然気にせえへんよってゆうたんやけどね、でもおじいちゃんがおいでってゆうてくれたん。
連れて行ってもらったお屋敷はお外の景色はとっても南国やのに中はとっても素敵な日本家屋です!
畳のいい匂いがするお部屋で石のつぶてがあたったおでこを、石のつぶてを投げてたむさし君に手当してもらいながらもう一回真樹緒ですよこんにちは!


おでこ。
やっぱりはれてたみたいでね、赤くなって膨らんでるんやって。
むさし君はさっき船のオールや石を振りまわしてたとは思えやんぐらいの丁寧さで俺の頭を冷やしてくれてるん。
てぬぐいをぬらして、そおっとおれの頭に巻いて。
その上からさらに大きいてぬぐいをゆうるく結んでくれた。
むさし君は自分がなげたから自分が手当てする!ってゆうてくれたんやで。
やさしい!


「わるかったなーまだいてーかー?」
「ぬんぬん、へいき。」


あたった時はちょう痛くって頭割れそうやったけど今はもうへいき!
むさし君が心配そうに顔をのぞき込んでくれるから俺はそれににっこり笑って首をふった。
やあほんまにもう大丈夫やで。
ひりひりはしてるけどむさし君に手当てしてもらったし!
ありがとうむさし君!


「でもおめーもワリーんだかんな。」
「ぬ?」
「よえーくせにおれさまのまえに出てくんなあぶねーだろ!」


おれさまはさいきょうだからてかげんなんてできねーぞ!
よえーんならすぐにげねーと。
おまえばかだなー!


ぬん…


やあ、おれ。
むさし君の前にでたつもりは、ぬん。
ないんやけど、なー。
落とし穴におちてちょっとずぼって落ちて、それで、
明智の光秀さんとこーちゃんどうしてるっかなって、
むさし君が何やしんぱいしてくれてるんは分かるんやけど。

ぬん。
おれ、おれ、
何かちょっとっへこんだってゆうか。



「ぬん、」



……
………



(…)



ビシッ!!!!!



「いってー!!!」
「こーちゃん!?」
見事です忍。
「明智の光秀さん!?」


びし!って俺に人差し指を立ててりきせつしてたむさし君が頭を押さえて畳に沈みこんだ。
しゅうしゅう頭のてっぺんから白いけむりを出して倒れ込んだ。
やぁこーちゃんが思いっきりむさし君の頭ちょっぷしたからやねんけど。
何だかとっても怒ってるこーちゃんがむさし君の背後から思いっきり手を振りおろしたせいなんやけど。
ちょう痛そうな音といっしょに叫んだむさし君はちょびっと涙目になりながら畳をごろごろ転がっていますだいじょうぶむさし君!


「あにすんだー!おめー!」
「(ぷい)」
「自業自得とはまさにこの事ですよ。」


うちの子を何だと思ってるんです。
馬鹿にしないで下さいますか。


「なんだとー!」
「がっはっはー!おまんもまだまだよー武蔵!」


俺らがおるお部屋の縁側でお茶を飲んでた明智の光秀さんと島津のじっちゃんが振り返って笑う。
じっちゃん。
むさし君が島津のおじいちゃんの事をじっちゃんって呼ぶから俺もじっちゃんなん。
島津のじっちゃん。
そのじっちゃんと明智の光秀さんは俺らを見ながら肩を揺らして笑ってた。


「ちぇー!」
「むさし君だいじょうぶ?」


ぬん。
こーちゃんほら、伝説のお忍びさんやから。
俺のおよめさんとっても強い伝説のお忍びさんやから。
ちょっぷの威力もはんぱないっていうか。
そりゃあもうきっと痛いんやろうなって思うんやけど。


「こいつつえーの?」
「ぬ?こーちゃん?」


うい。
ちょう強いよ!
やって俺のこーちゃんやもん!
伝説のお忍びさん風魔のこーちゃんやねんで!


「よっし!でんせつのおしのび!おれさまとしょうぶだ!」



……
………



(…)
……ぬ?


さっきまでおでこ押さえてごろごろ転がってたむさし君がきゅうにぴたっと止まって立ちあがった。
立ちあがったってゆうか素敵なブリッジで飛び上がった。
しゅうしゅう煙が出てる頭のてっぺんも何のその、目をとってもきらきらさせてこーちゃんを見てる。


あれ?
あれ?
むさし君。
だいじょうぶなん頭のてっぺん。
さっきまでちょう痛そうに畳の上ころがってたのに。

ぬん、やあでもね。
でもねむさし君。


「あのね、むさし君。」
「あん?」
「こーちゃん怪我してるん。」


もうなおりかけなんやけどね怪我してるん。
やから勝負とかあんまりおすすめしたくないねんけどなー俺。
やってこーちゃんの怪我まだ完治した訳やないん。
大事にしてほしいし。
また傷がひらいたら俺かなしいん。


「おめーのおしのびはけがしたぐれーでよわくなんのか?」
「ぬ?」
「つえーならけがなんてきにしねーもんだ!」
「(しゃきーん)」
あれ?
「おっ!そのきになったなおしのび!」
あれ?


こーちゃん?
むさし君?
あれ?


「いくぞおしのび!おれさまさいきょう!」
「(しゅばばばばばばば!!)」


えええー!!!


こーちゃーん!!
むさしくーん!!
どこいくんー!!!
待って!
特にこーちゃん待って!
こーちゃんまだ怪我完璧になおってへんよちょとまって!
さっきゆうたよね俺かなしいって…!
ぬーん!


二人の名前を叫んで、待ってって叫んで、手を伸ばしたのに二人の姿はもうどこにもなくって。
すぐにお外の方から何やぶっそうな音がいっぱい聞こえて来て。
ががががって地面がえぐれてるのも見えて。
こーちゃんのクナイが飛ぶのも見えて。


「ちょっと待ってって言うてるのに…」


おれ、おれ、お願いしたのに。
待ってって言うたのに。
もう。
二人とも、お話いっこもきいてくれへんのやけど、もう…!


「明智の光秀さん、こーちゃん俺のお願いきいてくれへんー!」


どうしよう!
ねえ!
どうしよう!


「あの子は堪えていたものもあるでしょうしねえ。」


忍はあなたの頭に石を当てられた事に腹が立っているのですよ。
したい様にさせてやりなさい。


「オイの屋敷ば壊すでねぇどー!」


ほどほどにのー。


「明智の光秀さんも島津のじっちゃんもまったりしすぎやで!」


お茶飲みながら笑ってる場合やないよもう!
ぬん!
ずり落ちてくるおでこの手拭いを押さえながら明智の光秀さんのところへよじよじ。
島津のじっちゃんにぺこって頭を下げて明智の光秀さんの傍へよじよじ。


「見てるばっかりやなくって止めてくれたらいいのに。」
「あなたが止められないものを私が止められると思いますか。」
「ぬん、」
「忍なら放っておいても大丈夫ですよ。」


怪我を負っているといえども坊やでは敵いません。
ですからあなたはそろそろこちらの方にご挨拶を。


「島津のじっちゃん?」
「…島津殿です。」
「よかよか!よかね!」


オイはかたっ苦しい事ば好かん!


がっはっは!って島津のじっちゃんは笑ってくれた。
俺を見ながらおっきい声で笑ってくれた。
でも、ぬん。
そうよね、初めのご挨拶ってかんじんよね。
それにそう言えば俺島津のじっちゃんにご挨拶してへんかったよね!
ぬんぬんそれでは。
じっちゃんの前に正座してそれでは。


「島津のじっちゃん!」
島津殿。
「島津どの!」
「ぐはははは!」
「俺の名前は真樹緒です!」


ぬん!
薩摩のお国へはさっきお船でこーちゃんと明智の光秀さんとやってきたん。
二人の武器を作ってもらいにきたんやで。
今は四国のあにきのとこでお世話になってるん。
どうぞよろしくお願いします!


「元気があってよかねー。」


オイの名は島津義弘。
この薩摩を治めやっで、よろしく頼もうど。


「こちらこそー。」


ぬーん。
こちらこそー。
島津のじっちゃんが笑って俺の頭をぐしぐし撫でてくれる。
巻いてあるてぬぐいをちゃんと避けて。
でっかいてのひらは俺の頭を簡単につかめるぐらいあって、俺は体ごとぐらぐら。
明智の光秀さんの前でぐらぐら。
おっきな手が離れた時にはちょっと目が回って明智の光秀さんのお膝にたおれこんだ。


「目ぇまわっちゃったー。」
「島津殿の前で失礼ですよ。」
「よかよか、」


俺の髪の毛をさらっとよけながら明智の光秀さんがため息を吐いた。
手ぬぐいの上からゆっくりやさしくおでこを撫でてくれる。
俺はじっちゃんが笑ってるのも気にせんとそのまま目をつむって。


「やって。」


やーって。
やって!
明智の光秀さんこーちゃんとむさし君止めてくれへんかったんやもん。
俺の事お助けしてくれへんかったんやもん。


「それと何の関係がありますか。」


明智の光秀さんがちょっと困った様に息を吐いたのも気づかんふり。
おでこを撫でてくれる手は止まれへんから多分ちょっぴり呆れられただけ。
やからまだ目をつむったまま足をばたばた。
お行儀が悪いですよって言われたけど俺はちょっと拗ねてるんやもん。
やからちょびっとぐらいお行儀が悪くっても負けへんねんもん!


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切り目がここしかなかったので一区切り。
すぐに続きまする…!

  

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