「そうだなァ、」
よォ真樹緒。
「ぬ?」
「お前だけなら乗せてやってもいいぜ?」
それとお前の忍とな。
……
………
「ぬ?」
え、何で?
何で俺?
てゆうか何のお話?
俺のお話聞いてってゆうお話やったと思うんやけど急にそんなんゆわれても一体何なんかが俺わかってないってゆうか。
ぬん?
あにきがあんまり突然にお話ふってくるから、ちょっと置いてけぼりの真樹緒ですよ。
首をかしげながらこんにちは!
俺とこーちゃん?
お船に乗れるん?
二人だけ?
なんで?
「……明智の光秀さんは?」
首を右に傾げて言うたらあにきが首を左に傾げて笑う。
大きい声で笑いたいのを我慢してるみたいに喉を鳴らして。
何で明智の光秀さんが一緒やないんが分からんくって俺のまゆげがへの字やのにくっくっくって笑ってばっかり。
あにき。
あにき、なぁ。
俺のお話きいてた?
何回も呼ぶんやけど、あにきがいっこも教えてくれへんから今度は明智の光秀さんを見て何で、って。
明智の光秀さんだけ仲間外れやで何で、って。
でも明智の光秀さんは呆れたようにため息を吐いただけ。
「あけ、」
「くっくっくっ、」
「、あにき…?」
「理由はそうだなァ、」
てめェの主を正面から裏切る様な野郎に乗せてやる船はねェよ。
あにきが砂浜に刺さってたイカリをぐって持ち上げた。
イカリについてる鎖が空にゆっくり舞いあがってあにきの肩へ。
「さぁどうする。」
楽しそうに、楽しそうにあにきが明智の光秀さんにイカリを向ける。
尖ったさきっちょがぎらぎら。
俺はあにきが何でそんないじわる言うんか分からへんくって。
やって。
やってやで。
明智の光秀さんが蘭丸君のお父さんと色々あったかもしれへんけど。
それは明智の光秀さんにもじじょうがあって。
やぁ、どんなじじょうかは分からんけど、あって。
それはあにきとは別のことで。
何であにきがそれを言うんやろうって。
言うていじわるするんやろうって。
俺はなんかすごいくやしくなって明智の光秀さんの手を掴んだ。
俺に気付いた明智の光秀さんはちらって俺を見た後いつもと同じ様に頭をぽんぽん撫でてくれる。
あれが妥当な反応ですよって言いながら。
「…分りましたそれで構いません。」
「え、」
「真樹緒をお願いします。」
「明智の光秀さん?」
「真樹緒。」
「?はい?」
明智の光秀さんがまた俺の頭をぽん。
ぽんぽんぽん。
それから耳のうしろをぐしぐし。
「よくお聞きなさい。」
「、はい。」
西海の鬼、長曾我部元親は四国をその領地としています。
その鬼が急ぎ自国へ戻る程の用向きに心当たりがあるとすれば、長年諍いが絶えない毛利との関係に何かあったと考えるのが妥当でしょう。
いいですか。
あなたが目指すのはあくまで甲斐です。
四国へ到着したらあなたの忍の言う事をよく聞き甲斐へ向かいなさい。
間違っても長曾我部と毛利の問題に首を突っ込むんじゃありませんよ。
「あけちの、」
「四国から甲斐までは遠い。」
「あけ、」
「真樹緒。」
「あ、」
「ご無事で。」
俺の髪の毛を綺麗に整えた後、明智の光秀さんが「出航するならお早く」ってあにきを呼ぶ。
呼ばれたあにきはびっくりした様な顔で俺と明智の光秀さんを見てるし。
俺にかんしてはそのお話にびっくりやし。
……
………
「ぬん…」
やぁ、ちょっと。
明智の光秀さんちょっと。
あのね、さっきから俺すごいおいてけぼりなんやけどちょっとまって。
今のお話聞いてたら何か俺だけお船乗る事になってない?
俺とこーちゃんだけがお船乗る事なってない?
あれ?
何で。
「……、」
ちょっと、明智の光秀さん。
どういうこと。
明智の光秀さんお船乗らんの?
一人でここに残る気なん?
ここ、森と砂浜しか無いかんじの島やのに?
あにきがあんな事ゆうたから?
「あにき。」
「…どうした。」
「明智の光秀さんお船乗ったらあかんの?」
なんで?
明智の光秀さんが蘭丸君のお父さんを裏切ったから?
危ない事したから?
でも、それはね。
さっきも俺思ったんやけどね、それは明智の光秀さんと蘭丸君のお父さんのじじょうで。
俺もあかんやん!ってゆうてもうたんやけど、よう考えてみたら二人のじじょう俺なんも知らんし、くち出しできる問題ちがうなって思うん。
でも、くち出しせんでもいいと思うん。
「やってね、明智の光秀さんと蘭丸くんのお父さんは色々あって仲が悪いんかもしれやんけど、俺は明智の光秀さん好きやねんもん。」
俺と明智の光秀さんは俺と明智の光秀さんで。
蘭丸君のお父さんと明智の光秀さんは、蘭丸君のお父さんと明智の光秀さんなん。
わかる?
これ、すごい大事な事やねんけど、二人の明智の光秀さんはおんなじやけど違うんやで。
俺が知ってる明智の光秀さんは俺の傷の手当てをしてくれたん。
蘭丸君のお母さんから守ってくれたん。
けがしてるのにね、先に逃げなさいって俺を庇ってくれたん。
近江のお母さんなん。
蘭丸君のお父さんにはちょっと、ぬん、けっこう、ごめんなさいやねんけど、俺はね、明智の光秀さんが一緒におってくれて嬉しかったってゆうか。
あにきと明智の光秀さんは初めましてやろう?
初めましてってとっても大事やと思うん。
明智の光秀さんとあにきの始まりやで?
やからね、えーっと、あんまりうまく言えやんけど、俺あにきにそんないじわるゆうてほしくないなって思ってて。
俺の近江のお母さんにそんなんゆわんとってほしくないって思ってて。
明智の光秀さんとあにきは、俺と蘭丸君のお父さんの明智の光秀さんとはまた別で…。
ぬうー、やっぱりうまく言えやんくて分りにくいけどとりあえず一番言いたいのはね。
「…俺、明智の光秀さんがお船乗れへんのやったら、俺も乗らん。」
「真樹緒、あなた何を言って。」
「ぬん、」
あのね明智の光秀さんきいて。
名前を呼んで明智の光秀さんの着ものを引っ張った。
ちゃんと目も合わせて。
お話聞いて欲しい時は相手の目を見るんだよっておシゲちゃんもさっちゃんもゆうてたもん。
「明智の光秀さん、あのね。」
ほら、あにきは、ほら。
いくらあにきってゆうても初めましてやし。
明智の光秀さんは俺の近江のお母さんでね、話せばやっぱり長くなるんやけど俺あにきと明智の光秀さんとやったら、その、大事なお母さんを選んじゃうってゆうか。
お母さんと一緒にいたいってゆうか。
ぬん。
初めましては大事やってゆうたけども、初めましての前の出会いもすっごく大事やと思うし。
それにお母さん怪我してるし。
手当もしたいし。
せっかく乗せてくれるってゆうたのにほんま、ごめんなさいでね謝らなあかんねんけど。
「あにきも急いでるみたいやし俺とこーちゃんと明智の光秀さんで何とか甲斐まで帰ろう!」
ぬん!
俺がんばる!
なぁなぁあにき!
あにきのお船にも乗ってみたかったけど、それはまた今度どっかで会ったときにお願いするな!
ほんまにありがと!
「やからね、明智の光秀さんそんな寂しい事言わんとってや。」
俺悲しくなるやん!
俺、明智の光秀さんとばいばいする気なんかいっこもないよ!
もー。
何でも勝手に決めちゃうんだからー。
俺に相談してくれたらいいのにいっつも自分だけで決めちゃうんやからー。
「こどもかって、意外にいろんな事かんがえてるんやで!」
やからちゃんと俺のお話も聞いてね!
俺がむん!って胸をはってみたら、明智の光秀さんとあにきがこっちを見ておっきく目を見開いてた。
おっきく目を見開いて瞬きぱちぱち。
ぬ?
びっくりしてる?
何で?
俺変な事ゆうた?
ぬん?
こーちゃんこーちゃん、何で二人びっくりしてるんやろう。
あにきも明智の光秀さんも何かおかしいよ。
あれ?
「(…)」
こーちゃんを見上げてもこーちゃんは何だか嬉しそうで俺をぎゅうぎゅう抱きしめてくれるだけ。
背中をお守りしてくれてたこーちゃんが俺の頭を撫でてやっぱりぎゅうぎゅう抱きしめるだけ。
やぁ、こーちゃんのぎゅうはあったかくて気持ちいんやけど今度は何でこーちゃんがご機嫌なんかが分からんくって俺はまたきょとん。
何だか不思議な空気が続いて俺がそわそわ。
どうしよう。
この不思議な空気感どうしよう。
何かつっこんだらええんかわからんけど、何をつっこんでいいんかも分からん空気ってすごいつらい…!
どうしよう!!
俺がそんな事考えて焦ってたらあにきが突然笑いだしたん。
「くっくっくっ!!」
「ぬ?」
「はーっはっはっは!!」
「あにき?」
それはもう豪快に大笑いしたん。
……
………
あにきって、結構突然笑うよね。
ちょっと前にも笑ってたよね。
腹の底から笑ってるよね。
でも何で笑ってる何かおかしな事言うたやろうか俺…!
「真樹緒よう!」
「俺?はい?」
「俺ァ、お前が気に入ったぜ。」
……
………
「え?」
俺?
とつぜん俺?
俺がなに?
気に入ってもらえるような事あったやろうか俺。
さっきもせっかくお船乗せてくれるってゆうたのにお断りしてもうたし。
「乗ってけ乗ってけ。」
「ぬ?」
「お前も、忍も、明智光秀も乗ってけってんだ。」
「ええん!?」
まじで!
皆乗って行ってええの!
あにきさっきあかんってゆうてたのにええの!
ぬん、俺、しょうがないかなってもう諦めてたんやけど。
あにきも何か考えてるんかなって諦めてたんやけど。
ええの!
「真樹緒。」
「はい?」
「明智の野郎は、お前の大事な奴かい。」
「ぬん!」
だいじ!
ちょうだいじ!
俺の近江のお母さんすっごいだいじ!
だいすき!
一緒におりたいん。
離れるんは嫌なん。
やから、俺、明智の光秀さんと一緒にお船乗れるのすごい嬉しい!
「ありがとうあにき!!」
「いいって事よ。」
いい話聞かせて貰ったしなァ。
あの死神にそこまで言えるたァ大した奴だお前はよ。
笑いながらあにきは「野郎共に話をつけてくる」ってお船に戻って行った。
お船。
でっかいでっかい、俺が今までに乗った事も無いお船。
あれに乗せてくれるんやって。
すごい…!
俺はなんだかうずうず。
うずうずどきどき。
皆で乗せてもらえるんが嬉しくって。
「明智の光秀さんいっしょにお船乗ってもいいって!」
三人で乗せてもらえるよ!
やったね!
あにき、俺の知らん所で何や色々分かってくれたみたいやですごいね。
ほんまにありがとうあにき!
片手を上げて応えてくれるあにきにもう一回お礼をゆって明智の光秀さんを振り返る。
さっきまでびっくりした顔してた明智の光秀さんは今度は今日何回か目の呆れた顔でまたため息を吐いた。
ため息を吐いて右手で顔を覆って。
ゆっくりゆっくり首を振って。
「…もう、」
「ぬ?」
「もう、あなたに驚かされる事は無いと思っていたのですがねえ。」
崖から飛び下りたあれが最後だと思っていました。
私の役目もあれで最後だと思っていたのに。
私の意図を少しも酌んでいないあなたが少し恨めしい。
私は、ただあなたが無事甲斐に戻る事が出来ればそれでいいと言うのに。
明智の光秀さんが困った様に笑う。
照れてる様な、やっぱり困ったような、けど優しい顔で笑う。
「ぬん…」
ちょっと見たことの無い明智の光秀さんやで。
今までに見たことの無い明智の光秀さんやで。
俺は何だかお腹がほっこり。
胸がぽかぽか。
何か嬉しくなって。
「でも俺は明智の光秀さんと甲斐へもどりたいん。」
一人ででもなくて、こーちゃんと二人ででもなくて、明智の光秀さんと三人で。
やから、もうちょっと俺のわがままきいてね。
お母さんに甘えさせてね。
「おーいてめェら!早く来ねぇと置いてくぞ!」
「!!!」
あにきの声が聞こえたのと同時に明智の光秀さんの手を取った。
「真樹緒、」
「手ぇ繋ぐん。」
俺よりもおっきい手はちょっと固いけどいっつも俺を撫でてくれる手。
あったかくてとっても力強い。
「こーちゃん、こーちゃん、右手。」
「(こくり)」
「ぬん!」
明智の光秀さんとこーちゃんと、繋いだ両手を頭のてっぺんまで上げて、早くおいでってゆうてくれるあにきにお返事。
まっててあにき。
すぐにいくから。
俺ら三人ですぐにいくから。
俺と、こーちゃんと、明智の光秀さんでいくから。
「走ると転びますよ。」
「明智の光秀さんとこーちゃんがおるからへいき!」
やから暫くお世話になりますよろしくお願いします!
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アニキは本気で意地悪するつもりではなくて、ちょっと言ってみただけのいたずら心でした。
でもそのおかげで面白いものが見えてちょっとごきげん。
キネマ主はキネマ主なりに何だか色々考えているみたいです(笑)
でも言葉にするのはとっても難しくてあれがキネマ主の精一杯。
小太郎さんが嬉しそうなのは、自分の主凄いだろうえっへん!な気持ちだったからです。
主は自分には考えもつかない大きなことを考えておられる素晴らしい方なのだと小太郎さんが自慢げなのです。
(伝わっていないかもしれないのでここで補足…!)
やっとこ船へ乗る準備が出来ました。
次回はちょっと船上のお話入ってやっとこおシゲちゃん達のターンですお待たせしました大丈夫ちゃんとおシゲちゃん元気ですから…!
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