ほんなら。
ほんならどうしたら。
目の前には蘭丸君のお母さん。
その横っちょを逃げようにも絶対に捕まってしまうやろうし。
こーちゃんも明智の光秀さんも怪我してるから、できれば戦ってほしくは無いし。
後ろは海やし。
「………ぬ?」
やぁ、海。
後ろね、海なん。
ざっぱーんって波が打ち寄せてる海。
……
………
うみ。
「おれ、いいこと考えた。」
すごい。
すごい俺。
俺ちょういい事考えた…!
ぬんぬん。
俺らの後ろには海が広がってるん。
結構な高さの崖やけどね、ここ。
後ろは海なんよ。
うみ。
わかる?
海ってね、ちょう広いんやで…!
ってことでー。
「明智の光秀さん。」
「真樹緒あなた早く、」
「こーちゃん。」
「(……?)」
「おれいい事考えた。」
皆で助かる方法。
皆で逃げれる方法。
絶対成功すると思う。
俺じしんあるもん!
やからね、聞いて。
俺のおはなし聞いて。
「…真樹緒?」
「あのね!」
「(?)」
「三人で海に飛び込もう。」
……
………
「は?」
「ぬ?」
あれ?
よう聞こえへんかった?
ちょっとひそひそ声やったから聞こえやんかった?
ぬん、ほんならもう一回言うからね、しっかり聞いててね。
蘭丸君のお母さんに聞こえてしまうかもしれやんから。
そっと明智の光秀さんに近づいてもう一回繰り返す。
「三人でね、海に飛び込もう。」
こうどっぼーんって。
最近あったかくなってきたし、水温とかは大丈夫やと思うん。
ちょびっと崖は高いけど三人やったら俺がんばる!
やからほら。
「とびこもう。」
言ったら真剣な顔で前を向いてた明智の光秀さんがゆっくり俺を見た。
そしたら。
まれにみる明智の光秀さんのあきれ顔。
呆れてものも言えませんみたいな顔。
何言ってるんですかみたいな顔。
えー。
明智の光秀さん何でそんな顔するん。
何でそんなうさんくさそうに俺を見てるんきずつくやん。
おれすっごい本気なんやで!
「ほら、こーちゃんも何かゆうてあげて。」
俺、こんな緊張した雰囲気の時に冗談とか言うた事ないやんな!
「(…)」
……
………
「(………こくん、)」
「ほら!」
「…伝説の忍、あなたよくこれと主従を組んでいられますね。」
誰ですか。
この子をこんな風に育てたのは。
何なんですか。
今川での一件もこれが仕出かしたのですねええ、はい分かりますよ。
今なら分かりますよ。
あれは作戦などでは無く、この子の突拍子も無い思いつきだったのですね。
あの雪崩さえ。
そら恐ろしい。
誰ですかこの子をこんな風に育てたのは。
私その方と真剣にお手合わせ願いたい気持ちで一杯です。
「…あなたも大変苦労をしてらっしゃったのですね。」
称賛致します。
「(………)」
「え?何でこーちゃん?」
あれ?
俺とお話してたんやなかった?
ぬ?
何でこーちゃん?
「真樹緒。」
「う?」
「正気ですか。」
「へ?」
何が?
海に飛び下りる事?
やぁやぁ、もちろん正気の本気!
三人で飛び込めば怖くないと思うん。
海は広いし追ってこられへんと思うん。
明智の光秀さんとこーちゃんの手を握って、俺がいるから大丈夫やでって二人を見上げた。
そしたら明智の光秀さんはふかーい、ふかーい溜息を吐いて。
こーちゃんは俺の手を強く握り返してくれる。
「あなたには敵いません。」
「?なにが?」
「…いいえ、何も。」
明智の光秀さんが笑いながら左手に持ってた鎌を放り投げた。
おっきな鎌が草むらに消える。
それを見て蘭丸君のお母さんがびっくりした隙に。
「手を離してはいけませんよ。」
「わぁ!」
「(め を と じ て)」
俺はこーちゃんと明智の光秀さんに引っ張られるまま体がぐらっと傾いて。
目の前に広がるのは青い青いお空と白い雲。
あーこんなにいい天気やったんやーなんてそんな事を思ってるうちにこーちゃんの手で目を覆われた。
「っ光秀!!!」
蘭丸君のお母さんの声が聞こえる。
銃で撃たれてる音も聞こえる。
キンキン音がするのはこーちゃんがクナイでその弾を防いでくれているからで。
「真樹緒、息を大きく吸いなさい。」
「うい!」
多分もうすぐ海。
ごおおって風の音が耳元を過ぎて。
「あ、」
「…今度は何ですか。」
今更何を言っても後戻りできませんよ。
手を強く握っててくれる明智の光秀さんが小さく言う。
やぁやぁ、別にね。
そんな大した事ないんだけどー。
でもちょっと言うといた方がええかなーってゆうかー。
飛び込もうってゆうた張本人がこんな事言うのもあれなんやけどー。
あのね。
「俺、泳げやんの。」
もう水に浮く事すらできやんってゆうかー。
どうやっても沈んじゃうってゆうかー。
ぬん。
実はかなづちなんおれ…!
だまっててごめんね!
ぬーん!
……
………
「…」
「(…)」
「……」
「(……)」
「真樹緒、あなた無事だった暁には覚悟しなさいお説教です。」
「ぬーん!」
えええ!
なに!
おれ正直に言うたのになに!
武将な明智の光秀さんが最後の最後で近江のお母さんになっちゃって。
何だか怖い笑顔がちらっと横目で見たのを最後に俺の意識はぷつんって切れた。
ザッバーン!って思い切り飛び込んだ海の中は思ってたよりも冷たかったのは覚えてる。
しっかり握ってくれてた二つの手もちゃんと握り返してた。
大丈夫、大丈夫。
俺は泳げやん癖にたすかる気まんまんで。
後はかすがちゃんやさっちゃんが無事に逃げれてたらいいなって。
三人だけで逃げてごめんねって。
そんな事を思ってる内に俺の体は空を飛んでるみたいにふわふわ。
苦しい事もしんどい事も何にも感じやんまんまに意識が途切れた。
:
:
:
「アニキー!!」
「あァ?どうした野郎共!」
「あそこの島は無人島って奴じゃなかったっすかー!」
何か浜に人みてーのが倒れてんすよ!
「…仏さんかァ?」
最近海が荒れた事も無かったがなァ…
波も穏やかなもんだ。
こんな波でくたばるなんざ、よっぽど海を知らねー奴か阿呆かのどっちかだ。
「あ?あの銀髪、どっかで…」
「どうしやすかアニキ!」
「…はん、」
そう言やァ、最近魔王が飼い犬に手を噛まれたって噂を聞いたな。
そしてその飼い犬がまんまと魔王の手から逃れたってのも聞いた。
は!
面白ェ!!
「アニキ!」
「よーし野郎共!上陸だ!」
「「「オォォォォォー!!!」」」
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三章がやっとこ終わりました海に飛び込んじゃった!
色んな事の補完は間章にて。
そこで政宗様やら佐助さんやらかすがちゃんやら。
おシゲちゃんや小十郎さんも。
間章でフォローして四章からは瀬戸内四国編。
やっとこあにき達と仲良くできまする!
三章、最後までお付き合い下さいましてありがとうございました!
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